北京冬季オリンピックで、日本の金メダル第1号となった小林陵侑選手。ジャンプ日本勢の金メダルは、長野オリンピック以来、24年ぶりとなります。悲願の金メダルの瞬間を現地で見守っていた、小林選手の師匠でもある葛西紀明さんに金メダルの舞台裏、小林選手の強さの秘密について聞きました。

24年ぶりの快挙 金メダルの裏には師弟の絆

師匠と弟子、2人でつかんだ金メダル。レジェンドの教えとはどのようなものだったのでしょうか。

決勝が行われる直前の公式練習に小林選手の姿はありませんでした。

葛西紀明さん:
トライアル(試技)っていうのはリラックスして飛べるんですよ。試合と違って。リラックスして飛んだら良いジャンプをして1位になってしまうかもしれないです。そうなると1位ということで、本番にプレッシャーがかかってしまうのと、トライアルを入れて3本飛ばなきゃならないってことは、3本分集中力をもたなきゃならないんですよ。でも、トライアルを飛ばないことによって2本だけに集中できる。そういう意味もこめて試技は飛ばないと。そういう選択をしたと思います。

あえて本番前のトライアルジャンプを飛ばないという作戦。

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小林選手は不利な追い風ながら、一本目から104.5メートルのビッグジャンプをみせました。これを見た葛西さんは…

葛西紀明さん:
力も入ってなかったですし、トライアルを飛ばなかったというのが効いてますね。集中して失敗のない完璧なジャンプだったと思います。トライアルを飛ばないという勇気と作戦、それを実行できた、それがすごいですね。

小林選手の大胆で勇気あふれる作戦に、いきなりのビッグジャンプ。

実は、このトライアルジャンプをあえて飛ばない作戦は、葛西選手の名前をもじった「ノリ作戦」。所属チームの監督でもある葛西選手がよく用いる作戦だったのです。そして、臨んだ二本目のジャンプ。

実況:
小林、金メダルへのジャンプ飛んだ!少し揺れて!決まった!見事なジャンを見せました小林陵侑!99.5メートル!小林陵侑金メダル!北京オリンピック日本勢金メダル第一号!24年ぶり日本ジャンプ金メダルです。

プレッシャーをはねのけ、見事手にした金メダル。小林選手は師匠の元へ。

葛西紀明さん:
一本目、すごいジャンプをしてから涙がでそうになって。めっちゃこらえた。今どんな気持ち?

小林陵侑選手:
信じられないです

金メダリストとなった弟子との対面を果たした葛西選手は…

葛西紀明さん:
金メダルが決まった瞬間、僕も頭が真っ白になりましたし、陵侑もそういう気持ちだったと思います。本当に嬉しいです

歓喜に沸いた金メダル。改めて喜びを噛みしめました。小林選手が金メダルを獲得した瞬間、涙ぐむシーンが印象的だった葛西さん。愛弟子の小林陵侑選手が目の前で金メダルを獲得、その瞬間の気持ちはどうだったのでしょうか。

葛西紀明さん:
嬉しすぎて涙がちょちょぎれる…今、思ってもまた涙が出そうなぐらいずっと感動しっぱなしです!

では、小林選手の勝負を分けたポイントはどこにあったのでしょうか。

“師匠”葛西紀明が小林陵侑 強さのヒミツを解説

葛西紀明さん:
すっと調整はよかったので、後はプレッシャーとの戦いかなっていうのがあったんですけど、やはりトライアルラウンドを回避して、2本のジャンプに集中したというところではないでしょうか。

追い風で他の選手の失速が見られる中、なぜ、小林選手は飛距離をのばせたのでしょうか。

葛西紀明さん:
元々力強いジャンプ、そしてスムーズなジャンプ、ワールドカップでは負けないといった感じだったのですが、後半戦は少し疲れていて成績は若干落ちていたのですが、オリンピックにきてからはまた絶好調を取り戻して、昨日の試合で追い風じゃなく、いい条件の向かい風がきていたとしたら、ダントツにトップ、金メダルを取ったと思います。陵侑は人一倍バランス力があって、どんな時にも対応できる。そういう所が強みだと思いますし、風に負けないジャンプが本当に出来上がっていると思います

「富岳」が分析 小林選手の“ジャンプ力”

風に負けないジャンプ力があるという小林選手。このジャンプについて、スーパーコンピューターの富岳が分析をしています。

こちらは小林選手がジャンプ台を飛んだあとの選手周りの空気の流れを示したラインが描かれています。

他のジャンパーと小林選手のジャンプを比較してみると、小林選手の方が背面の気流の乱れが少なく、背中からの圧力が小さいので上向きに力が作用(浮上しやすい)といいます。

小林選手のジャンプについて、葛西紀明さんはこう話します。

葛西紀明さん:
スキーが空中で立たないというか、スキーが立ってしまうと、風が当たってしまってブレーキがかかります。それがスキーが立たない。そして、体の飛型がくの字に曲がっている。これが気流がよくなって、前に進んでいく力がよくなります。これは陵侑だけしか持っていないスタイルだと思います。

大活躍を見せた小林選手ですが、今後もメダル獲得の可能性が。7日の混合団体や11日(金)、12日(土)男子ラージヒル、14日(月)男子団体など3つのメダル獲得が期待されます。

(めざまし8 2月7日放送)