子どもの歯磨き中の事故が相次いでいる
子どもが歯ブラシをくわえたまま転倒し、のどを突くといった事故が相次いでいる。
消費者庁によると、2016年4月~2021年3月末までに、6歳以下の歯磨き中の事故が120件報告され、そのうち3歳以下の事故が104件だった。けがをした要因としては、「転倒」が72件と最も多かった。
治療の必要性と処置見込みを見ると、「通院を必要とする事例」が49件(41%)、「入院を必要とする事例」が27件(22%)で、この2つの事例で全体の約3分の2を占めていた。
そして報告された事故の中には、「歯ブラシが口の中やのどに刺さって、集中治療室(ICU)に入室する必要が生じた」などの重大な事例も含まれていた。
虫歯予防のためにも、歯磨きは子どもにとっても大切な毎日の習慣となる。では、このようなけがにつながる歯磨き中の事故を、防ぐためにはどうすればよいのか?
また、事故が起きてしまった場合、どのように対処すればよいのか? 消費者庁・消費者安全課の担当者に話を聞いた。
3歳以下の事故が多い理由と事故の具体例
――3歳以下の事故が多い理由は?
東京都の報告書(子供に対する歯ブラシの安全対策 報告書)によりますと、「この年齢の子どもの特徴として、身長に対して頭部が重く、重心が上方にあり、運動機能の点でも、まだ歩行が不安定であるため、転倒しやすい傾向がある」とあります。
――たとえば、どのような事故が報告されている?
以下のような事例が報告されています。
【事例1】
2歳の子どもが歯ブラシをくわえたまま、大人用のベッドの上で飛び跳ねていた。保護者が気付くと、口の中に歯ブラシがあるまま四つんばいで泣いていた。
歯ブラシはすぐに取れたが、転倒した際に咽頭部に刺さったと考えられた。咽頭粘膜の下に空気がたまっていたため、集中治療室に入室、8日間入院。
【事例2】
5歳の子どもが洗面所で歯磨きをして、仕上げ磨きのために保護者がいるリビングに向かう際、歯ブラシをくわえた状態で転倒。保護者は目撃しておらず、物音で気が付いたところ、四つんばいになって泣いており、歯ブラシは床に落ちていた。
夜間に痛みと体熱感があり、咽頭損傷疑いで受診。 頸部の画像検査にて、頸動脈血管損傷を疑う所見が認められ、気道閉塞の可能性があり、気管挿管された。集中治療室に入室し、10 日間入院。
歯磨き中の事故を防ぐためには…
――事故を防ぐためにはどうすればよい?
事故防止のために、特に事故が多い、1歳から3歳頃の子どもが自分で歯磨きをするときは、以下のことに注意しましょう。
<1>歯磨き中は保護者がそばで見守り、床に座らせて歯磨きをさせましょう。
子どもが、歯ブラシを口に入れたり、手に持ったりしたまま歩き回ると、転倒してけがをする危険があります。
ソファや椅子、踏み台など、転落するおそれのある不安定な場所での歯磨きは避けましょう。転倒したり、家族などの人や物にぶつかったりしてけがをすることがあります。
歯ブラシを口に入れたり手に持ったりした子どもの周囲には、転倒する原因になりやすい、クッション、布団、コードといった物を置かないようにしましょう。
<2>子ども用歯ブラシは、のど突き防止対策を施したものを選び、保護者が仕上げ磨きをする歯ブラシと使い分けをしましょう。
幼児期の子ども自身の歯磨きは、習慣づけとして大切ですが、子ども用歯ブラシはきれいにする効果が不十分なため、保護者が仕上げ用歯ブラシで仕上げ磨きしましょう。
ただし、仕上げ用歯ブラシは、子どもには持たせず、子どもの手の届かない場所に置きましょう。
「歯磨き中に転倒したようだが…見ていなかった」場合の対処法
――歯磨き中に子どもが転倒したようなのだけれど、その場面は見ていない。こういうときはどのように対処すればよい?
子どもたちの転倒事故は、転倒の瞬間の場面を見ていなかったというケースがほとんどです。歯磨きのときは歩かせないことが大事なのですが、「歯ブラシを持ったまま転んだかも?!」と感じたら、次のことをチェックしてみてください。
<1>持っていた歯ブラシに血液はついていませんか?
ブラシ部分だけでなく、柄の部分もしっかり確認しましょう。出血がある場合は、病院の受診を検討しましょう。病院を受診する際は、原因となった歯ブラシも持参しましょう。
<2>口の中をしっかり観察しましょう。
口を開けさせて、出血しているところがないか観察します。舌を上げさせて舌の下にも傷がないか確認しましょう。
転倒による歯ブラシののど突き事故では、のどの奥に傷があることが多いので、子どもに舌をベーと出すように指示してのどの奥も観察しましょう。スマートフォンのライト機能などを使って明るくすると観察しやすいです。
<3>2、3日は、全身の状態を注意深く観察してください。
歯ブラシのブラシ部分には細菌の付着があるため、受傷後に細菌感染が起きることがあります。
すぐに止血した場合でも、小さな傷であっても感染が起こる可能性はあります。傷の周囲が腫れてくると飲み込みがしづらくなり、嚥下の時に痛みを訴えるようになります。
また、発熱することもあります。受傷した後は、食事の量や体調には十分に気をつけて過ごしましょう。
――病院に行くかどうかの判断に迷ったら、どうすればよい?
専門家からアドバイスを受けることができる電話相談窓口「♯7119」があります。
電話口で医師、看護師、相談員がお話を伺い、病気やけがの症状から救急車を呼んだ方がいいか、急いで病院を受診した方がいいか、受診できる医療機関はどこかなどを案内してくれます。
3歳以下の子どもで特に多いという、歯磨き中の事故。防ぐための方法として消費者庁があげているのは「歯磨き中は保護者がそばで見守り、床に座らせて歯磨きをさせる」「子ども用歯ブラシは、のど突き防止対策を施したものを選び、保護者が仕上げ磨きをする歯ブラシと使い分ける」という2点だ。
3歳以下の子どもは、注意しても、なかなか言うことを聞いてくれないことが多いだろう。事故が起きないよう、保護者が見守ったり、対策をとることが重要となる。
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