長崎の生き字引、郷土史家の越中哲也さん(99)が9月25日に亡くなった。
新型コロナウイルスの影響でやむなく家族葬を選ぶ家庭が多い中、多くの市民に愛された越中さんの告別式には、生前親交のあった約250人が参列した。

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越中哲也さんは9月25日、入院先の病院で99歳で息を引き取った。

「越中先生」99歳で逝く 長崎の歴史・文化の研究に大きく貢献

1921年(大正10年)に長崎市の光源寺で生まれた越中さんは、長崎の歴史や文化の研究や普及に大きく貢献し、「長崎学」の裾野を広げた。

特に被爆後の国際文化都市としての観光ブームに火をつけ、数多くのメディアに出演し、「越中先生」として幅広い世代に親しまれた。

長崎市都市経営研究所・宮川雅一所長:
長崎学というおもしろい分野があると教えてもらって、私なりに楽しむというか、晩年を楽しく過ごした。長崎のためによく頑張って頂きました

丸山町自治会長・山口広助さん:
遺志は引き継いでいると私は自覚しているので、次の長崎学は任せとかんねという感じですね。ありがとうございました

アナウンサーとの軽快なやりとりで人気に

越中さんが1988年から出演していた、テレビ長崎の情報番組のコーナー企画「哲ちゃん松ちゃん漫遊記」。
長崎の歴史や文化を学びながら、松永友幸アナウンサーとの軽妙なやりとりが人気だった。

テレビ長崎・松永友幸アナウンサー:
きょうから中国盆が始まりまして、この崇福寺ですね。先生、カメラは向こうですね

越中哲也さん:
ここに入ったら閻魔様がいる。地獄、極楽の分かれ目で…

テレビ長崎・松永友幸アナウンサー:
じゃあ、玄関に入ってきたら私と先生は分かれなければ

越中哲也さん:
私は極楽のほうですから、あなたは地獄

長崎のことなら何でも知ってる「越中先生」

越中さんは古賀十二郎さんをはじめ、多くの郷土史家とともに長崎の歴史や文化を学び、「長崎学」の発展に貢献した。

各踊町が伝統のだしものを披露する「長崎くんち」や、夏の風物詩として知られる「精霊流し」、そして海外との交流の歴史など、長崎のことなら何でも知っている「越中先生」として親しまれてきた。

越中さんの監修で精霊船が作られたことも。

越中哲也さん:
精霊船というのは、家のものが全部送っていくわけ。縁故のある人が。だからお祭りじゃないのよね。静かにお送りするという気持ちが表れてるという気持ちで流したい

戦後、観光の町として復興を目指した長崎。
三菱造船から市に寄贈された旧グラバー住宅にも越中さんの功績が残る。

観光客など多くの人が訪れるスポットに
観光客など多くの人が訪れるスポットに

越中哲也さん:
グラバー邸って、今はみんな知ってるけど、グラバーっていうおじさんなんて、みんな知らないわけよ。グラバー邸もらったけど、中は何にも、空っぽよ。リンガー邸にしたって、何でも空っぽさ。何かこう、グラバーのものを集めて飾りたかったけど、何もないのよ。それで市内の骨董屋を走り回って、グラバーの使ったかもしれない物を集めたのが今のグラバー邸よ

現在の天皇陛下が16歳のとき、長崎を案内する大役も務めた。
その夜の思い出をうれしそうに語っていた。

現在の天皇陛下に長崎を案内(1977年)
現在の天皇陛下に長崎を案内(1977年)

越中哲也さん:
きょう皇太子と会ったのよと自慢して、飲み屋を2、3軒回ったんでしょう。帰ったらね、(その日に貰った)お土産が半分になってたんです

記者:
どうしてですか?

越中哲也さん:
配ったんですよ。「皇太子のおみやげよ」って言って、みんなに配ったんです。家に帰ったら「きょうは何もなかったんですか?」と家内から言われて、「う~ん」って言ってから開けたら半分しかないんです。「どこに行ってたんですか!」って怒られたことをよく覚えてます

チャーミングな一面ものぞかせ、多くの市民に愛されてきた越中さん。
1日郵便局長や、確定申告「e-Tax」のPRなどのお役目も・・・

越中哲也さん:
簡単なことは簡単ですよ。押せばいいんですからね

「96条を変えたら9条も変わる」 戦地に赴いた経験も

戦争の時代を知る越中さん。「和」の大切さを説き、現在の憲法を守る活動にも取り組んだ。

憲法記念日 2013年5月
憲法記念日 2013年5月

越中哲也さん:
(憲法改正の発議を緩和する方向で)96条を変えたら、9条も変わりますよ。「和」というのはね、すべて今の憲法があったことで出来たんですからね

2020年3月には、テレビ長崎の50周年記念特別番組で生中継に登場。あの名物コーナーが復活した。

テレビ長崎・松永友幸アナウンサー:
先生、おいくつになりました?

越中哲也さん:
98歳

テレビ長崎・松永友幸アナウンサー:
今年(2020年)12月で99歳、白寿ですよ。拍手~

越中哲也さん:
え?何?

テレビ長崎・松永友幸アナウンサー:
お祝いしてるんです

越中哲也さん:
ありがとう、ありがとう

晩年まで長崎の魅力を伝えてくれた越中さん。
2022年の精霊流しには、きっと長崎の街に戻ってきてくれるのではないだろうか。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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