北京オリンピックの公式マスコット「ビンドゥンドゥン」の人気が中国で爆発的な人気となり収まる気配がない。実際にビンドゥンドゥンを買うことができる北京市内のオフィシャルショップに行ってみると、そこには人気テーマパークのアトラクション以上の大行列ができていた。オフィシャルショップは午前9時半の開店だが行列の先頭に並んでいた人に話を聞くと、なんと前日から徹夜して並んでいたという。開店直後の現場では店内に早く入りたい客と警備員のあいだで小競り合いも起きていた。
![北京市のオフィシャルショップには大勢の客が詰めかけ大混乱](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/700mw/img_4b012692334d84926d725c53af103dea92228.jpg)
開幕前の店内は閑古鳥・・・ 当初は話題にもならなかったビンドゥンドゥン
しかし、オリンピック開幕前のビンドゥンドゥンの評価は高いとは言えず、むしろ話題にもなっていなかった。私がオリンピック開幕前にこの大行列ができているオフィシャルショップを訪れた際は客の数よりも店員の方が多く、店内の棚にはビンドゥンドゥンの人形は山積みになって並んでいた。
中国の地元メディアによると、オリンピック開幕が迫ってもビンドゥンドゥンなどの公式グッズの売れ行きは伸びず、販売店の多くは在庫の補充をしないまま春節の大型連休に入っていたという。しかし2月4日に開幕すると突然人気に火が付き、担当者らは在庫の対応に追われるようになった。
![春節の期間中に中国・広東省の工場で急ピッチで生産されるビンドゥンドゥン](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/f/700mw/img_affc004df72e3c800bc391cc94c2164e104783.jpg)
中国で最も重要な「春節」(旧正月)の大型連休返上で工場をフル稼働
2月6日、北京オリンピックの組織委員会は品切れが続いていた公式グッズに関して 「増産する」と会見で語った。これを受けて中国の福建省や広東省などの工場では長期休暇に入っていた従業員に特別ボーナスを支給して呼び戻し、工場を急ピッチで再稼働させた。販売担当者は「ビンドゥンドゥンを通して中国の文化を世界に理解してもらうことができる」と語った。
![ネット上で販売されるビンドゥンドゥンの偽物商品](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/5/700mw/img_15c2954149c1930f3d8523754cb4a201322874.jpg)
様々な形で“誕生”するビンドゥンドゥン
ネット上では買いたくても買えないビンドゥンドゥンが様々な形で現れた。中国・浙江省の美容院では髪型をビンドゥンドゥンにする男性も現れた。また有名なクラシック音楽の曲にビンドゥンドゥンを買いたくても買えない消費者の思いを歌にしたものや、ビンドゥンドゥンが冒険するゲームも誕生した。一方、多くの偽物やビンドゥンドゥンを売りますと言って代金を振り込ませ別の商品を送る詐欺事件も発生した。こうした事件に対して地元警察は迅速に対応し、これまでに複数の関係者を逮捕している。
![販売詐欺の容疑者を拘束(中国・江蘇省の警察当局公式 SNS より](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/9/700mw/img_0927dbb8ba26592335296976de0ca8c5160004.jpg)
![春節限定バージョンのビンドゥンドゥン 公式ネットショップより](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/3/700mw/img_03c88b680cf1469b9071b41e95feb5ff145374.jpg)
春節限定バージョンのビンドゥンドゥンは一瞬で売り切れ・・・
通常のビンドゥンドゥンが購入できない中で「春節特別版のビンドゥンドゥン」というプレミア版が2月9日にネットで限定販売された。値段は日本円にして約3200 円で午後4時から午後10時まで1時間ごとに限定1000個、合計6000個が販売されるというものだったが発売開始時間から1秒も経たないうちに全て売り切れとなった。
![横に並ぶのは汪文斌(おうぶんひん)報道官 2 月 15 日撮影 中国外交部より](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/700mw/img_f1e252003e192d3e8b20fba6d8517520163755.jpg)
こんな場所にもビンドゥンドゥンの姿が・・・ スポーツを政治利用しているのは誰?
オリンピックが開幕して10日が過ぎた2月15日に意外な場所にビンドゥンドゥンが現れた。それは時に厳しい言葉でアメリカや日本など諸外国を非難することもある中国外務省の会見室の入口付近だった。これを見た外国人記者は「まさかこんな場所でビンドゥンドゥンに会えるなんて・・・」と一瞬戸惑いながらも多くの記者は笑顔で写真撮影をしていた。私はこれを見て普段、中国に対して厳しい論調で記事を書く可能性がある外国人記者に対してある種の「懐柔策」としてこの“人気者”を利用しているように感じた。
オリンピック開幕前、欧米諸国が「外交的ボイコット」を相次いで表明した際、記者会見を行っていた報道官は「オリンピックを政治利用するべきでない」と何度も強い口調で非難していた。しかし「スポーツを政治化するな」とアメリカなどを批判していた中国が今はビンドゥンドゥン人気をしたたかに利用し、まさに「政治の舞台にスポーツ(ビンドゥンドゥン)を持ち込んでいる」状況である。
北京オリンピックの閉幕まであと2日。オリンピックが終了すると3月5日からは中国の国会に当たる全国人民代表大会、通称「全人代」が開催され、秋には習近平主席の共産党トップとして異例となる3期目以降の続投をにらんだ共産党大会と重要な政治日程が続く。習主席が今回の「ビンドゥンドゥン人気」も含め、オリンピックの成果を国内外にどうアピールして政治利用していくのか注目したい。
【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】