新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、東京都では12日、自宅療養者が初めて2万人を超え、急増している。病床のひっ迫で自宅療養を余儀なくされた患者の命綱とも言える在宅医療の現場を取材した。 

往診依頼が急増 25人診るのが精一杯

東京・大田区にある「ひなた在宅クリニック山王」は、在宅医療を専門としていて、中等症の患者の往診も行っている。 

7月から往診依頼が増え、一時は50人ほどの患者を診ていたが、コロナ患者の往診には時間がかかることなどから現在は25人を診るのが精一杯だという。取材した日、クリニックの予定表は往診の予定で埋まっていた。

そんな中、保健所などから緊急の依頼を受けて、院長たちが向かった先は、1人暮らしをしている30代の男性の自宅だ。自宅の近くには救急車が停まっていた。院長たちは玄関前で、感染防護服を急いで着込むと、酸素濃縮器を運び込んだ。 

緊急の依頼を受け、防護服を着込んで酸素濃縮器を運び込む
緊急の依頼を受け、防護服を着込んで酸素濃縮器を運び込む
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男性に許可を得た上で、院長が往診の様子を撮影してくれた。

14時間に渡って救急隊員が酸素投与

院長「こんにちは、医者です」
男性「よろしくお願いします」
院長「もう大丈夫、安心して」

聞き取れないくらいの小さな声だ。

男性は、前日に症状が悪化したものの入院先が見つからず、やむなく救急隊員が、男性宅に詰めて、14時間に渡って酸素投与を続けていた。まさか、救急隊員が、そこまでのことをしているとは。想像を絶する自宅療養の現場を目の当たりにした思いだ。

 
 

院長「搬送できなくて、低酸素血症の人に救急隊が交代交代で酸素投与を継続しないといけないということですよね」
救急隊「ここ数日・・・」
院長「僕も肌感覚で重症化する自宅療養者がものすごく増えている印象があるから」
救急隊「そうですね」

男性は、酸素投与を続けた結果、血中酸素濃度がようやく正常値の96パーセントになった。

入院先が見つからず、救急隊が酸素投与を14時間続けていた
入院先が見つからず、救急隊が酸素投与を14時間続けていた

ひなた在宅クリニック山王 田代和馬院長:
「見た目は落ち着いて見えるんですけど、酸素投与をしなければ、血中酸素濃度がぐんぐん下がっていくんです。これがコロナの恐ろしさ。彼は自覚していないが、重篤な状態に置かれています」

往診を断らざるを得ないようなケースも

政府は、中等症の患者も入院の対象としているが、実際には入院調整は追いつかず、酸素投与が必要な状態でも自宅で療養せざるを得ないケースが相次いでいる。

都内では12日、自宅療養者が過去最多の2万726人となり、その人数は、1か月前の7月12日のおよそ11倍だ。 今回の第5波では、自宅で療養中に亡くなった人が、都が把握しているだけでもすでに3人いる。 

重症化する自宅療養者が増えている
重症化する自宅療養者が増えている

院長は“ピークアウト”が見えない現状に危機感を強めている。 

ひなた在宅クリニック山王 田代和馬院長:
「在宅医療の現場の危機感を、1人でも多くの人が自分のこととして捉えてくれないかなと、日々、切に思っています。今すでに僕たちが往診を断らざるを得ないようなケースが少しずつ出てきている。医療が届かない方々が急増してくるので、そのような状況は本当に避けたいんですけど、現実のものとして起こるだろうと、私も本当に悔しいんですけど、懸念しています」

ひなた在宅クリニック山王 田代和馬院長「在宅医療現場の危機感を自分のこととして捉えて」
ひなた在宅クリニック山王 田代和馬院長「在宅医療現場の危機感を自分のこととして捉えて」

入院病床がひっ迫して、救急患者の受け入れも困難な中、自宅療養者の症状の悪化を察知して、必要な医療を届けることが急務となっている。

(フジテレビ社会部・コロナ取材班 小河内澪)

小河内澪
小河内澪

フジテレビ報道局社会部所属。司法クラブで検察担当、警視庁クラブで捜査二課担当を経て、現在は遊軍としてコロナ取材に従事。アメリカ生まれアメリカ育ち。