身近な食べ物に潜むリスクをシールで予防

子どもが口に入れてしまいそうなものには注意が必要。

編集部では以前、化粧水を含ませて使う「ローションシート」がラムネ菓子と似ていることから、子どもが誤って食べてしまう事故についての記事を紹介した。

(関連記事:ラムネと勘違い? 「ローションシート」誤飲を消費者庁が注意喚起…この夏増えるかもしれないその理由

他にも、小さなボール型の洗濯用洗剤やボタン電池などにも「誤飲事故」は多発しているが、ローションシートの例で危険なのは、水分を含んで広がったシートが喉に詰まってしまい、窒息してしまう危険があるということ。

小さな子どもがいる家庭では、このような「食べ物以外」の危険物に関しては十分気を配っているだろう。しかし、窒息の危険は、ごく普通に口にする食べ物にも潜んでいるのだ。

それが、ミニトマトやぶどうなどの、表面がつるりとした小さく丸い食べ物。
これらによる窒息事故を防ぐためのシールを、子どもの傷害予防に関する様々な活動を行うNPO法人 Safe Kids Japanが発信している。

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ミニトマトとぶどうが縦に4つ切りにされたイラストと、「4才までは4つに切って」と呼びかける文章がデザインされている、こちらのシール。

Safe Kids Japanの公式サイトで無料ダウンロードでき、A4サイズのシートに24個・シールひとつが直径4cmのサイズで印刷される。

Safe Kids Japanによると、この4cmというサイズは、3歳の子どもが大きく口を開けたのと同じ大きさ。4cm以下の食品やおもちゃなどは子どもの口に入りこんで窒息が発生する可能性が生じるということで、シールの大きさと比べることでも「子どもたちの口に入る大きさで、かつ窒息の危険性が高いかどうか」を確かめることができるようになっている。

また、4歳という年齢については目安ということで「お子さんの発達状況や咀嚼力に応じて判断してください」との注意も添えられている。

毎日の食事に彩りを添えたり、おやつにデザートにと、食卓によく登場するこれらの食べ物。
SNSでは「八百屋さんやスーパーで活用してほしい!」との声も挙がっているが、Safe Kids Japanに、このシールを作成した経緯などを聞いてみた。

くり返し起きる事故に「周知方法を変えた」

――このシールを作った経緯は?

2020年9月7日に、八王子市内の私立幼稚園で、4歳男児が大粒のぶどう(ピオーネ)を食べ、窒息して亡くなりました。実はこのような事故は過去に何度も起きており、当会も主に消費者の方を対象に「4歳までは4つに切って」と周知してきました。

しかし今回また同じような事故が起きてしまい、従来の方法では予防ができないことがわかりました。そこで周知の対象と手法を変えることにしました。まず主たる対象を生産者、流通事業者、小売店、給食会社等に、手法を言葉ではなくシールに変えた次第です。


――どのように周知している?

当会と「子どもの事故予防地方議員連盟」の連名で要望書を作成し、農林水産省、JA、JA系の小売店、青果物の通販事業者、給食会社等に送付しました。当会会員が地元スーパー等に直接依頼してくれたケースや、お付き合いのある保育所に知らせてくれたケースもあります。

一方、報道やSNS等でこのシールのことを知った小売店や個人の方もこのシールを活用してくださっているようで、一般の方から「スーパーの売り場でこのシールを見た」という情報や写真が寄せられています。

Safe Kids Japanによると、シールを作成したきっかけは、ぶどうによる4歳男児の窒息事故。

消費者庁によると、平成22年から26年までの5年間で、食品による14才以下の窒息死事故は103件。うち87件が6歳以下の子どもで発生しており、2017年には「食品による子供の窒息事故に御注意ください」という呼びかけが行われている。

Safe Kids Japanの公式サイトでは、1歳児がミニトマトを喉に詰まらせてしまった事故の例が報告されており、今回のシールと同様に「ミニトマトやぶどうなど、丸くてある程度の硬さがあり、外側がツルツルしていて喉の奥にスルッと入りやすい野菜や果物は、1/4以下の大きさにカットしてから与えましょう」と予防法が紹介されている。

こうした呼びかけがされている中でも、窒息事故がくり返し起きている現状から、新たな周知方法としてこのようなシールを発信したという。

危険な食材に考える「手間とリスク」

これまでに約100件がダウンロードされていて(11月7日現在)、もともとは「食材を提供する事業者の方々を通じて一般消費者の皆さんに安全な食べ方をご紹介したい」ということで作られたものだが、個人でダウンロードして使っている人もいるという。


――シールを使った人からはどんな声が寄せられている?

「ぶどうで子どもが窒息することは知らなかった」、「これから必ず4つに切ります」という声が多数寄せられています。「冷蔵庫に貼っています」という一般の方もおられました。

ただ、これは「シールを使った人」ではないですが、「子どもに季節の味を味わわせたい」「よく噛むように指導する」「そばで見守り、丁寧な保育をするので問題ない」といったコメントもありました。
 

「ぶどうで窒息リスク」には驚きの声も
「ぶどうで窒息リスク」には驚きの声も

実は、2016年度に内閣府が公表した教育・保育施設等向けのガイドラインの中では、「白玉風のだんご」や「丸のままのミニトマト」などについて「過去に、誤嚥、窒息などの事故が起きた食材は、誤嚥を引き起こす可能性について保護者に説明し、使用しないことが望ましい」とされている。

このようなガイドラインがあること自体、一般の家庭ではなかなか知る機会がないかもしれないが、つまり「危険な食材はそもそも幼児に食べさせない方がいい」ということ。
子どもの窒息事故を防ぐために「食材を切って与える」ことを推奨するシールは、このガイドラインについてはどう考えているのだろうか。


――「食材そのものを使わないように」というガイドラインはどう考える?

「使用しないことが望ましい」というのは、「極力使用しないようにしてほしい」という意味です。誤嚥や窒息のリスクを冒してまで、「白玉風のだんご」や「丸のままのミニトマト」を提供する理由はないと考えます。

教育・保育施設の給食でミニトマトやぶどうを提供することと、一般家庭で提供することは状況が異なります。前者では食材を大量に用意して大勢の子どもに同時に食べさせなければならない上、衛生管理についてはこの上なく厳しい基準がありますので、「4つに切る」のは大変な手間です。
実際には「4つに切る」手間をかけてまでミニトマトやぶどうを提供する施設は少数であると思われますし、その手間をかけてまでミニトマトやぶどうを提供する必要もないでしょう。

一方、一般家庭においては、子どもの数が少ないので、「4つに切る」手間もさほどではないので、必ず「4つに切って」食べさせていただきたいと考えます。

明確に区別しているわけではないですが、上記のとおり、教育・保育施設においてはガイドラインを遵守していただき、それでもどうしてもミニトマトやぶどうを給食の食材として提供したい場合は「4つに切って」いただきたい、と考えています。

また、「4つに切って」というメッセージを教育・保育施設の方や一般の方に伝える方法として、従来は報道やウェブサイト、SNS等での発信によっていましたが、今回はそのもっと手前の部分、生産者や流通事業者、給食食材の納入業者、小売業者といった方々にも知っていただき、そこから発信していただくことで、教育・保育施設の方や一般の方にも伝わるのではないかと考え、実施しています。


幼稚園や保育園といった場所で、大勢の子どもたちの安全を守るのは難しい面があるため、ガイドラインの通り「提供そのものをしない」という選択が必要になってくる。一方で、家庭では今回のシールの通り「4つに切って食べる」ということを知り、徹底してほしいとのことだった。
 

「注意しましょう」という曖昧な表現が多いことも課題

――子どもの誤嚥事故がくり返し起きている現状について…

誤嚥に限らず、子どもの事故の多くは繰り返し起きています。その理由はいくつかありますが、ひとつは、どこでどのような事故が起きたのか、傷害の程度はどれくらいか、なぜその事故が起きたのか、といった詳細なデータが蓄積されていないことです。
今回は死亡という事態になったので大きく報道され、皆の知るところとなりましたが、誤嚥により窒息し、死亡にはいたらないまでも重度の障害を負うことになったケースは多数あると推察されます。

医療機関を受診したケースについては、事故にいたった原因や背景を含めた詳細情報を記録、それを全国で一元管理し、個人が特定されないよう加工した上でデータベース化することが必要です。その中の、「(1)発生頻度の高い事故」「(2)重症度の高い事故」「(3)新たに出現してきた事故」を対象に、集中的に対策を取る必要があると考えます。

対策も「注意しましょう」といった漠然とした周知ではなく、原因となった製品を変える(改良する)、規則を変えるといった具体的な手法をとるべきです。そして対策をとった後には必ず「評価」をし、対策の効果測定を行う、効果がない場合は別の対策をとる、また効果を測る…という繰り返しが必要です。

――今後、事故を減らすために必要なことは?

国が行うべき対策は上記に加えて、保育士養成校、保育士試験、いわゆるキャリアアップ研修等の授業・講義や試験問題の中で、「誤嚥」に関する領域を強化し、これから保育士になろうとする人、実際に保育士として保育にあたっている人が正しい知識を得られるようにするべきです。

施設(この場合は教育・保育施設)においては、まずは法令遵守ができているか、国や自治体が定めた規則に従っているか、の確認が必要です。今回も、もし内閣府のガイドラインをしっかり読みこんで理解し、それを実施していれば予防は可能だったと思われます。

個人として行う対策は、正しい情報を入手することでしょうか。これは誤嚥に限ったことではないですが、今は子どもの事故に関してもネットニュースやSNS等でさまざまな情報が飛び交っており、これらの真偽を突き止めることは容易ではありません。
こと「子どもの事故」については、正しい知識や情報を得ることが重要なので、まずは国や自治体の情報を得ることになりますが、「誤嚥」について言えば、国や自治体の情報は必ずしも最新とは言えず、また「目を離さないようにしましょう」「気をつけましょう」といった曖昧な表現であることも多いことも課題です。


Safe Kids Japanによると、すでに都内のスーパーマーケットでは自主的にこのシールを売り場に貼り出す動きも出ているということで、「この流れが全国に拡大し、子どもに関わる人はもちろん、そうでない人にも『4才までは4つに切って』が浸透していくことを望んでいます」と話している。

かわいいイラストが目を引く、呼びかけシール。
しかしその背景には、子どもたちの安全のため、今すぐ実行するべき対策への強い意志がこめられていた。