福井・越前市今立地区で、1500年続く伝統工芸「越前和紙」。
その特別展が、東ヨーロッパのポーランドで開催された。
なぜ、ポーランドなのか。和紙展を企画したポーランド人女性と元紙すき工房を取材した。

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1500年続く越前和紙の産地、越前市今立地区。数多くの製紙業者が軒を並べている。
ここで作られる越前和紙は、見た目の美しさや独特の肌触りに加え、薄くても丈夫。多くの人を魅了し、さまざまな用途に使われてた。

そんな越前和紙の特別展が、ポーランドの「日本美術技術博物館」で開かれた。

越前和紙とポーランド人女性の出会い

きっかけは、ある女性の今立地区訪問だった。
ヨアンナ・ココッチさん。
ポーランドの国立博物館で文化財の修繕を担当している。

絵画の破れた部分に和紙の繊維を絡み合うように張り付ける技法が用いられていることから、ポーランドでは絵画の修繕に和紙が使われているのだ。

ポズナン国立博物館 ヨアンナ・ココッチさん:
ヨーロッパの紙は、伝統的な技法で生産されることはめったにありません。越前市の製紙工場には、わたしたち修繕士が必要とする装飾のないものから、美しく芸術的なものまで、あらゆるタイプの紙があります。
越前の地を訪れ、和紙職人と出会い、和紙の作られる過程を学んだことは、わたしに大きな影響を与えました

ココッチさんは、越前和紙の素晴らしさをポーランドの人に知ってほしいと、今回の特別展を企画。和紙だけでなく紙すきの道具も展示し、越前和紙の歴史や職人の技にも触れてもらえるようにしたという。

2019年廃業…元紙すき職人夫婦が残した“分身” 

展示されている紙すきの道具は、元紙すき職人・山口和夫さんと妻の絹子さんの愛用の品々。

山口さん夫婦の息子、和憲さん。越前市で、会社員として働いている。
この工房は、2019年、絹子さんの死をきっかけに廃業した。

山口夫婦の息子 山口和憲さん:
(母は)この中も水を張って、おけの中でちり取りをしていた。紙すきは水を使うので、手が霜焼けでパンパンに腫れていた。父と母はずっと紙すきをしてきて、道具は分身みたいなもの。役に立つのであればと

「漉き舟」や「桁(けた)」など、実際使い込んできた道具と製造過程を紹介する映像や写真を一緒に展示することで、越前和紙の価値を伝えたかったとヨアンナさんは言う。

2023年ポーランドで常設展も…越前和紙を知るきっかけに

長年、山口家の工房に祭られていた社。
1500年前に紙すきを伝えたとされる紙の女神「川上御前」の分身を祭ったものを、み霊抜きの神事を行ってポーランドに送った。

ポズナン国立博物館 ヨアンナ・ココッチさん:
川上御前をまつった神棚は、会場に訪れた人を神聖な気持ちにさせます。紙の奥深さについて喜びを感じ、興味をひかれています。それは、越前和紙がただの紙ではなく、このような深い背景があるからです

越前和紙のすべてが詰まった展示会。
この会場では2022年1月で終了となったが、2023年にはポーランドの別の博物館で常設展となる予定だ。

ポズナン国立博物館 ヨアンナ・ココッチさん:
この特別展が、ポーランドの人が越前和紙を知るきっかけになると良い

山口夫婦の息子 山口和憲さん:
(紙漉きに)従事しているわけではないが、この地域の越前和紙という文化が、ポーランドの人に伝わって広がっているのかなと思う

越前和紙の産地が1500年つないできた伝統は、今度は海を越え、ポーランドで受け継がれている。

(福井テレビ)

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