雑煮と並ぶ、正月の食べ物といえばおせち料理。伊達巻、栗きんとん、数の子など種類が豊富なのも魅力的で、新年ならではの楽しみのひとつだ。

だが、北海道では12月31日の大晦日に食べる習慣があるという。Twitterなどでたびたび話題となり、他の地域の人が驚いていたりする。編集部の北海道出身者に聞いたところ、大晦日に食べるのが普通の感覚とのことだった。

編集部の北海道出身者のおせち。大晦日に食べるという
編集部の北海道出身者のおせち。大晦日に食べるという
この記事の画像(10枚)

一般的には、大晦日は年越しそばを食べるはず。おせち料理も加わったら、お腹がいっぱいになるし、それこそ元日は何を食べるのだろうか。

江戸時代の風習「年取り膳」が影響か

北海道の食育支援のコーディネーターも務める、老舗料亭「さっぽろ川甚 本店」の調理長・本間勇司さんに聞いたところ、意外な文化が関係していそうなことが分かった。


ーー北海道では、おせち料理を大晦日に食べるというのは本当?

はい。私たちのお店でもおせちを提供していますが、だいたい大晦日に召し上がられます。ただ北海道は色々な地域から移住された方が多いので、一概ではないと思います。全体の6割くらいではないでしょうか。私は実家が12月31日、個人の家庭だと1月1日に食べますね。

本間さんの店舗のおせち(画像提供:さっぽろ川甚 本店)
本間さんの店舗のおせち(画像提供:さっぽろ川甚 本店)

ーーこの習慣はいつごろ、どのように始まった?

私も全てが分かるわけではないのですが、人の移住と食文化の形成が関係していそうです。北海道は移住民が多く、東北や新潟から移り住んだり、東京(江戸)から船で訪れたりしていたそうです。明治時代にはもう住んでいたようですね。

この移住で入ってきたものが、今の食文化につながると思います。江戸時代には大晦日に「年取り膳」を食べる風習がありました。年を取る前に“年神様”を供養するため、来年も健康でいられるように、かまぼこや出世魚のブリなどを食べたそうです。この年取り膳、おせち料理と似ているのです。今も正月は“めでたい”でタイを食べたりしますよね。

こちらが「年取り膳」。北海道だけでなく宮崎県などにも風習が残っている(出典:農林水産省Webサイトより)
こちらが「年取り膳」。北海道だけでなく宮崎県などにも風習が残っている(出典:農林水産省Webサイトより)

ーー年取り膳以外で、考えられる影響はある?

現在の1日の終わりは午前0時ですが、旧暦では日没を1日の終わりとする考え方があり、ここも関係しているかもしれません。これだと12月31日は日没で終わり、ここからの夜は年越しになります。おせちを食べてもおかしくはありません。

年越しそばはもちろん食べます

ーー実際の大晦日にはどんなものを食べるの?

おせちだと、ニシンを甘辛く炊いたもの、根菜類のうま煮、数の子、伊達巻、かまぼこ、黒豆などを食べますね。私は稚内出身ですが、サケを焼いたもの、氷頭なます(サケの頭部や鼻先の軟骨の酢漬け)を食べます。お寿司や魚の刺身も食べます。

後は寒いので体の温まるもの。地域によって違うと思いますが、お鍋やすき焼きなどをするところもあると思います。味は全般的に濃くてお酒のアテにしているような感じです。

体の温まる料理も食べるという。こちらは石狩鍋。(画像提供:北海道漁業協同組合連合会)
体の温まる料理も食べるという。こちらは石狩鍋。(画像提供:北海道漁業協同組合連合会)

ーー北海道ならではの食材を使った料理はある?

地域や家庭で違うと思いますが、例えば、石狩地方ではタラ鍋やサケの石狩汁。道南ではクジラ汁。道南はハタハタ。道東はサケの飯寿司などがあると聞いたことがあります。北海道はいろんな文化が入っているので、地域でかなり違うと思われます。

サケとハタハタの飯寿司。これを食べる地域もある(画像提供:石狩市)
サケとハタハタの飯寿司。これを食べる地域もある(画像提供:石狩市)

ーー年越しそばも大晦日に食べるの?お腹は大丈夫?

食べます(笑)。普段の食事と違い、大晦日は夕方ごろから食べ始める方が多いです。午後4~5時には酒盛りを始め、7~8時ごろで一旦収まり、11時ごろに年越しそばを用意する感じです。

そば汁のようなだしを作っておいて、除夜の鐘を聞きつつ食べる。だしは次の日、お雑煮の汁としても使います。一石二鳥といった感じですね。

正月は基本「前日の残りもの」で過ごす

ーーでは正月には何を食べるの?

お雑煮は食べますが、基本は前日の残りとなります。大晦日では食べきれないものも多く、正月から食事の支度はしたくないといった感じです。外食をされる方もいますが、カレーライスといった普通の食事に戻る家庭もあると思います。


ーー北海道ならではの正月料理はある?

タイやエビの形をした「口取り」という、練り菓子を食べます。昔の北海道ではタイなどが取れなかったため、代わりに小豆を使って作り上げたと言われています。
※口取りは一般的な「練り切り」に近い。中にあんこが入っているものもある

こちらが「口取り」。見た目は魚介類だが菓子だ(画像提供:和創菓ひとひら)
こちらが「口取り」。見た目は魚介類だが菓子だ(画像提供:和創菓ひとひら)

ーー北海道の習慣に驚く声もあったが、どう思う?。

今の時代にも、旧暦に関連した行事はたくさんありますよね。12月でも、12月22日の冬至はそうだったりしますね。北海道は(本州と距離があって)気候のずれもあるので、食文化でも若干の違いがあるのかもしれないですね。


地域により、年末年始の習慣はさまざま。もしかしたら、あなたの家庭の当たり前も他の地域から見たら興味深い、出来事なのかもしれない。

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(10枚)
プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。