弦楽器の製作に励む、長野・安曇野市の82歳の男性。
独学で80歳を前にバイオリンを作り始め、今はビオラに挑戦中。ものづくりの現場で培った技術と根気が生かされ、バイオリンはプロの演奏家も認める音色を響かせる。

試し弾きを聴く上野さん
試し弾きを聴く上野さん
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温かみのある深い音が響く

バイオリンの音色に浸る、長野・安曇野市の上野勝さん(82)。
この日、上野さんの自宅でバイオリニストが試し弾きをした。

上野さんが製作した4丁目のバイオリン
上野さんが製作した4丁目のバイオリン

バイオリニスト・巣山のえさん:
素晴らしい音、すごいすてき

上野勝さん:
うれしい、最高

バイオリニスト・巣山のえさん:
これは独特な柔らかくて温かみのある深い音がすごい。1つほしいぐらい

上野勝さん:
そんなこと言われたら、また作りたくなる

試し弾きをしたのは上野さんが作ったバイオリン。この春、完成した4丁目の自信作だ。

今はビオラを製作中

現在、作っているのはバイオリンより一回り大きいビオラ。上野さんはプロの製作家ではない。弦楽器を作るようになって3年ほど。
しかし、こだわりはプロ並みだ。

上野勝さん:
完成した時に、自分の思った通りにできているか。本物に近いなとか、設計図通りにできたとかね

厳しさと楽しさ…徹底した「ものづくり」へのこだわり

上野さんのこだわりは、「ものづくり」の現場で培われたものだ。

上野さんは15歳で松本市のエンジン製造会社に入社し、技術者の道を歩んできた。現場では正確な作業が求められ、問題があれば、製造ラインを1週間止めてでも徹底的に原因を追及。ものづくりの厳しさと楽しさを体で覚えてきた。

退職してからのめり込んだのは…

退職後に尺八を独学で製作
退職後に尺八を独学で製作

テレビから聞こえてきた尺八の音に惹かれ、独学で製作を開始。10年間で50本の尺八を作り、希望する人に販売もしてきた。

上野さんが作った尺八
上野さんが作った尺八

上野さんは退職後、「サイトウ・キネン・フェスティバル」(セイジ・オザワ松本フェスティバルの前身)でボランティアもしてきた。
一流の演奏に接しているうちに…

上野勝さん:
「サイトウ・キネン」で聞いた音が素晴らしくてね。何とかバイオリンを自分で作って再現できればいいなと

洋書を読んで作成したバイオリンの設計図
洋書を読んで作成したバイオリンの設計図

ものづくりの心に火がつき、79歳でバイオリンを作り始めた。辞書を片手に、製作方法が書かれた洋書を読みまくり、設計図を作成。

木曽からネズコの板などを仕入れた。尺八作りの経験はあったが、バイオリンは全く勝手が違った。板の厚さは場所によって0.1ミリ単位で変えていく必要があり、繊細な作業が続いた。

上野勝さん:
そりゃ、嫌になるよ。そういう時はやめて、畑に行ってリンゴの成長を見たり、草を刈ったり

上野さんの最初のバイオリン
上野さんの最初のバイオリン

それでも、4カ月で最初のバイオリンを仕上げ、この3年間で4丁を完成させた。

上野勝さん:
(完成すると)何とも言えない高揚感。これは素晴らしいものだと分かって、作ることの楽しさが湧いてきた。

上野さんのバイオリンによる特別な演奏会

上野さんが作ったバイオリンを巣山さんが演奏(地元の三郷公民館・2020年6月)
上野さんが作ったバイオリンを巣山さんが演奏(地元の三郷公民館・2020年6月)

2020年6月、地元の公民館で特別な演奏会が開かれた。バイオリニストの巣山さんが弾いたのは、上野さんが作ったバイオリン。親族や近所の人も、上野さんのバイオリンの音色に耳を傾けた。この時の映像を妻の敏子さんと見るのが楽しみの一つとなっている。

演奏会の映像を妻の敏子さんと見るのが楽しみ
演奏会の映像を妻の敏子さんと見るのが楽しみ

妻・敏子さん:
♪「あ~あ~、川の流れのように…」

 
 

上野勝さん:
最高じゃない、自分の楽器でプロの人が弾いて、妻が歌うなんて

アクシデントは何回も…乗り越えて続ける“追求”

ビオラの製作
ビオラの製作

2021年1月から始まったビオラの製作。塗装する前に、弦の張り具合を確認する段階まできた。弦を巻くペグを取り付ける。

すると…

上野勝さん:
おや?外れちゃった

アクシデントだ。ボディの内部に立ててあった「魂柱」が外れて…

「魂柱」は振動をボディに伝える重要なパーツ。内部は見えないため細い工具を使って慎重に立て直す。

細い工具を使って慎重に立て直すが…
細い工具を使って慎重に立て直すが…

上野勝さん:
手がふるえちゃう。うわー、もう…

魂柱を立てる作業は特に集中力が必要。この日は諦め、弦の張り具合だけ確認した。

魂柱を立てる作業は、この日は諦めた…
魂柱を立てる作業は、この日は諦めた…

上野勝さん:
これはダメだな、これ(指板)が高すぎて。5ミリ前後のすき間を作らないと、弦が指板にあたっちゃう

アクシデントや思い通りにならないことは、かつてのエンジン製造でもバイオリン製作でも何度もあったこと。それを乗り越えてきたのが、上野さんのものづくりだ。

今後、指板の修正や塗装をして、2022年春にはビオラを完成させるつもりだ。

様々なアクシデントを乗り越えて、製作を続ける…
様々なアクシデントを乗り越えて、製作を続ける…

上野勝さん:
完成させようという気持ちがなかったら仕事はできないよ。美しいものは美しい、それを追求しないと。ビオラが出来たら、弦楽器の演奏会でもしてもらえれば。自分がやらなきゃいけないな、やってみたい

(長野放送)