「モスクワ」撃沈にドローンが決定的な役割か

ロシア黒海艦隊の旗艦撃沈に、ラジコンの模型飛行機のようなドローンが決定的な役割を果たしていたことが分かってきた。

沈没したロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」
沈没したロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」
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米国防総省高官は4月15日、ロシア黒海艦隊の旗艦でミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナのオデーサ沖約120キロの海上で火災を起こし沈没したことについて「我々は彼ら(ウクライナ)がネプチューン(対艦ミサイル)2発を撃ち込んだとみている」と語り、ウクライナの攻撃説を確認した。

対艦ミサイル「ネプチューン」はウクライナが独自に開発し、昨年3月に同国海軍に納入したばかりの新鋭ミサイルで航続距離は300キロあり、沿岸の移動発射装置から攻撃したと考えられた。

対艦ミサイル「ネプチューン」(Defence Express HPより htttps://defence-ua.com)
対艦ミサイル「ネプチューン」(Defence Express HPより htttps://defence-ua.com)

「モスクワ」の防空システムを本当にかいくぐれるのか

しかしこれに対しては異論が唱えられた。

「モスクワ」は黒海周辺の防空指揮センターとしての役割もあって防空システムは完備しており、長距離に目を配るSA -N-6防空システムと短距離対応のSA -N-4 Geckoシステムで飛来する航空機やミサイルを発見すると対空ミサイルで対処すると共に、近距離まで接近した敵に対してはAK-630というレーダーで自動管制された6砲身の機関砲が6ヶ所に配備されている。

ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」
ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」

その二重、三重の対空防御網をかいくぐってウクライナのミサイルが命中したのは奇跡に近いとも言われた。

ウクライナ軍のドローンに気を奪われる間に…

この謎を解いたのは他ならぬロシア側だった。ロシアのSNSテレグラムの軍部に近いアカウント「Reverse Side of the Medal」が「モスクワ」沈没の経過を公表した。

それによると「モスクワ」はオデーサとミコライウ間の黒海を航行中、ウクライナ海軍所有のトルコ製ドローン「バイラクタルTB2」の攻撃を受け、巡洋艦の防空システムがそれに気を奪われている間に「ネプチューン」対艦ミサイル2発が陸上から発射され、左舷側に命中したという。

「バイラクタルTB2」Baykar Makina社YouTubeより
「バイラクタルTB2」Baykar Makina社YouTubeより

ドローンは「モスクワ」の位置をミサイルに知らせ誘導する「スポッター」の役割を果たしていたと考えられるが、同時に「囮」にもなってロシア側を混乱させたのかもしれない。しかし間もなくこれにも疑問が呈された。

「ネプチューン」に搭載されている強化火薬は約150キロで、排水量5000トンまでの艦船に打撃を与えることを前提に設計されており、排水量12500トンの「モスクワ」を撃沈させることはできなかったはずだというのだ。

すると、ツイッターで技術情報を収集するOSINTtechnicalに次のような書き込みがあった。

「ロシアの巡洋艦「モスクワ」にはP-500 Bazalt対艦ミサイルの発射管が16門外部に露出していることを考えてみてほしい。一門の重量は10600ポンド(約4800キロ)あり、そのほとんどは爆発物だ。何かがこの装置のどれに命中しても深刻な損害や“爆発”が起きる」

そのツイッターに添付された「モスクワ」の写真には、片舷8発ずつ対艦ミサイルの発射管が甲板上に露出して並んでいる部分が赤字で囲ってあった。

ドローンが果たした3つの役割とは

この指摘を受けて米誌「フォーブス」電子版は14日「ウクライナのバイラクタル・ドローンがロシア艦隊の旗艦「モスクワ」を沈めるのに寄与した」という記事を掲載した。

その記事は、ドローンにはMAM-1というレーザー誘導のごく小型のミサイルが4発搭載されていることに注目する。それを発射すると複数の超小型のミサイルはロシア艦のレーダーをかいくぐり、ミサイルの誘導を撹乱するチャフにもレーザー誘導なので影響されずに命中したのではないかというのだ。

MAM-1に搭載された爆薬は23キロほどで直接的には大きな損害を及ぼさないが、「モスクワ」の対艦ミサイル発射管に命中すれば大きな爆発を誘発することになる。

ロシア旗艦「モスクワ」の対艦ミサイル発射管
ロシア旗艦「モスクワ」の対艦ミサイル発射管

「これで、小型でも精密な兵器は大爆発をひき起こし、火薬と燃料を満載した標的を破壊することが証明できた」

フォーブスの記事はこう結論づけた。

「モスクワ」を最終的に沈没させたのがミサイルかドローンかは確認できないが、ドローンはその位置を特定し、「囮」になって相手を混乱させた上にその小型ミサイルで致命的な損害を与えたことが考えられるのだ。

全幅12メートルで100馬力のエンジンをつけたラジコンの模型飛行機のようなドローンが、大艦巨砲主義の遺物のような巡洋艦を屠ったとすれば、もはや20世紀の兵器は21世紀には通用しないことを象徴するような出来事だったとも言える。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。