30年前、鳥取にIターンした漆職人の男性。古くは産業としても盛んだった漆文化の復活を目指す男性の活動を取材した。

智頭産杉の木目が鮮やかに浮かび上がる弁当箱に、鈍い光沢を放って輝くコーヒーカップ。工房に並ぶのは約50点の漆器。

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「佐治漆を復活させて新しい鳥取漆器を」

作ったのは橋谷田岩男さん。消えゆく漆文化を受け継ぐ漆芸家。

漆芸家・橋谷田岩男さん:
一度消えてしまった佐治漆を復活させて、それを使って新たな鳥取漆器を作り上げて行きたい

橋谷田さんが工房を構えるのは鳥取・智頭町。市街地の喧騒から離れた静かな山間の町。

漆器作りは、樹液の濾過から始まる。少しでも不純物があれば漆器の表面に凹凸ができるため、この行程に1時間以上費やすこともあるという。

そして塗布。3層に塗り重ねるため、中には制作期間が半年以上かかるものも。

漆器の多くは1万円以上と決して安くはないが、その品質の高さから県内外のお客に愛されている。

漆芸家・橋谷田岩男さん:
佐治の漆は色の伸びが良い、非常に透き通っている

橋谷田さんは福島県出身。漆芸家の父の元で幼少期から漆に親しみ、その工房は兄が継いでいる。橋谷田さん自身は、30年前に妻の実家がある鳥取県にIターンし、工房を開いた。

江戸時代から続く鳥取の“漆”を守る

鳥取の漆にこだわる橋谷田さん。漆器の制作に加え、今 地元住民と漆の植林を進めている。案内されたのは、鳥取市佐治町の山奥。

漆芸家・橋谷田岩男さん:
ここは漆の林なんです。今150本くらい

佐治町は、江戸時代から全国でも名だたる漆の産地として知られてきたが、1960年代以降は中国産の安価な漆や化学塗料に押されて衰退。最盛期だった江戸時代末期に年間で1トンあったとされる出荷量も、今はほとんどない。

漆芸家・橋谷田岩男さん:
鳥取県を代表する漆が、このままだと消滅することに危機感があった

しかし、イノシシが林を荒らしてしまう。

漆芸家・橋谷田岩男さん:
イノシシが根っこを掘り起こして食べてしまう。やられたら一発で終わり

漆が成木になるのは、早くて5年後。心配は尽きない。
また、漆文化復活にはこんな取り組みも。

漆芸家・橋谷田岩男さん:
鹿の皮はみんなは使わないけど、何か作れないかと思って。これは漆のコーヒーです。漆は捨てる所がないからね

地元で捕獲された鹿の革に漆を塗り重ねた製品を発表するなど、漆を通した地域産業の振興だ。
橋谷田さんの取り組みは、SDGsの8番目「働きがいも経済成長も」に該当する。

地元で捕れた鹿の革をつかった製品
地元で捕れた鹿の革をつかった製品

漆芸家・橋谷田岩男さん:
佐治の漆を植えて、地元の素材に漆を塗る。オール鳥取、メイドイン鳥取で作りたい。それが自然と、文化として浸透していけばと思う

鳥取の漆文化に再び明かりを灯すために。復活までの長い道のりに向き合い続ける。

(TSKさんいん中央テレビ)

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