立憲と共産のタッグに有権者が「NO」
岸田政権発足1カ月である。色々あったがこの1カ月の最大のニュースは衆院選の自民の絶対安定多数ではなく立憲の惨敗と枝野代表の辞任だろう。最初にまずお詫びをすると、衆院選のメディアの予測は事前も当日も当たらなかった。朝日新聞のネットによる事前予測はいい線行ったが「立憲96議席の惨敗」はどこも読めなかった。
事前予測と違う結果になる事は「アナウンスメント効果」で時々あるのだが、出口調査も外したのは2003年の小泉首相による最初の解散総選挙以来18年ぶりだ(自分が担当だったのではっきり覚えている)。2日付の日経は、各社が午後8時に出す議席予測のために出口調査を締め切った夕方6時以降に自民支持の若年層が投票に行ったのが原因ではないかという分析を載せていた。
ただやはり立憲の惨敗を予測できなかった最大の理由は、立憲と共産のタッグに有権者が「NO」を突き付けたことに政治家と共にメディアも気づけなかったということだろう。
この記事の画像(4枚)麻生発言で有権者は我に返った
言い訳をすると僕はこの数年間、「もし立憲が選挙に勝っても、旧民主の保守派が抜けた分、単独過半数は難しいから共産が閣外協力することになる」という話を色々な場面で言ったり書いたりしてきたのだが、「そうですね」と共感してくれた人はほとんどおらず、総じて反応は鈍かった。
だから僕は「共産の閣外協力って意外にみんな平気なのかな」とちょっと心配していたのだが、今回枝野氏が共産との「限定的な」閣外協力を打ち出した時も、「限定的だから有権者は受け入れるのかも」と思っていた。
しかし有権者はシビアだった。おそらくこれまではあまり意識してこなかったが、今回枝野氏が「共産との閣外協力」を初めて打ち出し、さらに「政権選択」というワードを出したので、一気に現実味が増したのだろう。
そして麻生副総裁の「あちらは立憲共産党になってるじゃないですか」という挑発で有権者の目が覚めた。麻生発言ははっきり言ってマナーは悪かったが実にうまい言い方だった。立憲は「立憲共産党という党はない」と反論したが、言ったもん勝ちで結局これが致命傷になった。立憲に勝ち、枝野代表をおろしたMVP(最高殊勲選手)はたぶん麻生さんだ。
「すべてを聞き、すべてに答える」の意味
ただ安倍政権だったらここまで立憲は負けなかったのではないか。「アベ憎し」で共産との共闘も無党派層は大目に見たと思う。実際に安倍政権における野党共闘は結構うまくいっていた。それがリベラル寄りの岸田政権では、無党派層が共産党に近づいた立憲を許さなかった。
もしそうなら岸田政権は意外に強いかもしれない。国民の意見を聞き、官僚、財界、そして野党の意見も聞く。トップダウンのアベ・スガ政権からボトムアップのキシダ政権に代わったとアピールすればリベラル層を幅広く取り込める。ただすべての人々の声を聞くいうことは、すなわち誰の声も聞かないのと実は一緒ではないのか。
安倍さんは野党との対決姿勢を前面に出して、集団的自衛権の見直し、2度の消費増税など難しい政策を実現した。菅さんは五輪開催、ワクチン百万人以外にも後期高齢者の医療費2割負担、福島の処理水の放出など、安倍さんが積み残したこちらも難しい懸案を野党との対話なしに片付けた。岸田さんにはこの2人のような強さはあるのだろうか。
【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】