緊急事態宣言の解除から約1カ月。歓楽街の現状を「不動産」目線で追った。

空きテナントが目立つが実際は“争奪戦”に

長引く新型コロナウイルスの影響で飲食業界の苦戦を伝え聞くところだが、九州一の歓楽街・中洲は少し事情が違うようだ。

福岡県博多区中洲
福岡県博多区中洲
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通りを歩いてみると…

川崎健太記者リポート:
ここはそうですね、テナントとして空いてます。中洲を歩いてみると、コロナ禍以降はこうした通りに面した場所でも、空きテナントになっているところが目立つように感じます

コロナ以降、中洲の通りには空きテナントが目立つように
コロナ以降、中洲の通りには空きテナントが目立つように

ほかにも、目抜き通りに面したビルの1階が空きテナントに。中洲交番に近い老舗居酒屋ものれんを下ろしたが、1年以上経った現在も次の借り手は見つかっていない。

ビル1階の空きテナント
ビル1階の空きテナント

中洲の不動産戦線に今、何が起きているのか。

老舗居酒屋は1年以上前に閉店
老舗居酒屋は1年以上前に閉店

歓楽街の不動産トレンドを知り尽くす、不動産会社の営業マンに話を聞いた。

福一不動産 牟田裕弘さん:
現状、コロナ禍だから中洲のテナントが空いていると思ってお問い合わせされる方も多いんですけど、実際には全然空いてなくて、むしろ競争率が上がっています

牟田さんによると、コロナの影響で「最近の中洲は物件が空いている」というイメージが先行しているため、退去や廃業の数よりも出店希望者の方が多くなっていて、逆に競争率が上がっているという。

「15坪以下の小箱」 コロナ禍で人気物件に変化

ただし、競争率の高い人気物件には条件があるという。

福一不動産 牟田裕弘さん:
まず“小箱”。15坪以下でバーが出来る箱。家賃が抑えられたところ。この3つがトレンドになってきていると思います

いま中洲で競争率の高い物件の特徴は…
いま中洲で競争率の高い物件の特徴は…

かつては、新規出店といえば「30坪以上のキャバクラ」が中洲の常識だったが、度重なる時短要請などコロナの影響で、キャバクラとして使用されるような“大箱”は敬遠されるようになった。初期投資がかさむ上、従業員の数も増えるため「リスクが大きい」と判断されるからだ。

コロナ禍以降、人気の高まるテナントを見せてもらうと…。

記者:
結構、狭いですね

福一不動産 牟田裕弘さん:
そうですね

記者:
これで何坪ですか?

福一不動産 牟田裕弘さん:
約8坪です

近く契約予定というこのテナントはわずか8坪。バーとしての開業が決まっている。

福一不動産 牟田裕弘さん:
コロナ禍で休業されると、スタッフさんを抱えているところは結構大変だったりするので。なるべく少人数でお店を回したいと。面積が小さくなれば家賃もその分、大きな箱よりも抑えられるので、そこの需要が多い

東京・大阪の企業が中洲に出店 内覧に同行

そして、コロナ禍におけるもう1つのトレンドが「県外からの出店」だ。

実はその大半を締めるのが、東京や大阪の飲食業者。コロナをきっかけにマーケットとして元々人気のあった中洲を狙いに来ているという。中洲を試金石に、熊本や鹿児島など九州各地の歓楽街で大展開を想定している企業もあるようだ。

ちなみに、中洲のテナント料は福岡では当然高い方だが、東京や大阪の経営者にとっては、その名前は全国区でありながら割安感があるらしく、10月は横浜の企業が中洲で50坪の大箱契約を結んでいる。キャバクラとして営業するという。

この日、牟田さんは熊本に本社を置く企業を案内した。

記者:
今回、中洲の物件を内覧するのは、マーケティングとしてどういう狙い?

熊本の会社 豊福崇さん:
中洲ってやっぱり福岡の一番中心地で、九州の戦略を考えていく上で、ランドマーク的な位置づけになると思うんですけど。それが今、コロナで普段空くことがない店舗も空いてくるんで、そういうところを抑えたいなと思っている

中洲は九州戦略のランドマーク的位置づけ
中洲は九州戦略のランドマーク的位置づけ

案内した物件の広さは15坪。まさに今、人気のサイズだ。

元々はテーブル席のあるスナックだったが、貸主がカウンターのみのバー仕様に作り変えた。

福一不動産 牟田裕弘さん:
ここはもう、めちゃくちゃきれいな物件です。内装がかなりシックなんで、落ち着いたバーとかをするにはもってこいですかね

現在、人気の狭い物件は売り手有利とはいえ、コロナ禍においては、トレンドに合わせた上で借主が初期投資をせずに済むよう整えなければ、簡単には契約に至らない。

福一不動産 牟田裕弘さん:
借りやすさというところでハードルを下げて、賃料は自分で内装を作るよりは(ハードルが)上がるんですけど。内装費をかけなくていいので、リスクを抑えた状態でスタートできるというのは貸主側も意識している。これから県の内外問わず出店者が増えていって、小さい坪数だけどお店を持ちたいという方が増えてくるのではないかと思います。

記者:
それが今後の中洲の在り方?

福一不動産 牟田裕弘さん:
そうですね。その流れが、一時は続くのかなと思っております

“返済開始”で空きテナント急増の可能性も

中洲の賑わいは失われているのに、なぜ退去や廃業の数があまり変わらないのか。

取材を通して見えてきたのは「コロナ措置」だ。実は今後、空きテナントが急増する可能性もある。

ポイントは、銀行への返済開始。

コロナ禍以降、金融機関は「売り上げが厳しいだろうから、まだ返さなくて大丈夫」という特例措置を取ってきた。しかし、その猶予期間も終わり、2022年の春頃から再び返済を求められる飲食店も増えそうだ。返済が本格化すると、ここまで耐えてきた店の中には限界を迎えるところも出てくる恐れがある。

長引く飲食店の苦境、新たな政策も求められそうだ。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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