金総書記が言及した「極超音速滑空」体は、従来のミサイル防衛システムを突破し得る新兵器で“ゲームチェンジャー”になり得るとされる。現状ではこうした「極超音速ミサイル」の迎撃は不可能とも言われる。
すでに中国やロシアはこうしたミサイルを保有しており、この“隊列”に北朝鮮も加われば、日本にとって悪夢以外の何物でもない。
原子力潜水艦も保有?…金総書記の“野望”
金総書記は党大会で、水中・地上固体燃料の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発、原子力潜水艦、潜水艦発射型核戦略兵器、軍事偵察衛星、無人偵察機など、配備目標とする兵器・システムを次々に並び立てた。
北朝鮮が原潜保有に言及したのは初めてだ。実現の可能性はさておき、金総書記の飽くなき核・ミサイル開発への姿勢が改めて鮮明となった。
バイデン米政権の出方を見ながら、いずれ潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や、米本土に到達するとされる射程1万5000kmの巨大ICBMの発射実験を強行する懸念がある。
一方で、1年ぶりの弾道ミサイル発射を伝えた25日付労働新聞が、この項目を大々的に報じることはなかった。1面には、金総書記が平壌のアパート建設計画の現場を視察したニュースを掲載し、金総書記の動静をミサイルと切り離した。そこにはアメリカなどに対する挑発のトーンを調整する狙いがうかがえる。
同時に感じられるのは、新型コロナウイルス対策による“鎖国”状態で不満を募らせる住民に配慮する姿勢だ。金総書記は党大会以来、毎月のように幹部会議を開き、経済状態の改善に檄を飛ばしている。中でもこうした住宅建設に力を入れ、党創立80周年の2025年までに平壌に毎年1万戸ずつ、計5万戸の住宅を建設すると大々的に宣伝している。生活の向上を重視する姿勢を示すことで、不満を少しでも解消しようという意図は明らかだ。
バイデン大統領は「北朝鮮が事態をエスカレートさせることを選べば、相応の対応を取る」と警告した。同時に外交手段にも言及し、対話の可能性も否定しなかった。その条件として改めて掲げたのが「北朝鮮の非核化」だった。
北朝鮮が真に住民生活の向上をめざすなら「核放棄」が最良かつ不可欠な選択となる。だが「アメリカがまず敵視政策を撤回せよ」と主張し続ける北朝鮮指導部からは「核放棄」の意思は全く感じ取れない。北朝鮮による「小出しの挑発」が北東アジアの安全を再び脅かそうとしている。
【執筆:フジテレビ 解説副委員長(兼国際取材部) 鴨下ひろみ】
