人気の日本酒「獺祭(だっさい)」の蔵元・旭酒造(山口県岩国市)が2月17日、2022年・23年に製造部に入社する大卒新入社員の初任給を上げると発表した。
 
従来の月額“21万円程度”から“30万円”となり、9万円程度の大幅な引き上げだ。

旭酒造の日本酒「獺祭」(提供:旭酒造)
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旭酒造は今年、「5年で平均基本給を2倍」を掲げ、2026年度の製造部の給与を、2021年度比の2倍以上を目指すプロジェクトを開始。

そのために初任給と既存社員の給与について、2026 年まで、段階的なベースアップを実施している。今回の大卒初任給の引き上げも、このプロジェクトの一環だ。

特に“職人”といわれるような職種は、新人の頃は見習いとして給料も抑えられているイメージがあるが、初任給が上がることは就活生には嬉しいことだと思う。しかし旭酒造はなぜ今、このタイミングで、大卒初任給の大幅アップという決断をしたのか?

旭酒造の担当者に決断の理由を聞いた。

職人にきちんと報いる仕組みを具体化したい

――製造部の大卒新入社員の初任給を30万円に引き上げる理由は?

現在130名の製造社員で酒造りをしていますが、今後さらに、品質向上と技術的挑戦を続けるために、今後3年間で100名超を採用したいと考えています。

山口県の過疎化が進んだ山奥にある酒蔵で新たに100人の志が高い人に来てもらうためには、十分な報酬を提示することが必要と考え、まず、30万円に引き上げました。

2023年以降、さらに初任給を引き上げる予定です。


――初任給を引き上げる背景は?

酒の美味しさ、品質を支える手間、そしてその手間をかけて、酒造りをする職人にきちんと報いる仕組みを具体化したいと考えています。

一握りの成功者が富を独占し、その他大勢の労働者が低賃金労働を余儀なくされる、現代の二極化が進む資本主義には問題があり、IT技術やグローバル化でその状況が一層、深刻化すると言われています。

そのような中、一見、非効率に見える「手間」をかけた高品質なモノづくりが評価され、その価値を生み出した職人達に適切な報酬が還元される仕組みは、この構造的問題の解決策になると考えています。

旭酒造の発酵管理(提供:旭酒造)

現在、獺祭は、130名の製造部員で酒造りをしており、雑誌『dancyu』の2022年3月号の記事によると、日本の酒蔵で最多とのことです。

他の酒蔵と比べ、多くの人員を配置していますが、その手間をかけた結果、生まれる高品質な酒を、価値を理解していただけるお客様に適切な価格で飲んでいただき、その売上を初任給、および既存社員の給与を引き上げることで社員に還元する仕組みを作りたいと考えています。

また、2021年9月期には、「獺祭」の輸出額が国内を超えました。海外で日本酒がラグジュアリーな飲み物として認知が広がっている中で、今後、酒の品質やブランドに対して、より厳しい目にさらされると見込んでいます。

そのような中で、酒造りの品質を常に高め、技術的な挑戦を続けるためには、製造メンバーが誇りを持って働く環境が必須です。

引き上げの対象は製造部のみ

――引き上げ前の初任給「21万円程度」について。21万円ではなく、21万円程度の理由は?

2021年が21万5000円、2020年が20万9000円であったため、21万円程度と記載しました。


――初任給の引き上げの対象は、製造部の大卒新入社員だけ?

基本的に製造部の大卒新入社員だけです。モノ作りに関わるメンバーの処遇をきちんと上げることで、日本のモノ作りをより進化させたいと思っています。

麹づくりをする手(提供:旭酒造)

――製造部以外にはどのような部署があり、その部署の新入社員も募集している?

製造部の他に、人事総務部、営業部、財務部などがあります。製造部以外は新卒採用をしておらず、一部は中途採用の募集をしています。特に今後3年で100名を採用するにあたり、人事総務部では経験者を募集中です。

製造部は体力が必要な仕事

――製造部の仕事内容を教えて。

獺祭の酒造りの工程である、「精米」「洗米」「蒸米」「製麹」「発酵管理」「上槽」「瓶詰」「出荷業務」などです。

 
――製造部の仕事は、他の部署に比べると過酷?

体力が必要な仕事であることは間違いありません。例えば、「洗米」は、一袋20キロほどの米を5度程度の冷たい水で、一日中、洗い、浸漬(=漬けて浸すこと)させる工程で、一日最大10トンの米を数名で洗うため、体力が必要な仕事になります。

麹を作る「製麹」のチームは、38度前後の部屋で、一日中、米を運び、広げて水分調整をし、麹菌を繁殖させる作業をするため、多量の汗をかき、5回ほど、シャツを着替えることになります。

旭酒造の麹室(提供:旭酒造)

こういった環境の中で、細部にこだわり、少しでも良いものを追いかけ、美味しい酒を実現する製造部は旭酒造で“一番の花形部署”と位置づけています。今回、製造部の処遇を引き上げる目的も、そこに報い、挑戦の後押しをしたいからです。

新入社員の給与は2年目以降も上げていく

――初任給は30万円で、その後、給与は上がっていく?

既存社員の基本給を5年で倍にするという目標に向けて、段階的に上げていきます。また、初任給についても既存社員とのバランスを見ながら来年以降も上げていく予定です。


――昇給の上限はある?

昇給の上限はございます。上限を設けている理由としては、20代、30代の若くて、お金が必要な人材を手厚く評価したい、という意図があります。

「獺祭」のテイスティング(提供:旭酒造)

――今回の初任給引き上げについて、社員からはどのような意見が出ている?

様々な意見が出ていますが、前向きな声が多いと感じています。長期的に成果を出した社員には、今の2倍を大きく超える給与水準を実現できるように、酒の品質とブランドを高めていきたいと考えています。


今回の取材で印象に残ったのは、「手間をかけた結果、生まれる高品質な酒を、価値を理解していただけるお客様に適切な価格で飲んでいただき、その売上を初任給、および既存社員の給与を引き上げることで社員に還元する仕組みを作りたい」という言葉だ。

旭酒造の決断をきっかけに、手間をかけた高品質なモノづくりが評価され、その価値を生み出した職人の方々に適切な報酬が還元される仕組みが広がることを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。

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