東日本大震災から11年。津波から災害弱者の命を守る「津波フラッグ」の導入が進められている。

津波による聴覚障害者の死亡率は2倍

1万8000人以上の死者・行方不明者が出た東日本大震災の発生から11年。犠牲者の死因の実に9割以上は、津波による溺死だった。

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ライフセーバー・尾田智史さん:
自然の脅威をまざまざと見せつけられて、それと同時に、自分たち人間の無力さっていうのを突きつけられた

被災地で行方不明者の捜索を行った尾田さん
被災地で行方不明者の捜索を行った尾田さん

大分県のライフセーバー・尾田智史さんは、東日本大震災の発生直後、福島と岩手の被災地に入り津波にのまれた行方不明者を海上で捜索した。

ライフセーバー・尾田智史さん:
カキの養殖用いかだが津波によって漂流して、堆積している状態だったので、そういったがれきの中に行方不明者がいないかとか、水上オートバイを使ってがれきを少しずつかき分けて捜索していく活動を行いました

被災地での活動中、尾田さんは海での犠牲者に関するある情報を耳にした。

ライフセーバー・尾田智史さん:
聴覚障害者の死亡率が、聴覚障害のない方と比べて2倍だったと。それだけ聴覚障害の方が津波で多く命を失っているということに衝撃を受けた

多くの聴覚障害者が津波の犠牲となった
多くの聴覚障害者が津波の犠牲となった

大地震の発生後、各地で行政防災無線が何度も流されたが、聴覚障害者や海岸付近にいた人にその音が届かず、避難の呼びかけが伝わらなかったというのだ。

避難の合図「津波フラッグ」 課題は認知度

その教訓を生かすため、気象庁は「命を守る旗」の導入を決めた。

【気象庁の動画より】
津波フラッグは避難の合図です。この旗を見かけたら直ちに海から離れ、高い場所に避難してください。津波警報などが発表された時、ライフセーバーなどがこの旗を振ってお知らせします

【気象庁の動画より】
聴覚に障害のある方、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方などにも視覚的に伝わるよう、2020年6月から運用が始まりました。建物から旗を掲げることもあります

佐賀県唐津市は、2020年にこの旗を使って海上のレジャー客などに避難を呼びかける訓練を実施。

大分県では、気象台と県ライフセービング協会の理事長を務める尾田さんが中心となって、海水浴場からの避難に「津波フラッグ」を活用する協定が結ばれ、旗の認知度は徐々に上がりつつある。

しかし、福岡で旗について聞いてみると…。

――どういう時に使われるか知っていますか?

福岡県民:
いや、分からない

――この旗を見たことはありますか?

福岡県民:
ないです。東北の方と比べると、九州の人間ってちょっと甘いかもしれないですね

日本海に面する福岡では、今後30年以内に太平洋側で起きるとされる南海トラフ地震への警戒感が高いとは言えず、「津波フラッグ」の認知度もまだまだ低いのが現状だ。

4m超の津波予想も…1秒でも早い避難を

しかし、日本海側でも直下型地震などによって、大きな津波が起こる可能性はある。

災害リスクマネジメントを専門とする九州大学の杉本准教授は、福岡県内で8つ確認されている断層の中で、玄界灘から朝倉市に至る「西山断層」に特に注目している。

福岡県内で確認されている8つの断層
福岡県内で確認されている8つの断層

九州大学・杉本めぐみ准教授:
国の想定で、西山断層で大きな地震が起きた場合、2分間で4.2メートルの津波が福津市、宗像市、岡垣町まで届くと言われています

福津市、宗像市、岡垣町で4m超の津波のおそれ
福津市、宗像市、岡垣町で4m超の津波のおそれ

九州大学・杉本めぐみ准教授:
さらに深刻なのは、津波が起こる地震というのは30秒以上揺れ続ける可能性が高いので、30秒身を守るために待っていたら、(残り)1分30秒という短時間できちんと安全を確保する避難をできるのか。私は大変、心配しています

福岡も津波の可能性とは決して無縁ではない。

九州大学・杉本めぐみ准教授:
4メートルの津波というのは、高さが3階建て以上の建物を見つけておく必要があります。そういったものを事前にどこにあるか知っておかないと、2分の間にそれを見つけて、そこに逃げるのは難しい

福岡県春日市にある聴覚障害者センターは2021年、太田事務局長が旗振り役となって、津波フラッグを紹介するイベントを開催した。

福岡県聴覚障害者協会・太田陽介事務局長:
現場の海には津波警報があると思うんですけど、音ですから聴覚障害者は分かりません。聞こえない人にとって、釣りが好きな人もたくさんいる。そういったところで旗を振ってもらえれば、役に立つだろうという話をしました

しかし、福岡県内でこの津波フラッグを導入し積極的に普及や啓発活動を行っているのは、60の自治体のうち現在、福岡市と北九州市のみだった。

東日本大震災から11年。まだまだ災害弱者などの命を守る取り組みが十分とは言えない。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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