ウシの外見をシマウマ柄に“擬態”させることで、ストレスから解放させてあげられないか。

そんな試みが山形県の置賜地方で行われている。主導しているのは米沢市にある置賜総合支庁。置賜地方はウシの畜産が盛んな地域で、近年は「簡易放牧」という育て方に取り組んできた。

シマウマの縞模様に注目(画像はイメージ)
シマウマの縞模様に注目(画像はイメージ)
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簡易放牧は柵で囲った場所で放し飼いをするというもので、省力化や飼料費の削減、ウシが自由に移動できるなどのメリットがある。遊休農地を活用できることから、置賜地方では適しているが普及は進んでいないという。その原因が吸血昆虫。アブなどの虫に刺されるなどして、ウシがストレスを抱えるというのだ。

シマウマ柄でウシの「忌避行動」が大幅に減少

そこで白羽の矢を立てたのが、愛知県農業総合試験場が過去に検証していた、ウシの外見を白黒の縞模様にすることで、吸血昆虫の付着を阻害できるのではないかという取り組み。

置賜総合支庁は県内の畜産農家と協力して、2021年8月~10月に検証を実施。黒毛のウシの体の一部を白く塗ったところ、吸血昆虫を嫌がる「忌避行動(頭を振るなど)」が4割~8割減少したという。

白く塗ったウシ(画像提供:置賜総合支庁)
白く塗ったウシ(画像提供:置賜総合支庁)

これなら簡易放牧もできそうなものだが、吸血昆虫が寄り付かなくなるのはなぜだろう。外見を変えることで問題がないかも気になるところだが、実用の可能性はあるのだろうか。置賜総合支庁の担当者に疑問点を聞いてみた。


ーー今回の検証方法の概要を教えて。

繁殖牛のウシを対象に、白く塗装した3頭、塗装しない3頭の計6頭で比較しました。塗装は縞模様に切り取ったゴムマットを背中に乗せ、スプレーで吹き付けています。比較は6頭のウシを外に出して、通常の状態を15分、アブを集める装置(捕獲機)を置いた状態の15分で行いました。

実際の塗装の様子(画像提供:置賜総合支庁)
実際の塗装の様子(画像提供:置賜総合支庁)

そして頭を振る、耳を動かす、足踏みをする、尾を振る…といった吸血昆虫への忌避行動の回数をカウントしたところ、塗装したウシは忌避行動が少なかったのです。短時間なので完全な結論とするのは難しいですが、ストレスが減少したと思われます。

観察の様子(画像提供:置賜総合支庁)
観察の様子(画像提供:置賜総合支庁)

吸血昆虫が病気を媒介して死に至ることも

ーー吸血昆虫がいると、ウシにはどんな影響が出る?

人間と同じように、ウシも周囲に吸血昆虫がいると食事や休息の時間が阻害されます。そのストレスで体重が伸び悩む、餌が食べられないなどで繁殖もうまくできなくなります。吸血昆虫に刺されることで病気に感染してしまうこともあります。例えば、ウシの伝染性リンパ腫という病気を発症すると、リンパ節や臓器が腫瘍化して死に至る場合もあります。

愛知県の検証の様子。通常のウシは昆虫が付着している(画像提供:愛知県農業総合試験場)
愛知県の検証の様子。通常のウシは昆虫が付着している(画像提供:愛知県農業総合試験場)

ーーこれまで畜産農家は吸血昆虫にどう対策してきた?

普通の飼育環境では畜舎で飼育するので、外に出すことはほぼありません。ただ、畜舎にも吸血昆虫が来ることもあります。対策としては「アブトラップ」という捕獲機があります。アブは黒くて暖かいものに集まり、上に登る性質を利用したもので、虫が入れば出られなくなります。


ーー動物の外見を変えることによる問題はないの?

生産者向けの説明会では「仲間外れになるのではないか」といった、集団生活の面で心配される声もありました。ただ、今回の検証ではそのような状況は見られませんでした。課題としては、スプレーなので雨に濡れると短期間で落ちてしまうそうです。

ホルスタインの白黒模様では効果なし?理由は諸説あり

ある程度の効果は判明したが置賜総合支庁の担当者は、縞模様のウシを吸血昆虫が避ける理由までは分からないとのことだった。そこで元の検証を行った、愛知県農業総合試験場の担当者にも聞いてみた。


ーーシマウマ柄はなぜ吸血昆虫に効果があるの?

吸血昆虫がなぜ避けるのかはよくわかっていないのが現状です。理由は諸説あり、反射光の違いが関連しているのではとも言われますが、確実な説ではありません。私たちはシマウマの縞模様に吸血昆虫を避ける効果があるのではという海外の説を見て、黒毛のウシであれば一部を白く塗ると縞模様となるため、対策になるのではと検証しました。

愛知県の検証の様子(画像提供:愛知県農業総合試験場)
愛知県の検証の様子(画像提供:愛知県農業総合試験場)

ーーシマウマ柄以外の模様や色では効果は変わる?

はっきりとは言えませんが、何でもよいわけではありません。白黒の密度が同じで、縞模様が細いほど効果があり、目安は幅が5センチより細い程度という情報もあります。縞模様以外の柄は試していませんが、ギンガムチェックや水玉模様でも効果があるとする論文もあります。ただ、ホルスタインのように柄が大きすぎると効果は見込めないようです。

ホルスタインの柄では効果が見込めないという(画像はイメージ)
ホルスタインの柄では効果が見込めないという(画像はイメージ)

ーーウシ以外でも吸血昆虫の対策効果はある?

生物でなくても同じような効果はあると思います。ただ、景観は損なうかもしれませんね。


置賜総合支庁は、今回の試みはあくまで検証であり「生産者への情報提供や簡易放牧の需要拡大につなげていければ」としている。近年は飼育方法において、ストレスや苦痛の少ない環境を整える「アニマルウェルフェア」という視点の重要性も指摘されている。このような試みも工夫になるのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。