2020年春に高知南高校を卒業した、大野健誠(けんせい)さんと中山裕友(ひろと)さん。

高校在学中に漫才コンビ「セントラルドグマ」を結成した彼らの青春は、“漫才一色”だった。

校庭の片隅で練習するセントラルドグマの2人
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メキメキと漫才の腕を上げ、高校3年生の時には高校生漫才師日本一を決める大会「ハイスクールマンザイ」で優勝し、全国一の栄冠に輝く。卒業後はプロの漫才師を生きていくと決め、上京した2人だか、初めて大きな壁にぶつかった。

夢と葛藤の中、人生の一歩を踏み出した2人の若者を追っていく。

(全2回、#2はこちら)

漫才と出会った中学3年生

ボケ担当の大野さん。幼い頃からお笑い芸人のモノマネをしたり、地元の祭り「よさこい祭り」に参加したりと、何かを表現することが大好きだった。

中学、高校では新喜劇のような喜劇をやりたいと、演劇部に入部。「シリアスな劇ばかりで、思っていたのと違うと思ったんですけど、演技とか、声の出し方とか勉強になりました」と部活にも励んだ。

ツッコみ担当の中山さん。子どもの頃はサッカーや水泳に夢中なスポーツ少年だった。高校ではハンドボール部の副キャプテンも務めた。勉強も手を抜きたくない、負けず嫌いな性格だ。

中学時代にクラスメイトだった2人が、漫才と出会ったのは中学3年生の時。卒業式の前日に漫才大会を開くことになり、大野さんの方から誘ったという。

「二つ返事でOKしてくれて。(中山さんの)笑いのセンスもあったし、ずっと仲も良かった」

互いにこの時まではお笑いに無縁だったが、これを機に漫才の世界に夢中になっていく。

中山さんは、「友達に(漫才を)見せたらすごく笑うから、俺らのネタがめっちゃ面白いんやと思って」と漫才を続けてきた原動力を明かす。

2017年、同じ高校に進学した2人は、本格的に漫才を始めた。コンビ名は「セントラルドグマ」。生物の教科書で見つけた、DNAの仕組みに関する言葉にピンときたのだ。

コンビを組んで間もない頃、大野さんは高校生漫才師日本一を決める大会「ハイスクールマンザイ」の存在を知り、すぐに中山さんに連絡し、ネタを送ったという。

「ハイスクールマンザイ」(H-1甲子園)は、毎年3000人以上の高校生が参加する、高校生にとってのM-1グランプリ。大手芸能事務所の吉本興業が主催し、テレビなどで活躍する人気芸人が審査員を務める。

コンビ結成3ヵ月で「ハイスクールマンザイ2017」に応募した2人。全国から集まった646組の中から動画審査や地方予選を勝ち抜き、見事決勝戦へ進出した。

「何が起きたんや!」と思うほど、2人の中で驚きと困惑の感情が入り乱れたという。

トントン拍子なのに優勝しない…

決勝戦が行われたのは、大阪にある「なんばグランド花月」。

会場には友人や2人の父親も駆け付けた。父親も同い年同士だからか、大阪観光で盛り上がったようだ。

トントン拍子で決勝の舞台まで駆け上がってきた2人は、緊張した様子だった。高校生らしく、若者言葉をテーマにしたネタで勝負に挑んだ。

初めて出場した「ハイスクールマンザイ2017」

緊張で今にも押しつぶされそうになりながらも、迎えた人生最大の舞台。全力で漫才を披露するが、会場から笑い声は聞こえなかった。

さらに審査員の板尾創路さんから、「ネタの内容や話題がちょっと伝わりにくかったかな」と指摘を受ける。決勝に残った8組が漫才を終え、優勝したのは別のコンビだった。

この結果に、「あと2年あるので勉強して、リベンジしたい」と大野さんは気持ちを切り替える。中山さんも「(優勝コンビが)僕らよりレベルが上だったので、来年はそこに到達して、それより上に行けるように頑張ります」と前を向く。

決勝を戦い抜いた2人の活躍をねぎらう父親や友人たち。2人の父親は「子どもらがやる気だったら、また戻ってきたいね」と背中を押した。

高校2年生になったセントラルドグマは、他の漫才大会で賞を受賞するなど実力も認められるようになってきた。そして、再び「ハイスクールマンザイ2018」に応募。この年も予選を勝ち抜き、2年連続で決勝戦に挑んだ。

高校2年生の時に出場した「ハイスクールマンザイ2018」

今回のネタは「球技大会」。コント後には、1年前とは違う手ごたえを感じたようで、「笑い声が聞こえた」とホッとした表情を見せ、笑う。

充実感や達成感はあったものの、この年も優勝したのは別のコンビだった。

大野さんが「頑張ったつもり」と肩を落とす隣で、中山さんは「まだ足りひん」と再び気を引き締める。

大野さんは「四六時中、お笑いのことを考えているのは一緒なのに、なんで負けるんだろう。悔しかったです。何かの賞には引っかかると思っていたので」と、当時を振り返る。順調に決勝まで進んでいたからこそ、認めてもらえないのは悔しかった。

高校3年生、最後の挑戦

そして、「ハイスクールマンザイ」に挑戦できる最後の年、高校3年生になった2人。

春休みや夏休みを使い、東京のお笑いライブ30本に出演し、腕を磨いてきたこともあり、この年も予選を突破。3年連続決勝戦進出を果たした。3年連続で決勝に進んだのは、「セントラルドグマ」だけだった。

最後のチャンスとなった「ハイスクールマンザイ2019」

“今年で最後”というプレッシャーからか、「怖い…」とこぼすことも。大野さんは「去年の今頃から、この大会のためだけに生きてきた」と力強いまなざしで語る。“最後のチャンス”に賭けたい気持ちが大きいからこそ、怖いのだ。

他のコンビよりもこの舞台には慣れているはずだが、ネタ合わせは念入りに行った。「3年目なのに緊張する」と震える大野さんに対し、中山さんは「楽しめや」と声を掛ける。

今回のネタは「外国人留学生」。1年かけて作った家庭教師のボブという強烈なキャラクターが審査員の心をつかみ、満場一致で優勝が決まった。

優勝の気持ちを問われ、中山さんは「3年間、いろいろな人にお世話になり、ここまで来れたので、今までの恩返しが今日できたと思っています」と感謝の言葉を口にする。

大野さんは、感極まりながらも、自分たちのYouTubeチャンネルに「登録してください!」とアピールするなど、“笑い”を忘れない。

応援に駆け付けた大野さんの父・耕一さんも「本当にYouTubeチャンネルお願いします」と笑いを誘いつつも、「自慢の息子です」と嬉しそうに胸を張る。

中山さんの父・英明さんも「今まで息子を褒めたことはなかったんですけど、今日は本当に褒めたいと思います」と喜びを明かす。

中山さんはそれを聞いて目を潤ませながらも、「小学校から部活動とかやってきて、お父さんから『よくやったな』という言葉がなくて。こういう舞台で泣くことはないんですけど、涙が出てきそうです」と話し、周りにいたベテランの芸人たちから「出てないんかい!」とツッコまれるなど、優勝の喜びを芸人らしく笑いに変えた。

「ハイスクールマンザイ2019」の優勝を機に、ここから2人の人生は大きく変わっていく。

【後編】高校卒業後、高知から東京へ。壁にぶち当たりながらも生き抜く新人漫才師の上京物語

(第29回FNSドキュメンタリー大賞『脱藩芸人~高校生No.1コンビの挑戦~』)