新型コロナウイルスの感染が拡大するにつれ、一時、多くの小中学校で臨時休業などを余儀なくされた。この影響で児童生徒の学力が低下したように思われるが、実はそうでもないようだ。文科省の調査で、コロナ前とコロナ禍の小中学生の学力を比較したところ変化は見られなかったというのだ。

これは、文科省が2021(令和3)年6月に調査した全国学力・学習状況調査というもので、調査対象は小学6年生と中学3年生(小学校600校、中学校749校)。国語と算数・数学、英語(中学3年生のみ)で実施し、異なる年度の成績を比較できる項目反応理論(IRT:ItemResponseTheory)を用いて分析。国語と算数・数学の成績を、前回の2016(平成28)年度と比較した。(※英語は初調査のため、比較分析は次回実施)

小中学生の国語、算数・数学の学力はコロナ前と変わらず

その結果、国語については、小・中学校とも、学力の状況はコロナ前の平成28年度と令和3年度でほとんど変化は見られなかった。算数・数学については、平成28年度より令和3年度の方が若干学力が高い可能性もあるが、文科省は次回以降の結果も合わせて分析することが必要だとしている。

臨時休業やオンライン授業など、コロナ前と同じ形で授業ができなかったはずだが、児童生徒の学力を保つことができていたようだ。

小学校国語 学力スコア 累積相対度数分布(画像提供:文部科学省)
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こうした結果が出たわけだが、なぜ小中学生の学力はコロナ禍でも低下しなかったのか?文部科学省 総合教育政策局 調査企画課 学力調査室の担当者に詳しく話を聞いてみた。

学校が子供たちの学びの保障に懸命に取り組んだ

――この結果は意外だった?

今回の調査結果では、いずれの教科においても国全体としての学力状況に大きな変化はみられませんでした。これまでの各教育委員会及び各学校等における各種施策や指導改善の取組や、コロナ禍における各学校において、子供たちの学びの保障のために懸命に取り組んでいただいた成果として受け止めています。


――今回、分析に用いられた学力スコアって何?

この経年変化分析調査では、国際学力調査であるPISAなどでも採用されている項目反応理論(IRT: Item Response Theory)という測定理論を用いて、難易度等がそろえられた問題に対する児童生徒の解答データをもとに、国全体の状況を精緻に推定した学力分布です。具体的には、各問題の難易度等を推定した後、平均が500、標準偏差が100となるように変換して測定尺度を確定した上で、実際の学力スコアの分布をその尺度に基づいて測定したものとなっています。


――学力スコアの図から、学力の変化はどう読み取れる?

学力スコア(累積相対度数分布)を見ると、国語については、令和3年度の学力スコア分布の状況は平成28年度と比較してほとんど変化が観察されていません。

また、算数・数学については、令和3年度の学力スコア分布は基準である平成28年度の学力スコア分布の右側に(全体的にみて学力スコアが高い方へ)若干移動していることが観察でき、国全体でみれば若干学力が向上しているとも解釈できますが、次回(令和6年度予定)以降の結果もあわせてみていくことが必要であると考えています。いずれにしても、国語・算数・数学のいずれの教科でも児童生徒の学力低下は見られませんでした。

※累積相対度数分布…:各学力スコアに属する人数の割合を加算して示したもの

中学校数学 学力スコア 累積相対度数分布(画像提供:文部科学省)

学校は土曜日の活用、補習を実施

――コロナ禍で小中学生の学力が低下しなかった理由は、どんなことが考えられる?

文部科学省としては、専科指導の充実等を通じて学習指導要領の着実な定着を図ってきていることや、コロナ禍で、国・教育委員会・学校が児童生徒の学びの保障に向けて様々取り組んできたことなどがこうした結果につながっているのではないかと考えています。


――臨時休業の期間で、学校は学力低下を防ぐためにどんなことをしていたの?

昨年8月に公表した全国学力・学習状況調査の結果からは、臨時休業期間中、各学校等においては、様々な手段により、児童生徒の学習状況や生活状況の把握等を行っていたことが分かっています。

また、臨時休業期間後の取組として、多くの学校では学習の定着が不十分な児童生徒の把握や、長期休業期間の短縮、土曜日の活用、補習の実施等を行っていました。特に休業期間が長い学校ほど、様々な手段を講じて児童生徒の学びを保障するための様々な取組がなされていたことが明らかになっており、学校が懸命に取り組んでいただいていたことがデータからも分かります。


――そのことが効果的だった?

本調査の結果のみから要因を断定することは難しいですが、コロナ禍でのこうした各学校における取組が、全体として、学力低下がみられなかったという結果につながっていると考えています。

※イメージ

学力が高い層、低い層でも傾向は同じ?

――学力が高い層、低い層、それぞれの層についても傾向は同じ?

平成28年度と令和3年度の25パーセンタイル及び75パーセンタイルの学力スコア値の差をみても、学力が高い層、低い層のいずれにおいても、概ね国語、算数・数学のいずれの教科においてもスコア値が上昇しています。

※国語の学力スコアの平均は、平成28年度との比較で「小学校は変化なし」「中学校で3.1ポイント上昇」
※25パーセンタイル…学力スコアを小さい方から並べ、全体の下位25%に位置する児童生徒の学力スコア
※75パーセンタイル…学力スコアを小さい方から並べ、全体の上位25%に位置する児童生徒の学力スコア

中学校国語 学力スコアの標本統計量(画像提供:文部科学省)

――国語に比べると、算数・数学は、学力がアップしているともいえる?

今回の調査結果から、平成28年度と令和3年度を比べると、学力スコアの平均が、小学校算数で5.2ポイント、中学校数学で9.0ポイント上昇したことが分かっています。他方、IRTを用いた学力スコアの経年比較分析は今回初めて実施し、まだ2回分のデータしかないため、中長期的な観点から学力が向上しているかどうかについては、次回以降の結果も踏まえてみていく必要があります。


――この結果は今後、どのように生かされる?

今回の調査結果では、いずれの教科においても国全体としての学力状況に大きな変化はみられず、各教育委員会及び各学校等における各種施策や指導改善の取組の一定の成果として受け止めています。文部科学省としても、引き続き、児童生徒の学びの保障のための各種施策の充実に努めたいと考えています。また、次回以降の調査結果も併せて国全体の学力の変化について把握・分析を行い、その結果を踏まえて国の教育施策の検証・改善につなげていきたいと考えています。


――今後、学力を向上させるためにはどうしていけば良い?

これからの時代を生きる子供たちには、予測困難な社会にあっても、変化を前向きに受け止め、社会や人生・生活を、より豊かなものにするために必要となる資質・能力を育んでいくことが重要です。このため、全国的な教育課程の基準である学習指導要領では、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で整理した資質・能力を、「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」などを通じてバランスよく育成することとしています。

全国学力・学習状況調査の結果では、例えば「授業では、課題の解決に向けて、自分で考え、自分から取り組むことができていると思いますか?」という質問に肯定的に回答した学校ほど平均正答率が高い傾向が見られるなど、主体的・対話的で深い学びを意識した授業と学力の相関が見られます。

文部科学省では、こうした学習指導要領の各教育委員会・学校への周知や、授業改善に資する情報提供を行い、また、教職員研修の充実を図っています。さらに、GIGAスクール構想による小中学校の児童生徒への一人一台ICT端末の整備や小学校における教科担任制の推進、35人学級の計画的な整備などに取り組んでいるところです。引き続き、これらの取組を推進していく中で、子供たちの学力向上に向けた取組を支援していきたいと考えています。

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コロナ禍でも学力低下がなかったのは、臨時休業期間中や休業期間後に各学校が学習の定着が不十分な児童生徒の把握をしたり、補習の実施など懸命な取り組みにあった。これからも、withコロナに対応した子供たちの学力向上に向けて頑張ってほしい。

記事 4300 プライムオンライン編集部

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