長州はすでに大騒ぎになっている

林芳正氏が参院から衆院に鞍替えして当選し、さらに外相に就任することになり、地元の山口県では「安倍さんに続いて長州9人目の総理が誕生する!」と大騒ぎになっている。

林芳正氏
林芳正氏
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長州人は政治好き、議論好きだが、たとえば国会議員に対しても大変厳しく、「大臣やってもおつかれさまとは言ってもらえない、総理をやらないとダメ。」という話もあるくらいだ。

だから伊藤博文に始まり、山形有朋、桂太郎、寺内正毅、田中義一、岸信介、佐藤栄作、そして安倍晋三とこれまで8人の首相を輩出した長州の人達はこの数年、「ヨシマサはいつになったら衆院に鞍替えして首相を目指すのか」とイライラしながら待っていた。

今回林氏が衆院山口3区への立候補表明をし、現職の河村建夫元官房長官との公認争いになった時、全国メディアは「最大の注目区」と騒いだが、長州人は「これでやっとヨシマサも首相か」とすでに別次元のことを考えていたのだ。もちろん河村氏は文科相も務めた大変立派な政治家だ。ただ長州では閣僚だけではダメなのだ。首相にならないと、おつかれさまとは言ってもらえない。

東京に負けたくない

ちなみに首相輩出1位の山口県に続く2位は高橋是清、近衛文麿、東条英機、鳩山一郎、菅直人の東京都である。山口は次の選挙から小選挙区が1つ減り3になってしまうが逆に東京は5増えると見られている。だから長州人はいずれ2位の東京に抜かれるんじゃないかとドキドキしている。

僕も長州人を名乗っているが、山口には父の転勤で4歳の時に引っ越してきた外様だ。父は関西、母は九州出身で山口にもともと縁はない、ニセ長州人である。だが長年、長州人たちと付き合ううちに後天的に長州DNAが刷り込まれてしまった。だから「菅直人は山口生まれで高校生の時までいたから長州出身の首相に数えていいんじゃないか」とか「ヨシマサは正統派だから絶対いけるだろ」とか本物の長州人たちと一緒になって大騒ぎしている。

実際のところ林氏は首相になれるのか。まず今の岸田首相だが、この衆院選では予想を覆して単独で絶対安定多数の議席を確保、一方の立憲は100議席を割り枝野代表は辞任してしまった。政策の重なるところの多い維新が躍進したこともあり、岸田氏の政権運営は大変やりやすいものになった。

衆院選で岸田首相の政権運営はやりやすくなった
衆院選で岸田首相の政権運営はやりやすくなった

来年の参院選は与党で15議席減らせば過半数割れとなるが、改選議席は121しかないのでなかなかそこまで負けることは考えにくい。もし参院選も勝ったら翌年は選挙はなく、岸田氏は総裁任期の3年間は首相を続けるのかもしれない。

課題は安倍元首相との関係改善

そうなるとポスト岸田への移行は「岸田おろし」とかそういう激しい形ではなく、もっとスムーズに行われるような気がする。今回総裁選に出た河野太郎氏と高市早苗両氏を軸に、茂木敏充、加藤勝信、萩生田光一、西村康稔氏らとともに当然林氏の名前も挙がることになる。

林氏にとって最大の課題は今やキングメーカーとなった安倍晋三元首相との関係である。安倍氏と同じ選挙区だったため60歳を過ぎるまで衆院に出られなかった。2人の仲はあまりよくないと言われているが、安倍さんは周辺に「僕は何とも思ってないが後援会がうるさい」と言っている。林氏は直接聞いてもニタッと笑うだけ。

「僕は何とも思ってないが後援会がうるさい」安倍晋三元首相
「僕は何とも思ってないが後援会がうるさい」安倍晋三元首相

長州人はもちろん安倍氏のことを高く評価しているし、7年8カ月も首相を務めたのだから「おつかれさま」と思っている。だが長州人はせっかちだ。安倍氏が辞めてまだ1年しかたってないのにもう「次はヨシマサだ!」と騒いでいる。この長州人のパッションを安倍さんもむげにはできないと思うのだが。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。