特殊詐欺グループのイマドキの拠点は「海外」

今年3月、タイ中部のパタヤで、日本人の男15人が現地当局に拘束された。
15人は、リゾート地の高級住宅を拠点とし、日本に特殊詐欺の電話をかける「かけ子」だった。
拠点からは特殊詐欺の手順を示したマニュアルやおよそ50台のIP電話が押収され、壁には「絶対に稼ぐ!」の文字、そして個人ごとのだまし取った金額を棒グラフにしてまとめた紙が貼ってあった。まるで営業実績を競い合うセールスマンさながらだ。

アジトにはズラリと電話が並び・・・
アジトにはズラリと電話が並び・・・
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このグループは、IP電話を使ってインターネットを介し、発信者番号を「03」の国内局番にしていた。
「まさかタイから電話がかけられていたとは・・・。」
取材した被害者たちは口を揃えてそう言った。

15人は、5月に日本に移送され、警視庁に逮捕された。
その後、かけ子の指導役らも逮捕され、これまでに逮捕者は26人に上る。
警視庁は、このグループが3億円以上をだまし取ったとみて調べている。

さらに、9月には中国、11月にはフィリピンを拠点とした同様の特殊詐欺グループが摘発された。
これまで、拠点といえば、マンションの一室が使われることが多かった。
しかし、近年は摘発を逃れるため、ホテルを転々とするグループやキャンピングカーで移動するグループなどが出てきた。
そして、目立っているのは、海外に拠点を置くグループだ。

元かけ子が明かす「海外拠点グループ」の実態

今年11月、今度はフィリピンの首都マニラで、日本人の男36人が現地当局に拘束された。
このグループでかけ子をしていた元メンバーがFNNの取材に応じた。

「実際にもらったのは15万」と元“かけ子”(11月)
「実際にもらったのは15万」と元“かけ子”(11月)

元かけ子:
ツイッターの求人に給料がすごく良く書いてありました。
『月100万円は当たり前』と書いてあったんですけど、実際にもらったのは15万円くらいでしたね。

インターネット上で“求人募集”を見つけた元メンバーは、当時、なかなか仕事が決まらず、「月100万円」という書き込みに惹かれたという。

元かけ子:
みんなで飲み会をちょくちょくやって『頑張っていこう』ということをよく言っていましたね。
『週に1000万円は売り上げろ』と言われていました。
やっているうちに罪悪感がなくなっていくんですよね。
やっているうちに『頑張って結果を出さないと』という気持ちに変わっていきました。

元メンバーは、フィリピンで、与えられたマニュアルと名簿をもとに、日本に特殊詐欺の電話を1ヵ月間かけ続けた。
日本に帰国した際、警視庁に逮捕されたが、不起訴処分となっている。

元かけ子:
後悔しかないですね。
何も落ち度のない人をだましてお金を取る、犯罪の中でもだいぶ悪質だと思うので最悪ですよね。

(イメージ画像)
(イメージ画像)

現地当局は、このグループによる被害がおよそ1400件あり、被害総額はなんと20億円に上るとしている。
警視庁は、拘束された36人を全員かけ子とみていて、今後日本に移送して逮捕する方針だ。

特殊詐欺の“国際化”

次々と浮き彫りになる、特殊詐欺の“国際化”。
中でも東南アジアを拠点とするグループが多い。
その理由として挙げられるのは、時差が少ないため日本に電話をかけやすいことや、旅行者として集団で入国しても違和感がないこと。
そして、何よりも、日本の警察当局の“目”から逃れることができるからだろう。

警視庁幹部によると、摘発された上記のグループは氷山の一角で、海外に拠点を置くグループはまだまだいるという。

(執筆:フジテレビ社会部警視庁担当 小河内澪)

小河内澪
小河内澪

フジテレビ報道局社会部所属。司法クラブで検察担当、警視庁クラブで捜査二課担当を経て、現在は遊軍としてコロナ取材に従事。アメリカ生まれアメリカ育ち。