北京オリンピックの開会式直前、アメリカ議会では中国の人権侵害に関する公聴会が開催された。参加した議員らは口々に、オリンピックの華やかさの裏に、人権侵害があることを忘れてはならないと訴えた。また、オリンピックに参加する選手達に対し、中国批判をすれば、拘束される恐れがあるとして注意を呼びかけた。

「オリンピックの裏にある本当の話から目をそらすな」

「中国政府と共産党が世界に見せたい顔。オリンピックの華やかさの裏に、本当の物語がある。この委員会は、中国の本当の人権状況に光を当てるために存在し、オリンピック精神を曲解し、本当の話から目を逸らすことを防ぐものだ」

北京オリンピックの開会式まで、すでに24時間を切った2月3日、アメリカ議会の上下両院によって構成される、「中国に関する連邦議会・行政府委員会」の公聴会が開催された。冒頭に発言したジェフ・マークリー委員長(民主党)は「オリンピックの華やかさの裏に本当の物語がある」と指摘。中国による「大量虐殺、奴隷労働、香港での民主主義の冒涜、新疆とチベットでの抑圧、民主活動家の投獄、宗教、言論の自由の抑圧から目をそらしてはならない」と強調した。

「中国に関する連邦議会・行政府委員会」ジェフ・マークリー委員長
「中国に関する連邦議会・行政府委員会」ジェフ・マークリー委員長
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さらに、ジム・マクガヴァン共同委員長(民主党)は、「大量虐殺や人道に対する罪を犯している国で競技をしたいと思うアスリートはいない」と声を荒らげた。また、IOC(国際オリンピック委員会)やオリンピックのスポンサー企業が、中国での利益獲得を優先して、中国の人権侵害に目をつぶっているとし、「これは間違っている。この状況を変えなければならない」と訴えた。

「この状況を変えなければけない」と訴えるジム・マクガヴァン共同委員長
「この状況を変えなければけない」と訴えるジム・マクガヴァン共同委員長

「中国の人権について沈黙することはできないし、するつもりもない」

公聴会には、中国の人権状況を理由に、北京オリンピックでの首脳や政府関係者の参加を見合わせる「外交的ボイコット」を訴えて続けてきた、ナンシー・ペロシ下院議長も出席。次のように発言した。
「北京オリンピックがあす始まると、中国政府は再び数十年にわたる虐待と弾圧のキャンペーンから世界の目をそらそうと試みます。アメリカと国際社会は、真実を知っている。もし私たちが商業的利害のために中国での人権侵害に対して声を上げなければ、どこの国でも人権侵害に対して声を上げる道徳的権威を失うことになる」

ペロシ氏は、アメリカの外交的ボイコットに同調した、イギリス、カナダ、オーストラリア、ベルギーなどの国に対して「誇らしく記憶する」と謝意を示した。ちなみに、この時に日本の名前は挙げられていない。

こうした、厳しい批判に加えて、ペロシ氏はオリンピックに出場する選手達に対して注意も呼びかけた。
「私たちはアスリートを全面的に支持し、応援していく一方で 中国の人権侵害について沈黙することはできないし、するつもりもない。私は選手たちに言いたい。中国政府の怒りを買うようなリスクを冒してはならない。彼らは冷酷だからだ。皆さんが競技に参加している間、議会は中国の人権を守り、中国政府の責任を追及するために、超党派で大胆な行動を取り続ける」

選手に冷静な行動を呼び明けるナンシー・ペロシ下院議長
選手に冷静な行動を呼び明けるナンシー・ペロシ下院議長

IOCでは2021年、五輪憲章の一部を緩和し、選手が政治や社会問題で自身の信条や主張を発信することを認めた。一方、中国側は「中国の法律や規則に反する行為は処罰の対象」としていて、中国批判をした選手らは、拘束されるケースや、身体に危害を加えられるリスクにさらされている。

女子テニス「彭帥さん問題」は中国政府のプレイブック通り

公聴会には中国の人権侵害に反対する「China Change(チャイナ・チェンジ)」の創設者である曹雅学(Yaxue Cao)氏のほか、「雨傘運動」にも参加した香港の民主活動家で、イギリスに亡命したネイサン・ロー氏、新疆ウイグル自治区での人権弾圧や強制労働の実態を告発するジュエル・イラム氏、中国の刑務所に監禁され、不可解な死を遂げたチベットの高僧テンジン・デレック・リンポチェ氏の親族も出席した。

曹雅学氏は、中国の元副首相に性的関係を強要されたと告白後、一時消息不明となった同国の女子テニス選手、彭帥さんについて「中国の扱いは、検閲、性的暴行疑惑の否定、協調的な宣伝活動、そしてテレビでの告白の演出という、おなじみのプレイブックに沿ったもの」だと批判し、一連の事件は明確なパターンに基づいた脚本に沿っていると指摘した。

また、日本政府も注意を呼びかけている北京五輪参加者に対する中国の健康管理アプリについては「選手は、このアプリを通して綿密に監視され、24時間365日、休む暇もありません。もし何人かの選手が(中国政府に対する批判の)声を上げれば、彼らは多くのリスクを背負うことになります」と警鐘を鳴らした。

女子テニス選手の問題について語る「China Change」の創設者 曹雅学氏
女子テニス選手の問題について語る「China Change」の創設者 曹雅学氏

ウイグル人女性「私はリビングルームに盗聴器を仕掛けられ育った」

また、公聴会では中国の新疆ウイグル自治区での現状についても多くの時間が割かれた。

ジュエル・イラム氏の父はウイグル人の学者で、ウイグル族と漢族の溝を埋めることに尽力してきたが、逮捕され終身刑の判決を受けた。ウイグル自治区の実態や、子ども達がどういう扱いを受けているのか、議員からの質問が及ぶと、次のように語った。

「人々は家の外で自由はなく、家の中でも自由はありません。私はリビングルームに盗聴器を仕掛けられて育ちました。ショッピングモールでは中国の警官に付きまとわれながら育ちました」

さらに、親が逮捕や拘束された場合に、子ども達の教育にも大きな影響が出ているという。「両親が拘束された子どもたちの多くは、孤児院や、少し大きくなればある種の寄宿学校に送られます。中国共産党による洗脳は、これらの寄宿学校で行われています。学校では中国語を学びますが、中国語を話すことだけでは許されません。彼らは中国料理を食べ、中国人のような服を着て、中国の歌を見て、中国の詩を学びます。これは、元抑留者や収容所の生存者の証言から知りました」

新疆ウイグル自治区について語るジュエル・イラム氏
新疆ウイグル自治区について語るジュエル・イラム氏

中国の現実とは…「メディアが目をつぶれば悲劇だ」

前述のマクガヴァン共同委員長は一連の話を聞いた後、「最後に言いたいことは、『言葉ではない』ということです。オリンピック委員会がオリンピックを中国で開催するという決定について、私の気持ちを表現するには、辞書に載っている悪い言葉だけでは足りない。うんざりだ」と吐き捨て、行動を呼びかけた。

米中の対立が激しさを増すなかで、アメリカ議会が北京オリンピックの開催日に狙いを定めてぶつけた公聴会。議論の中では、メディアに対しても厳しい注文が飛んだ。
「オリンピックを報道するメディアには、中国の現実を強調する特別な努力をしてほしい。中国政府が打ち出すプロパガンダを推進するための手段とは見なされないことを望みます。中国政府は、私たちのメディアやジャーナリストがこの問題に目をつぶることを期待しているのでしょうが、それは悲劇だと思います」(マクガヴァン共同委員長)

中国の人権問題を理由に、北京オリンピックに対する世界各国の対応は分かれている。外交的ボイコットをする国もあれば、首脳が開会式に出席する国もあるが、日本は「外交的ボイコット」という言葉は使わず、「政府代表団の派遣見送り」とし、アメリカにも、中国にも一定の配慮をした形を取った。

中国政府はウイグル族への人権侵害について、「根拠のない非難」と一貫して否定してきた。また、外交的ボイコットは「オリンピック憲章にあるスポーツの中立という原則に著しく反している」として「強烈な不満」を表明している。

岸田首相は北京五輪への閣僚派遣見送りを決断
岸田首相は北京五輪への閣僚派遣見送りを決断

北京オリンピックでは史上最多となる7競技109の種目が17日間にわたって繰り広げられる。日本の代表選手を初めとするアスリートの心からの奮闘と熱戦に期待する一方で、オリンピック憲章でうたわれている人権の尊重の意義が改めて問われている。

【執筆:FNNワシントン支局 中西孝介】