新型コロナウイルスに対する国産ワクチンの実用化に向けた動きが活発化している。どの程度の効果が見込めるのか、そもそも国産ワクチン開発の意義はどこにあるか。

BSフジLIVE「プライムニュース」では、不活化ワクチンの2022年中の供給を目指すKMバイオロジクスの永里敏秋社長と識者を迎え、国産ワクチン開発の現状と行方を展望した。

国産ワクチン開発は出遅れたが、不活化ワクチンの安全性には期待できる

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新美有加キャスター:
現在、国内では5社が国産ワクチンの開発を進めています。永里社長のKMバイオロジクスはすでに中期段階の治験を実施中で、今年度中に最終の治験を開始、来年中の実用化見込み。また、塩野義製薬は今年度中の実用化見込み。第一三共、VLPTジャパン、アンジェスが後を追っています。

武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理:
mRNA(メッセンジャーRNA)のような非常に高度な技術から作り出されるワクチンの製造では、我が国が出遅れていたことは事実。だが、不活化ワクチンについては従来からの開発能力、実績がある。安全性はより高く、期待ができる。

新美有加キャスター:
KMバイオロジクスが開発するのはいわゆる不活化ウイルス、感染力を失わせたウイルスを使って体内に抗体を作るワクチンで、従来もインフルエンザなどに用いられてきたものです。長所は開発・使用の実績があること、抗原そのものを投与するので最も免疫がつきやすいとされること。一方で開発に時間がかかり、ウイルス自体を扱う必要性があるので危険性を伴うとも指摘されています。

岡部信彦 政府分科会構成員 川崎市健康安全研究所 所長:
不活化ワクチンには歴史があり、現在使われているワクチンにも多い。だが、病気によって効果も熱の出方も違い、長所も欠点もある。上手な使い分けが大切で、どれが一番いいということではない。

有効性の数値だけでなく、副反応の出にくさなど安全性も総合して評価を

武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理
武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理

反町理キャスター:
国産ワクチン実用化に向け、治験を国内で行うことの限界について。

武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理:
第3相治験において、4万人程度の規模で偽薬を使って発症予防の観点で効果を見ていくようなことができない。では何を基準にするか。ワクチンでできる中和抗体価を現存するワクチンと比較する観点で新たな基準を作り、事実上の第3相の治験とする。

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長:
おっしゃる通り、国内で承認を得ているワクチンとの比較、実薬対照試験をやっていく。そこで現在言われているのはファイザー、モデルナ、アストラゼネカに対する優越性。

反町理キャスター:
ファイザーの95.0%、モデルナの94.1%、アストラゼネカの70.42%という有効性の数字を超えなければダメだと?

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長:
有効性、感染防御率の数字が独り歩きしている。感染防御率は確かに高い方がいいが、重症化しないということが最も重要。重症化を防ぐことと感染を防ぐことは、相関はするが別物。有効性と安全性のバランスのとれたワクチンが一番必要だと考えています。

反町理キャスター:
すると、承認の基準はこれでいいのか。有効性だけでなく、重症化を防ぐ効果、副反応の程度などを総合的に判断しなければいけないのでは?

岡部信彦 政府分科会構成員 川崎市健康安全研究所 所長:
日本の新しい薬物の承認事項では、先行薬よりもいいものでなくてはいけないというのが基本的な流れだった。僕は選択肢を増やすことに意義はあると思っているが。

岡部信彦 政府分科会構成員 川崎市健康安全研究所 所長
岡部信彦 政府分科会構成員 川崎市健康安全研究所 所長

松本哲哉 国際医療福祉大学 感染症学講座 主任教授:
これから出てくるワクチンに、ファイザーやモデルナのような有効性を期待するのは難しい。だが、今後長期的に3回目以降の接種で免疫を維持させるとなれば、安全性も考えなければいけない。免疫をある程度維持できて副反応があまり起こらないとなれば、メリットがある。PMDA(医薬品医療機器総合機構)は、ぜひそれを考慮しながら精査してほしい。

武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理:
これから流行ってくる感染症を想定して、今回をきっかけとして国内にワクチンを開発して大量生産する基盤を作っておくことがポイント。必ずしも先行薬への優越性が明確でなければいけないとは思わない。有効性が同程度であれば、国産の供給能力の強化という観点から、迅速承認の中に組み込まれていってもいい。

KM社の国産ワクチンは、従来ワクチンに比べ副反応が非常に弱い

新美有加キャスター:
ワクチンの副反応について。例えば、ファイザーは注射した部位が痛む副反応が79.3%、発熱も32.8%。だるさは60.3%、頭痛は44.0%とさまざまな副反応が出ています。私もかなり苦しんだのですが、副反応を恐れ接種をためらう方が多かった印象。不活化ワクチンでは副反応は弱いのですか?

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長:
220人で行ったフェーズ1~2の治験で、疼痛(とうつう)はあっても、日常生活に支障のあるような疼痛はゼロでした。発熱は1件。疲労感、頭痛もほとんどありません。この点では、他のワクチンと比較するなら完璧です。

反町理キャスター:
武見さん、副反応の弱いワクチンを選択肢に組み込んでいくことは、政治の視野には当然入っているんですか?

武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理:
そうあるべきだと思います。11歳以下へのワクチン接種の議論になると、副反応が気になる。選択肢のひとつとしていい。

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長
永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長:
我々のワクチンのフェーズ1~2の治験結果では、20歳から40歳の方には100%中和抗体ができた。高齢の方についてはこの率が悪くなるが、若い方には有効性もしっかり担保できると考えます。安全性を見ながら、最後は生後6カ月ぐらいから打てるようなワクチンになればいいと考えています。若く抗体価が上がりやすい方やmRNAワクチンは怖いという方、また小児を中心に、我々の安全なワクチンを接種していただければ。

反町理キャスター:
それは1回目からの接種についてですね。3回目以降の接種で用いることについては?

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長:
当然視野に入れていますが、ファイザーやモデルナの2回接種後の交差接種となるので、安全性の担保や抗体価の上がり方などをしっかり見ていく。これから治験を行います。

重症化率の数値化は困難だが、いくつかの指標を定める必要はある

反町理キャスター:
重症化率について。ワクチンを打って重症化をどの程度抑えられるのか。

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長:
重症化を防ぐために一生懸命ワクチンを作っているのだが、重症化率の数値化は非常に難しい。それができれば色々と明確になってくるのだが。先生方にうかがいたい。

松本哲哉 国際医療福祉大学 感染症学講座 主任教授
松本哲哉 国際医療福祉大学 感染症学講座 主任教授

松本哲哉 国際医療福祉大学 感染症学講座 主任教授:
数字で何%と出すのは確かに難しいかもしれない。だが、体の中でウイルスが増えるのを抑える抗体の量、抗体値が上がっていることがある程度の指標にはなると思います。

岡部信彦 政府分科会構成員 川崎市健康安全研究所 所長:
重症の定義はなかなか難しい。東京都と国とで違うくらいです。だが、少なくとも死亡というのは最大の重症だし、酸素を使わないで済んでいるなど、いくつかの指標を決めておかないといけない。

国産ワクチン開発は国家安全保障上の問題。国を挙げ平時から準備を

新美有加キャスター(左)、反町理キャスター(中)、永里敏秋 KMバイオロジクス 代表取締役社長(右)
新美有加キャスター(左)、反町理キャスター(中)、永里敏秋 KMバイオロジクス 代表取締役社長(右)

反町理キャスター:
新たな感染症に向けて。日本の製薬業界は今回、ワクチン開発が遅れた。今後、日本の製薬業界や日本の政府はどのような体制で準備をしておくべきか。

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長:
これまで感染症対策は企業に任せられてきた。やはり国を挙げて、国家安全保障上の問題のひとつとして、平時からしっかり予算を取って研究開発を進めていってほしい。今回、10年で5000億円の費用という話も出ているが、これを一過性ではなく継続したものに。

松本哲哉 国際医療福祉大学 感染症学講座 主任教授:
研究の下支えが大切。国からある程度の予算が出され、コロナの研究の裾野は広がってきている。これを短期的に終わらせないこと。

岡部信彦 政府分科会構成員 川崎市健康安全研究所 所長:
共通するが、あまりにも研究に対して成果主義すぎる。研究開発にはリスクもある。全体の戦略としてのワクチンについて、国と企業の方が考えながら「我々に必要なワクチン」を作っていく必要がある。

武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理:
どういう研究開発をしておけば、いざという時の感染症対応となるのか。それをできる限り明確にしてお金を投じておく。新しい感染症が発生した場合には、その基盤技術を駆使して直ちに追加投資を行い、国内ワクチン開発が迅速にできるようにすることが必要。

反町理キャスター:
それをやっておかないと、今回のように海外から買わなくてはいけなくなると。

武見敬三 自民党 新型コロナ対策本部 本部長代理:
国内の安定供給が第一。それから国際貢献。アジアを含めた発展途上国に対して、開発や治験の段階での国際的な共同治験のネットワークを作っておき、ワクチンの提供ができる国になること。 

BSフジLIVE「プライムニュース」10月27日放送