中国と北朝鮮、ロシアが境界を接する中国・吉林省にある海沿いの街・琿春(こんしゅん)には、北朝鮮とロシアからの海産物を扱う店が軒を連ねる一画がある。

カニやナマコなど北朝鮮からの海産物が豊富に扱われ、かつては地元の人や観光客らで賑わっていたというが、新型コロナウイルスの影響で中朝境界が閉鎖されて1年以上が経ち、その雰囲気は様変わりしているようだ。
中朝の貿易が停止している現状を取材した。
海産物は全てロシア産
その通りにある店舗は20軒あまり。看板にハングルや北朝鮮の地名が書かれた店もみられた。だが、中朝境界閉鎖の影響か、お世辞にも賑やかとは言い難い雰囲気だ。

店の中に入ると独特の潮のにおいがして、カニや貝の入った数々の水槽が目に付く。客はどの店にもいない。店員も奥で休んでいて、売り場はほぼ無人だった。

店の人に声をかけて聞いてみると、やはり北朝鮮からの海産物は入っていないという。どの店主も「いまはロシア産のものしかない」と口をそろえて答えた。
ただ、その期間については聞く人によって分かれた。新型コロナウイルスの拡大に合わせて「2020年から」という答えもあれば「国連の制裁のせいで2年以上入っていない」と言う人もいた。

いつ入荷を再開するかの見通しもわからないが、影響はそれほどないという。
そのためか危機感は全くなく、気長に待つしかないという人がほとんどだった。「あまり獲りすぎるとなくなってしまうので、少しくらい休んだ方がいいんじゃないか」などと話す店主もいた。
ちなみに味の方は北朝鮮産もロシア産もそれほど変わらず、貝については、北朝鮮産は殻が薄くて実が多く、ロシア産は殻が厚くて実が少ないという。
経済開発区に住む北朝鮮労働者

また、別の一画には、多くの北朝鮮の人たちが働いているという縫製工場もあった。かつて中国が北朝鮮やロシアなどに呼びかけた共同開発地域だ。
人の出入りはほとんど確認できなかったが、入り口には単なる警備とは様相の違う人が厳しい目を光らせ、車から降りての撮影は出来なかった。

国連制裁により、北朝鮮からの出稼ぎ労働者は受け入れが禁じられているはずだが、地元の人によると、この地域に来ている北朝鮮人はおよそ3000人にのぼるという。居住スペースも工場の敷地内にあるので、外に出てくることはあまりないそうだ。
ロシア人らしき人の姿は全く見られなかった。

コロナ禍で敏感なのは北朝鮮?
北朝鮮の貿易の9割は中国が占める。中国側のデータ(税関総署)では、2020年の中朝間の輸出入額はおよそ5億3906万ドル(約560億円)で、前年に比べ80%超の減少となった。新型コロナによる境界封鎖が直撃した形だ。
実際に中朝貿易、人やモノの行き来はどうなっているのかを複数の街で取材したが、どの街でも動きはないという話だった。
北朝鮮の新義州市と橋で結ばれている遼寧省・丹東でも鉄道や車の行き来は全くなく、公安警察が周辺を警戒するばかりだった。

貿易の再開は4月とも5月とも言われていたが、南北関係者によると「新型コロナウイルスの影響で中国よりも北朝鮮がより慎重になった」という。インドでの感染拡大や変異ウイルス「デルタ株」の拡大が影響したという指摘もある。
北京では、国交を断絶したマレーシアから出国した北朝鮮の外交官らがいまだ留め置かれているほか、前駐中国大使・池在竜氏も北京にそのまま滞在している(朝鮮半島関係筋)そうだ。
今のところ、北朝鮮がこうした人たちを受け入れる兆候はないという。

6月にもロシアの外交官らが北朝鮮を出国するなど、ほぼ“鎖国”に近い状態で、食糧難や物資不足も深刻化していると伝えられている。
7月11日、中朝は友好条約締結60周年を迎え、金正恩総書記と習近平国家主席が祝電を交換した。

金総書記は「中朝両国は、この60年、生死苦楽を共にし、物心両面から協力して誇らしい友好の歴史を綴ってきた」と指摘。習主席も「中朝と双方の人民により大きな幸福をもたらす準備がある」と応じた。
「血の同盟」とも言われる隣国、中国は引き続き、北朝鮮を支援していく姿勢を示しているが、見えない部分はまだまだ多い。
中朝境界での人とモノの往来がいつ、どのような形で再開されるのか、注目したい。
【執筆:FNN北京支局長 山崎文博】