老舗店の上生菓子 生み出すのは芸大出身の女性
愛知県豊橋市にSNSで話題の思わず笑顔になる和菓子がある。
季節感と可愛さが融合した菓子を生み出すのは、この世界では珍しい芸術大学出身の女性職人だ。シングルマザーであり、難病を抱えながらも「カワイイ」でたくさんの人の心をつかんでいる。
愛知大学のすぐ北にある和菓子店「お亀堂」。昭和25年から続く、東三河地方では馴染みのあるお店だ。
扱うのは大福やみたらし団子などの定番から、あのブラックサンダーとコラボした「あん巻き」まで。伝統を守りながらも、新しい和菓子を開発している。
中でも話題なのが、かわいらしい見た目の月替わりの「上生菓子」。2年前から販売を始めたところ、「映える」とSNSを中心に人気を集めている。
女性客：
キラキラしたものもあって、すごくかわいいです。自分用にも買っちゃいます
男性客：
お正月には干支のお饅頭とかがあった。おいしい
この和菓子のデザインを手掛けるのは、石川未紗さん（34）。和菓子の世界では珍しい芸術大学出身の職人だ。
シングルマザーであり、難病も抱えている。父親に支えられ、体調に気をつかいながら仕事に子育てにと奮闘している。
和菓子職人の父 行人さん：
デザインの学校に行っていただけあって、こだわりとセンスがある。最初は和菓子として受け入れられるのか、（という気持ちが）あったんですけど、若い客層に受ける
父と二人三脚で100種類以上の上生菓子を開発
人気の「上生菓子」は、石川さんがデザインや仕上げをして、味や材料、作り方は父・行人さんが担当。親子二人三脚で、これまでに100種類以上の商品を生み出した。
デザインで意識するのは、和菓子に欠かせない「季節感」と「かわいさ」の融合。思いついたらデッサンし、どんな材料で作るのかを考えて商品会議に上げる。5月に販売したのは「幸せクローバー」だ。
まずは、白あんに求肥が練り込まれた練り切り生地に、空気を抱き込ませるために「おかもみ」をしていく。こうして空気を含ませると生地がより白くなるため、色をつけた時に発色がよくなるとのこと。続いて、こしあんを包む。
石川未紗さん：
どら焼き皮のような真ん中が厚くなっています。なるべくあんこを下に、おしりぎりぎりまで。（細工で）彫った時にあんが透けてしまうので
丸くしたあと白の練り切りをのせ、薄くのばす。三角ベラで茎となる二重線を入れ、四つ葉となるよう4等分に目印をつけておく。
ここで取り出したのは、100円ショップで購入したという細工用のスポイト。これでクローバーを作る。
スポイトでぐっと押し、葉の形を表現。あんを下に置いた分、こうしても透けて見えることはない。さらに、スポイトの頭のてっぺんにある線が、葉にある表情をつくり出した。
石川未紗さん：
わざと傷つけるようにすると、クローバーの葉脈のように。あとで寒天を流した時も透けるので
意外なものを使って葉脈を表現していた。いろいろ試して行き着いたのだそうだが、これには父・行人さんも舌を巻く。
父・行人さん：
昔からこういう技法はあるんだけど…。自分で使いやすい道具をというのは、実に現代っ子。あるもので作る、すごいなと
石川さんは道具を作るのではなく、100円ショップで使えそうなものを揃えている。
「父に恥じぬ娘でありたい」和菓子の講習会をきっかけに職人の道へ
子供の頃から絵を描くことが好きだった石川さんは、芸術大学のデザイン科に進学した。
ところが大学4年の秋、突然高熱で倒れ、全身のリンパが腫れて寝返りすら打つことができなかった。膠原病・リウマチの一種の「成人スチル病」という難病だった。
石川未紗さん：
毎日薬を飲んで、様子を見つつ過ごしている。朝から晩まで一週間続けると、さすがに「エラいな（疲れた）」という感じがわかってくるので、疲れを溜めないようにしています
大学を出て就職するも、体調を崩して退社。その後、結婚と出産を経験するが、産後2週間で離婚。両親の勧めから実家でパートをしながら、幼い子どもを育てることにした。
そんな時、父・行人さんが何気なく誘ってくれた「和菓子の講習会」への参加が転機に。
石川未紗さん：
（講習会で）同業者の方に「実は私の娘でして」と紹介を…。ちょっと嬉しそうだなと見ていると父に恥じぬ娘でありたいというか…。そこで本気になって父を手助けしたいと
父・行人さん：
40年やってきた色んな知識を受け継ぐ人がいないのは悲しかった。自分の跡を継いでくれる、和菓子の技術を引き継いでくれるのは本当に嬉しいですね
父親への思いとデザインの知識が、これまでにない「かわいい」和菓子を生み出した。
少しでも気分が上がるような和菓子を 上生菓子に込めた思い
石川さんの上生菓子作りも佳境に。成形を終えると、寒天と砂糖を煮詰めて「錦玉羹（きんぎょくかん）」を作る。錦玉羹にする理由は、みずみずしさを表現する透明感で下の模様が見えるようにするためだ。
煮詰め終えると緑に着色し、葉の形にしたところへ流しこむ。すると、四つ葉のクローバーが姿を現した。冷えて固まったら、最後に赤い羊羹を乗せて、てんとう虫がとまっているのを表現。
上生菓子「幸せクローバー」。思わす写真に収めたくなる可愛らしいデザイン。粘りのある練り切りあんの食感と、あっさりとしたこしあんの甘味が絶妙だ。
石川未紗さん：
父が背負っている仕事を奪う気持ちで吸収しているところ。どんなことでも「自分に負けない」というのをモットーに奮い立たせていますね
暗い話題が多い中、少しでも気分が上がるような和菓子を…。石川さんの思いだ。
（東海テレビ）
