坂東眞理子さんへのインタビュー。前編は、女性がこれから積極登用される社会では女性の生き方もさらに多様化されるという道筋を伺った。

男性と同じ働き方でサバイバルせずとも、意思決定の場に進む可能性も広がる。また、家庭に比重を置いて働くなど、働き方の選択肢自体が増えていくのだ、と。

その中で気になるのは、次のことだった。

「王子様はいない」だからこそ女性に必要な現実的な選択

佐々木恭子:
コロナ禍で浮かび上がってきたのは「非正規・女性」など社会で守られない立場の人にしわ寄せがいくという現実です。これに関してはどのようにご覧になっていますか?

坂東眞理子理事長​:
いつも学生には「夢も希望もないことを言うけれど」と前置きした上で、伝えているんです。「一生主婦を養ってくれる男性と温かい家庭を作るなんて、一時代前の夢にすぎないよ」と。

“理想的な結婚”は簡単でないと説く坂東眞理子理事長
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佐々木:
王子様はいないときっぱり教えていらっしゃるのですか!?

坂東理事長:
はい。いたとしてもレアです。現状を見ると男性のうち約4分の1は生涯独身、結婚の約3分の1は離婚です。男性も女性も“おひとりさま”の時期が長くなっています。さらに子どもの約7分の1は貧困家庭で育ちますが、多くは両親の離婚で母親がシングルマザーになっているケースです。これだけのことがわかっているのだから、結婚しても絶対仕事をやめないこと、そして子どもが生まれてもその職が正規雇用であればその座を離さないことです。

佐々木:
しがみつけ、と?

坂東理事長:
丸の内の大手企業でアルバイトOLになるより、中小企業で正規社員になる方がいいとも伝えますね。また、「好きなこと」で一流になって食べられるほど甘くはない。それは男性にとっても女性にとっても厳しい現実です。

「私も『もしかしたらすてきな人に出会えるかも』と思ったことはありましたよ。でも20代の早いうちに王子様はいないことに気づきました」とチャーミングに微笑む坂東さんのアドバイスは、耳が痛いほどリアルで堅実だ。

ただ、それは受け身で淡々と与えられた仕事だけをせよというのではない。(私自身を含め)突出した「個」であるという自負はなくても、組織の中でどうやって自分らしく働き、自ら仕事を創って意味を見出せるのか。坂東さんがご自身で体現されてきた「生きる知恵」とは…。

「好き」を掛け算するとユニークな人材になれる

坂東理事長:
自分が好きなことといっても客観的に特別優れているわけでもない、単に「好き」というレベルのことを仕事にするには厳しいですが、でもね、100点満点になる才能はなくても80点くらいの得意なことを2つ3つ組み合わせられると、ユニークな人材になれるんです。

佐々木:
「好きで得意」の複数の柱が自分を支えると?

坂東理事長が培ってきた“生きる知恵”に迫る佐々木恭子アナウンサー

坂東理事長:
私自身は本を読むことが大好きで漠然と文筆家になりたいと思っていました。でも、プロになるには特別な才能が必要で、これはとてもダメだと思って公務員になりましたが、「読む(あるいは書く)ことが好き」「海外の人たちと一応コミュニケーションできる程度の英語力」「行政や組織を動かす経験」。一つ一つはずば抜けていなくても、掛け合わせることができました。

英語で同時通訳として食べていける人は一握りしかいません。でも、英語が飛び抜けていなくてもほかに専門分野がある、あるいはほかの語学もできるなど、組み合わせて自分の強みにする。これも生きる知恵なのですよね。

多種多様な「好き」が自分の力になる

坂東さんが300万部を超えるベストセラー『女性の品格』(2006年)を上梓されたのは、ちょうど公務員生活を終えられ新しい生活が始まった頃。突然ミリオンセラーが生まれたのではなく、公務員時代から女性の働き方、家族のあり方について積極的に執筆されてきたことに改めて気づく。

最後に、女性の社会進出が必要であると信じ、推進してこられた坂東さんが「選択肢が多様になった時代だからこそ」の懸念を指摘する。

いつも背水の陣だった 

佐々木:
最初から公務員になりたくてなったわけではないのですね(笑)。それなのになぜ続けることができたのですか。

坂東理事長:
私たちの世代はほかに選択がなかったんですね。転職ということもあまり考えられない時代でした。公務員に向いているわけじゃなかったけれど、辞めたら専業主婦になるしかない。私の場合は公務員より専業主婦がもっと向いていないのが明らかだった(笑)。掃除も整理整頓も本当に上手じゃなかったんです。

佐々木:
家事が苦手と堂々と言ってくださる先輩がいるのは大変心強いです…!

坂東理事長の意外な一面が明らかに

坂東理事長:
だからこそ、自分が仕事という選択をもってそちらを選べたことはラッキーだと思っているのですが、今の学生たちを見ていると選択肢が多様になってきていること自体は素晴らしい、ただ物事には良し悪しの両面があります。

私のように仕事を続けるのか、専業主婦になるのかの2択だと、いつも背水の陣が敷かれているのですね。もう歯を食いしばってでも頑張らなくちゃいけないわけです。でも今は選択肢が多いので、ひとつのことを突き詰める前に、これ嫌だから次のことしてみようとか、向いていないようだからやめてしまおうとか、最後のひと踏ん張りをする前に諦めがちなのではないかしら。

あとひと踏ん張り、もう少し頑張って自分の足りないところを伸ばす、苦手なところもチャレンジしてみることで、自分の器も大きくなっていくのだと知ってほしいと思っています。

「もうひと踏ん張りすることが大切」とエールを贈る坂東理事長

坂東さんへのインタビューの中で度々出てきた言葉は「選択肢」。

選択肢がないからこその厳しさ。選択肢が増えるからこその厳しさ。どちらがいいかは自明の理です。少なくとも、何を選ぶかのスタート地点には立つことができる。

「1番ヒントになるのは失敗談」ともおっしゃる坂東さん。子どもと一緒に過ごす時間を切り捨ててきた悔恨は、坂東さんほどの比ではないけれど私の胸にも刺さるところだ。

「女性の選択肢が広がるということは、男性たちの”自分が家族を支えなくてはいけない”というプレッシャーを軽減し、男性たちの選択肢も広がることにつながります。だからこそ、私たちが諦めずに声を上げ続けることです。100%伝わらなくても、ちょっとでも伝わればいいや、という気持ちでね」。

建前が変わりつつある今、「どうせ聞いてもらえない」という呪縛を自らも解き払って、丁寧に言葉にし、行動を重ねること。ちょうど坂東さんの娘世代にあたる私たちが組織の中で果たす役割があるのだと思う。

“わきまえない”人が社会を変え得るのだと信じつつ。

【執筆:フジテレビ アナウンサー 佐々木恭子】

記事 25 佐々木恭子

言葉に愛と、責任を。私が言葉を生業にしたいと志したのは、阪神淡路大震災で実家が全壊するという経験から。「がんばれ神戸!」と繰り返されるニュースからは、言葉は時に希望を、時に虚しさを抱かせるものだと知りました。ニュースは人と共にある。だからこそ、いつも自分の言葉に愛と責任をもって伝えたいと思っています。
1972年兵庫県生まれ。96年東京大学教養学部卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして、『とくダネ!』『報道PRIMEサンデー』を担当し、現在は『Live News It!(月~水:情報キャスター』『ワイドナショー』など。2005年~2008年、FNSチャリティキャンペーンではスマトラ津波被害、世界の貧困国における子どもたちのHIV/AIDS事情を取材。趣味はランニング。フルマラソンにチャレンジするのが目標。