大規模な災害は、復旧後の地域産業にも傷跡を残すことがある。東日本大震災の経験を教訓に、生産者と消費者の距離を縮めることで、そうした被害から生産者を守ろうとする試みがある。

生産者と消費者をオンラインでつなぐ

それが「ポケットマルシェ」という、スマートフォンアプリとパソコン向けに展開された“オンラインマルシェ”のサービス。生産物は通常、仲介業者などを経て消費者に渡ることが一般的だが、ここでは直売所のように、消費者が生産者から直接商品を購入できる仕組みとなっているのだ。

ポケットマルシェのサービス概要
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消費者側の利用の流れは、一般的な通販サイトと同じで、ウェブ上に出品された商品を選び、支払い方法や届け先を入力して決済をするだけ。数日後には、生産者から産地直送で商品が届くという。

4000名以上の生産者がさまざまな商品を出品している

そして一番の特徴は、生産者別にコミュニティーのページが割り振られていること。ここでは生産者と消費者が連絡を取り合うことができ、美味しい食べ方やお礼の言葉などが写真付きで交わされていたりする。ネットでありながら、顔の見えるつながりが生まれているのだ。

生産者別にコミュニティのページがある

ポケットマルシェは2016年9月のリリース以降、徐々に利用者が増え、2021年3月時点で約4800人の生産者、28万人の消費者が登録している。

生産者と消費者が直接やりとりできるのであれば、双方の距離感は近づきそうだが、なぜこれが災害の備えにつながるのだろうか。そこには、生産者が災害時に苦労することとも関わってくる。

被災者同士の助け合いには限界がある

ポケットマルシェの運営企業は震災から10年の節目として、サービスを利用する生産者157人に、災害経験の有無などを調査している。(調査期間:2020年12月24日〜2021年1月12日)

そうしたところ、回答者の26.8%が東日本大震災での被害を経験しており、この人たちに被害内容を聞いたところ、85.7%が販売面で影響を受け、出荷制限などに悩まされたという。

ポケットマルシェが行ったアンケート調査の結果

この実情はどうなっているのだろう。被災者であり、ポケットマルシェに出品もしている、岩手県山田町の養殖漁業・佐々木友彦さん(46)に、生産者として苦しかったことを伺った。

ーー震災でどのような被害を受けた?

震災の前は従業員を雇用していましたが、そのうちの一人、実の姉を津波で亡くしました。仕事面だと養殖施設や資材が全滅し、収入もゼロになりました。当時は父の介護が始まったばかりでしたが、介護施設も被害が大きく、生活は苦しかったですね。

佐々木友彦さん

ーー生産者として特に苦しかった影響は?

事業自体が崩壊したので、特にこれと答えるのは難しいですが、周囲全員が被災者なので助け合うにも限界があることは感じました。後は生産物が売れなくなったことでしょうか。

風評被害もありますし、仲介業者も商品を入荷しなければならないので、別の地域の生産者を取引先として開拓します。そうすると、被災地の生産者が回復したときには販売先がない。それを取り戻すには、品質や価格で勝負するか、新しい取引先を開拓するしかないんです。


ーーポケットマルシェへの出品で変化はあった?

商品も当初は売れませんでしたが、徐々に認知されるようになりましたね。「美味しかったよ」などの声もいただきました。驚いたのは、自分の商品が評価されたことで地元の浜値(水揚げ地で取り引きされる値段)が上がったんです。仲間の漁師が評価されることにもつながったので、この相乗効果はすごいと思いました。

ポケットマルシェでは地域別に生産者情報を見ることもできる

食べ物を作る生産者が食べられない状況

生産者は被災から立ち直れたとしても、それまでの間に販路を失ってしまうこともあるようだ。生産者と消費者がつながることで、このような課題は解決できるのだろうか。続いて、ポケットマルシェの創業者である、岩手・花巻市出身の高橋博之さんにもお話を伺った。


ーー生産者と消費者をつなげようと考えた理由は?

震災の前から被災地は過疎高齢化が深刻で、そこに津波がとどめを刺した状況でした。復興といっても元に戻すだけではなく、生産者が食べられない状況を変えないといけないと思ったのですが、その原因は食べ物の表側、値段しか見えないことだと考えました。

震災の後、被災地には都会から多くのボランティアが来てくれましたが、生産者の思いや苦労などを知ると、多少値が高くても買おうという人が多かったんです。値段以外の判断基準、ストーリーというべきでしょうか。日常から生産者と消費者が直接つながる社会になれば、生産者も今より報われる世の中になると思い、取り組みを始めました。

ポケットマルシェの創業者・高橋博之さん(右)

ーーオンラインマルシェを展開した理由は?

まずは「東北食べる通信」という、食材が定期的に届く情報誌を始めました 。ただ、農村や漁村の疲弊は加速していたので、スマホで同じようなサービスを提供できれば、家庭の食卓に入り込める頻度も高くなると思い、この形式としました。


ーー生産者と消費者がつながることで何が起こった?

消費者の視点では、鮮度がいいので食材に対する満足度が圧倒的に高く、食べ物の背景が見えて生産者とのやり取りを楽しめます。生産者の視点では、自分で値付けができて、消費者から直接感想を聞くことができます。そうすると、リピートしてくれる人も出てきて、マイ農家やマイ漁師ができてくるんです。良質な関係性が育まれて、口コミなどで販路拡大にもつながったりもしています。

“オンラインマルシェ”は生産者にも消費者にもメリットがある

関係があれば災害は「他人事」ではなくなる

ーーなぜ、それが防災につながる?

災害の発生は避けられませんが、生産者と消費者が日常から関係を育んでいれば、それは他人事ではなくなります
。例えば、コロナで外出自粛が呼びかけられ、スーパーから食料品がなくなったときは、生産者が消費者に支援を申し出たこともあります。逆に生産者が困ったときは、消費者が商品を来年分まで予約してくれたこともありました。

こうしたことが起こるのは、生産者と消費者の関係性を超えた、顔の見える人付き合いがあったからだと思います。僕らは人間だから人が困れば助けたくなる。日常からそのような連帯があれば、災害からの復旧も早くなるはずです。

ポケットマルシェのコミュニティでは、生産者と消費者のつながりが生まれている

ーー震災から10年で伝えたいことは?

災害時に頼りになるのは、人と人の付き合いであることは強調したい
ですね。今は都市と地方の分断が進み、「食べる人は都会に集中、生産者は地方」という状況ですが、食べ物を作る生産者がいて、都会の便利な生活があることは知ってほしいです。それと同時に、生産者からは、応援してくれる都会の人がいるから頑張れるという話も聞いています。コロナで厳しい状況ですが、オンラインでも都会と地方が助け合えればと考えています。
 


普段の生活で食材を購入するとき、私たちは見た目や価格などの情報だけで判断しがちだろう。その裏側にある生産者の実態や苦労を知ると、災害時にどんな支援が求められているのか、そのために何ができるのかを考える関係性に変わってくるのかもしれない。

(画像提供:株式会社ポケットマルシェ)

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