改正少年法で罪を犯した18歳、19歳は「特定少年」となり、特定の犯罪で起訴されれば、実名報道される可能性がある。実名報道により責任を自覚させるべきなのか、それとも立ち直りのために保護すべきなのだろうか。

起訴されれば実名報道可能に

4月1日から施行された「改正少年法」。罪を犯した18歳、19歳を「特定少年」と規定し、少年法のもと、刑罰よりも教育による立ち直りを重視するものの、公開の刑事裁判となる罪が増えたほか、起訴されれば実名報道ができるようになった。

少年による犯罪で家族を失った人は、どのように考えているのだろうか。

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補導85回、保護観察中の少年が…

山内美輝さん(当時16歳)は2015年、自転車に乗っていたところを少年が無免許で運転するバイクに押されて止まれなくなり、踏切で電車に衝突して亡くなった。

山内美輝さんの母:
(美輝さんは)元気でいつも笑っていたね。明るいし、私にとったら理想の男の子でしたね

少年は補導された経験が85回、事件当時は保護観察中だったという。遺族は、事件の少年審判で加害者が口にした言葉を忘れることができない。

山内さんの母:
起きたことは仕方がないって(口にした)

その後、加害少年は刑事裁判で「傷つけようと思っていなかった」と主張したが、傷害致死罪が認められ、少年刑務所に入っている。

山内さんの母:
18歳で選挙権をももらえて、世間からは精神的にも体も大人としてみなしている。この名前で、この顔で、罪を犯しているのだから、公表すべきだと思います

山内さんの姉:
加害者の方も、捕まるまで8カ月の間ずっと、同じように無免許運転していて…。そもそも、自分は悪くないと思っているところがベースにあって。実名と顔を出されるっていうところで、多角的に自分がやったんだと、犯した罪の自覚になるのでは

事件に向き合わせるべき 適用年齢引き下げを求めた遺族

この少年法改正について、法務省の審議会で委員を務めた武るり子さん。1996年、長男の孝和さん(当時16歳)が見ず知らずの少年たちから暴行され、亡くなった。

少年による事件の被害者を代表して、少年法の適用年齢自体の引き下げを求めていた。

武るり子さん:
(審議会では)18歳、19歳でも救い上げないといけない。未熟な子がいるから、その子たちを何とかしないといけないから考えましょう、という空気でした。加害少年は知っているんですね。(少年法で)これぐらいで済むとか、顔が出ない名前が出ないと

保護を重視する委員たちと3年半の議論を重ねた末、刑事裁判となる罪の拡大と、起訴された時の実名報道の解禁に落ち着いたのだ。

武るり子さん:
(更生のためには)誰にどれだけ責任があるって、ちゃんと教えるべきだと思っているので。(事件に)向き合わせるべきです。犯罪を起こした少年には、特にちゃんと責任というのを教えるべき

立ち直りの「足かせに」 元少年院長の懸念

一方、少年院長を務めた京都産業大学の服部達也教授は、実名報道を認める今回の改正に疑問を持っている。

元少年院長・服部達也教授:
将来の改善、更生して立ち直りをして、平穏な社会生活をその後営んでいく上で、足かせになる。支障になる可能性は高いと思っています

服部教授は、「インターネットやSNSが発達した今の時代に実名を報道すれば、半永久的にそれが残り、社会復帰が難しくなる。再び非行に走る少年が増えてしまう」と指摘する。

実際、少年院を仮退院したあとに再び犯罪などで処分される少年は、仕事がある場合や学校に通っている場合は1割程度なのに比べ、無職の場合は4割以上となっている。

元少年院長・服部達也教授:
再犯を防止していく上で一番何が重要かというと、立ち直りのための社会復帰支援をどれだけ社会全体ができるのか、ということ。就労支援であるとか、そういった社会的支援をますます充実させる、そちらに向かうべきものだと思っています

実名報道は「責任自覚」か「足かせ」か

被害者だけでなく、加害者も減らしたい。武さんは依頼に応じて、社会に戻った少年の更生を支える保護司に被害者の現実を伝えている。

武るり子さん:
自分は真面目に一生懸命に生きてきたつもりだ。そして、大切に子どもを育てたつもりだ。それでも、一番大事な息子の命を奪われたわけです

講演を聞いた保護司は、「被害者のことを想像して話をすることが抜けていた」と話す。

保護司:
被害者の立場に立つことで、自分がしたことがどれだけ大きなことだったのか考えるでしょうし、また私が対象者と話をする中で、繰り返すことができる。それをすることが、本当の更生になっていくんだろうなと

民法では成人と規定されたものの、罪を犯しても少年法の枠組みの中で扱われる18歳と19歳。

実名公表が責任を負わせることになるのか、それとも立ち直りの足かせとなるのか。社会はどのように受け止めるのだろうか。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年4月1日放送)

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