「レジリエンス」という言葉をご存じだろうか。

回復力・復元力などと訳され、ストレスを跳ね返したり、そこから立ち直る「心の強さ」を意味する。コロナ禍で子供たちにもさまざまなストレスがかかる中、レジリエンスを高めようという取り組みを取材した。

小学4年生以上の15~30%に「うつ症状」

まずは、実際に静岡市内でコロナ禍の子供たちの様子を聞いてみた。

10歳と8歳の子をもつ母親:
子供がイライラしたり、コロナ禍になってから増えたように思う

高校1年 女子生徒:
やっぱり修学旅行に行けなかったのが一番心残り。企画とか行事とか、全部キャンセルされたので、自由がないし遊べないし…

中学生と高校生の孫がいる女性:
孫が家から出る気がしなくなっている。遊びにおいでと言っても、自分の殻に閉じこもっちゃってる

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国立成育医療研究センターのグループが新型コロナウイルスによる心の影響を調べるために、小学生から高校生までの子供と、0歳~高校生の子を持つ親を対象にアンケート調査を行った(5回実施。延べ7000人以上の子供がインターネット回答)。

その結果、何らかのストレスを感じているとみられる子供は70%に上り、第4回の調査では小学校4年生以上の子供の15~30%に中等度以上のうつ症状が見られることが分かった。

国立医療成育研究センター こころの診療部・田中恭子診療部長:
先日、国際的なジャーナルにも子供のうつ症状や不安症状が、コロナ前に比べて2倍に増えたというデータが出ました。ですが、自分のストレスに気づけるのは決して悪いことではないので、どうしたらその気持ちを対処できるのか、大人も一緒に考えていく必要があると思います

国立医療成育研究センターこころの診療部・田中恭子診療部長
国立医療成育研究センターこころの診療部・田中恭子診療部長

レジリエンスは「メンタルが強い」とは違う

こうした中、注目されているのが心の回復力を意味する「レジリエンス」だ。レジリエンスを研究している静岡大学教育学部の小林朋子教授を訪ねた。

レジリエンスを研究している静岡大学・小林朋子教授
レジリエンスを研究している静岡大学・小林朋子教授

静岡大学・小林朋子教授:
レジリエンスは精神的回復力・立ち直り力と言われています。例えば、いろんな出来事にショックを受けて心の健康度が下がったとしても、そこから回復していく力と言われています

北村花絵アナウンサー:
「メンタルが強い」ということとは違うんですか?

レジリエンスは「メンタルが強い」「忍耐力が強い」とは違う
レジリエンスは「メンタルが強い」「忍耐力が強い」とは違う

静岡大学・小林朋子教授:
違いますね。人生いろんな出来事を経験して、その経験に全く影響を受けないということではなくて、つらい、しんどいと思っていいんです。そこからゆっくり回復していくのがレジリエンスで、1回落ち込むということが前提になっている。レジリエンスの概念の私が好きなところです

例えば「友達とケンカをしたが、コロナで直接話す機会がなく仲直りできない」という子供がいたとする。落ち込んだまま「もう学校に行きたくない」「他の友達にも嫌われたかも知れない」と立ち直れない子供もいれば、「今度会ったらごめんと言おう」「他に楽しいことを考えよう」と切り替えることができる子供もいる。

レジリエンスは、例えるなら「ヤシの木のようなしなやかさ」。風雨でヤシの木は激しく“しなる”が折れることはなく、嵐が去ればやがて元に戻る。人の心も嫌なことやつらいことがあると揺れるが、ポキッと折れさえしなければやがて立ち直ることができる。

突然の一斉休校…過ごし方のポイントを紹介

心の回復につながる行動の仕方や物事の考え方などを身に着けておくことで、レジリエンスを鍛えることもできる。

小林教授は2020年、初めての緊急事態宣言で学校が休校になった際に、学生と共にレジリエンスを高める方法を紹介した「レジりん通信」を作成。誰でも自由に閲覧、配布できるよう研究室のホームページに公開した。

「レジりん通信」を作成しインターネットに公開
「レジりん通信」を作成しインターネットに公開

静岡大学・小林朋子教授:
「レジりん」というキャラクターが語りかける形で作ってあります。レジリエンスという力があることを知ってもらい、過ごし方のポイントも分かりやすく紹介しました

直接会えなくても、LINEやメールで「人とのつながりを大事にすること」。また「早寝早起き・3食きちんと食べること」や「ゲームやスマホなど気分転換になることは時間を決めて楽しむこと」など、規則正しい生活もレジリエンスを高めることにつながる。

静岡大学・小林朋子教授:
ポジティブな先のことを想像することも大事と言われているので、学校に行けたらどんなことをしたいか、この際にチャレンジしたいことはあるか、投げかける形で作成してあります

北村花絵アナウンサー:
視点を変えることもできるようになっているんですね

「壊れたペン」誰が壊した? 大切なのはいろいろな見方

一斉休校の際にレジりん通信を全校児童に配布した、静岡県にある島田市立島田第四小学校。

2020年から、小林教授がレジリエンスを育む実践的な授業も行っている。

小林教授がレジリエンスを育む授業をしている島田第四小学校
小林教授がレジリエンスを育む授業をしている島田第四小学校

小林朋子教授:
きょうは物事の捉え方について、勉強していきましょう

この日は5、6年生が学校生活で起こり得る事例を元に、一つの考え方に捉われずいろいろな角度から考える練習をした。

【事例】自分の席をAさんが使っていた。自分の席に戻ると、机の上にあった自分のペンが壊れていた。

どんな考え方が出来るのか、まずグループで話し合っていく。

「自分のペンが壊れていた」 あなたはどう考えますか
「自分のペンが壊れていた」 あなたはどう考えますか

男子児童:
Aさんが壊したかもしれないし、先に壊れてたか。この2つだよね

別の男子児童:
Aさんがペンを落としてBさんが踏んだとか、もともと壊れそうだったペンをAさんが使って壊しちゃったとか

小林朋子教授:
元々壊れていたとか、嫌われていたとか、ストレス発散でやったんじゃないかとか、いろんな角度から考えることができたよね。それが大事。先生とかおうちの人相談して、人の意見を聞いて考えることもしてみてください。そうすると、ものすごく怒ったり落ち込んだりした気持ちが、ちょっとずつ変わると思います

何が起きるかわからない時代に「レジリエンス」

授業を受けて子供たちはどんなことを感じただろうか。

自分の考え方や気持ちを発表する子供たち
自分の考え方や気持ちを発表する子供たち

女子児童:
私は強いストレスを感じた時にすごく引きずりやすくて、回復するのに時間がかかりやすいので、いろんな角度から見てみることを実際にやってみたい

男子児童:
この授業のおかげでレジリエンスを初めて知ることが出来ました。レジリエンスを弱めることがいっぱいあるので、もっと上げていきたい

女子児童:
思い込みをして自分を傷つけてしまったことがあるので、自分の考えが全て正しいと思い込まずに、いろんな角度で考えれば自分の心を傷つけることはないと思います

いろんな視点があることに気づくことが大切
いろんな視点があることに気づくことが大切

小林朋子教授:
コロナ禍で大変な状況がある中で、何か起きても「あ~ダメなんだ」ではなくて、いろんな角度からこの状況を捉えられると、ちょっと楽しいことが見つかったり、新しい自分の一面に出会えたり。今後も何が起きるか分からない時代に、そういった力を子供たちに身に付けてもらいたいですね

「レジリエンスは子供だけでなく大人にも重要」と小林教授
「レジリエンスは子供だけでなく大人にも重要」と小林教授

誰も経験したことのない状況に直面している今、大人も子供も心が揺れるのは当たり前のこと。そんな自分を受け入れて少しずつ回復していく経験が、「生きる力」につながっていく。

【取材後記】
私自身も2児の母。2022年には長女が小学校に入学する。「コロナがきっかけで給食が食べられなくなった子がいた」「オンライン授業から対面授業に戻ったら、学校に来られなくなってしまった子がいる」。身近なママ友からこんな話を聞いたことがきっかけで、現状をもっと知りたいと思った。

この取材をするまで「レジリエンス」という言葉も知らなかったが、なにかと困難な現代社会を生きる上でとても大切な力だと感じた。

静岡県内でも小林教授が行っているレジリエンスの授業は、まだ限られた学校でしか実施されていない。今後、このような授業が広がって、子供たちが自分で回復していく力を身に付けられるようになっていってほしい。

国立成育医療研究センターでは、コロナ禍でストレスを抱える子供やその家族に向けて役立つ情報をHPに掲載したり、メール相談なども行っている。子供たちの心の助けになりたいと行動する大人がいるということも知ってほしい。

小林教授は「今は我々のレジリエンスが試されている時期」と言う。大人も子供も経験したことのない非常事態。それをどう乗り越えていくか、今こそ自分の大切な人や自分自身の気持ちに寄り添い、皆でレジリエンスを高めていきたい。

(テレビ静岡 アナウンサー 北村花絵)