静岡・富士宮市の山間にある神社。そこには、ひそかに話題になっている少し風変わりな鳥居がある。まるで未来からやってきたような輝きを放つ鳥居なのだ。その正体に迫った。
木々に囲まれた山神社に異彩を放つメタリックな存在
富士山の南西に位置する富士宮市粟倉(あわくら)にある「山神社」。
到着してまず目に飛び込んできたのは、まさに“見たことのない”鳥居だった。

一般的に鳥居といえば、木や石でできているものを想像するが、この神社の鳥居はシルバーに光り輝いている。メタリックで宇宙的。
鳥居の扁額も周囲の青葉を反射するほどピカピカなのだ。
試しに鳥居を叩いてみると、「コンコン」とメタリックな音が響き、金属製であることはすぐにわかった。ひょっとしてここは金属を祭る神社なのか? それとも宇宙から来た鳥居なのか?

しかし、参道を進んでも他にメタリックなものは見当たらず、奥には小さなお社があるだけで、神職の姿もない。どうやら、普段から人がいる神社ではないようだ。
この特徴的な鳥居について調べてみると、県内の企業が製作したものだということが判明した。
恐竜から鳥居まで! 何でも作るものづくりの現場
メタリックな鳥居を製作したのは「ケーアイ工業」という富士市久沢にある企業だ。工場入口では、金属製の恐竜の骨格模型が目を引く。

ケーアイ工業・国分聖子さん:
金属のパイプを使って恐竜を作ってみました。いろんな形の恐竜があって、ちょっとバリエーションを多めに考えてやっております
さらに、精肉店からのオーダーで作られたブタの骨格標本もある。部位を説明するために使用するというこの金属製の標本は、驚くほど精巧な作りだ。オーダーメイドでこのクオリティとなると、気になるのはやはり価格だが、意外にもリーズナブルで、3万5000円で販売したそうだ。

注文があれば、どんな物でも作ってしまうというケーアイ工業。実際にステンレスがどのように加工されているのか、製造現場を見学した。
そこで見たのは、先ほどの恐竜の骨格が、パイプレーザーという機械でステンレスパイプから製作される工程だ。データを元に、レーザーが金属パイプから恐竜の骨格を自動で正確にくり抜いていく。

作業時間はわずか10分程度。火花を散らしながら精密に金属を切断していく様子は、まさに現代の職人技を感じさせる。鳥居も大きな構造物だが、同じ工程で作られたそうだ。
まずパイプレーザーで金属パイプを加工し、完成したパーツを溶接していく方法で鳥居を組み上げたという。
「ステンレス製の鳥居を作る」という話を受けた時は、さすがに「できるのかな?」と思ったというケーアイ工業の吉田直幸さん。
ケーアイ工業・吉田直幸さん:
本当に完成した時は感動して、あ、本当に鳥居だなと思いました

震災が生んだ新たな発想「倒れない鳥居」
しかし、なぜ鳥居をステンレス製にするという発想になったのだろうか。
ケーアイ工業 物販事業部 営業・国分聖子さん:
そのきっかけは東北の震災直後に、富士市がある静岡県東部で発生した大きな地震でした
2011年3月11日の東日本大震災からわずか4日後、静岡県東部を最大震度6強の地震が襲った。
この地震で住宅や道路に被害が出たのと同様に、山神社にあった石の鳥居も倒壊してしまった。「危なくないものが欲しい」、それが地元の願いだった。
新しく鳥居を建て直す際、「石よりも軽く、木よりも耐久性に優れるステンレスの鳥居なら、地震の揺れにも負けないはず」という発想が生まれ、このメタリックな鳥居が誕生したのだ。

実はこうしたステンレス製の鳥居があるのは、山神社だけではない。丈夫で耐久性に優れているだけでなく、写真映えもするといった現代的な価値も評価され、設置する神社が徐々に増えているという。
東京の神社から受注した鳥居は表面加工をしてマット感を出したそうだ。
ケーアイ工業 物販事業部 営業・国分聖子さん:
耐久性はすごくいいものなので、ステンレスに変えたいという需要が結構あります

伝統と革新の融合
今回の調査で、鳥居や動物の骨格標本など、金属製品が持つ無限の可能性を感じた。
伝統的な神社建築と現代の金属加工技術が融合した新しい形の鳥居は、日本のものづくりの底力と柔軟性を象徴しているようだ。
(テレビ静岡)