党政治局から女性が消える

「全党の総意を結集し、人民の期待を反映し、全党、全軍、全民族の全面的信頼に値する中央指導集団である」

「国内外の複雑で厳しい発展環境の下で、わが党がその使命をよりよく担い、新たな偉大さを創造するためには、強力な指導核と中央指導グループを持たなければならない」

中国共産党で異例の3期目となる習近平総書記(国家主席)の指導部が発足した翌日、党機関紙・人民日報は社説で、新指導部を「全党と数億人の国民の願望を反映した」と絶賛し、習近平氏を党の核心として守り、習近平氏の思想のもとに一致団結するよう呼びかけた。

異例の3期目となる習近平総書記による指導部
異例の3期目となる習近平総書記による指導部
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中国共産党中央委員会は今回の党大会で選ばれた205人の中央委員からなり、そこから選抜された政治局委員(24人)が指導部(政治局)を、さらに絞り込まれた7人の政治局常務委員が党最高指導部の政治局常務委員会を、それぞれ構成する。

今回、政治局常務委員のうち4人は新任で、いずれも習近平氏の側近や関係者で占められた。米紙ニューヨーク・タイムズは政治局常務委員の陣容について、全員が習近平氏の「従者」と評している。

ニューヨーク・タイムズ紙が習近平の「従者」と評した政治局常務委員の7人
ニューヨーク・タイムズ紙が習近平の「従者」と評した政治局常務委員の7人

いずれにせよ、習近平氏にNOを言える人物は中国政治の表舞台から遠ざけられ、習近平氏の支配力はかつてないほど強まったと言わざるを得ない。

習近平氏をけん制する勢力だけではない。

政治局常務委員会に次ぐ政策決定機関である政治局のメンバーに女性が1人もいなくなった。

前指導部で政治局委員を務めた孫春蘭(ソン・シュンラン)副首相(72)が退任するとともに女性の昇格がなかったためだ。

前指導部で唯一の女性政治局委員だった孫春蘭副首相(4月)
前指導部で唯一の女性政治局委員だった孫春蘭副首相(4月)

政治局委員にはこれまで少なくとも女性1人が含まれるのがほぼ慣例となってきたが、1997年の第15回党大会以来25年ぶりに女性ゼロという事態となった。

中国共産党員は約9700万人で、女性党員の割合は約29%に達する。しかし、中央委員205人のうち女性はわずか11人。上層部にいくほど女性の比率は低くなる。政治局常務委員会に女性が入ったことは一度もない。

上海を視察する孫春蘭副首相(4月)
上海を視察する孫春蘭副首相(4月)

習近平氏は党大会の開幕演説で「男女平等という国家の基本方針を堅持する」と約束したが、女性の政治参画には「ガラスの天井」が立ちはだかっているようだ。

女性は55歳で引退…中国共産党は「超男社会」

一方、中国の日常生活に目を向けると、女性も生涯働くのが前提とされる社会であり、男性の家事分担や子育てへの関与は特別なことではない。

中国建国の父・毛沢東の言葉「半辺天(女性が天の半分を支える)」は、中国の男女平等のキャッチフレーズとなっている。1000年以上にわたる儒教思想と封建主義的な家族制度から中国の人々を解放したのが、中国共産党という位置づけだ。

建国の指導者・毛沢東氏の肖像画
建国の指導者・毛沢東氏の肖像画

中国は1995年の世界女性会議開催を機に、女性の政治参加を促進するため、各級管理職に「最低1人の女性幹部」を任命することを義務付けるジェンダー・クオータ制を導入した。党は省・市・県の党機関の幹部には10~20%の比率で女性を登用するよう求めている。

それでも、女性がハイレベルの地位に就くのは容易ではない。中国の幹部は、課長、部長、局長、省レベル、地方レベル、国家レベルのリーダーと順位を上げ、その過程でトップの仕事に必要な政治的訓練や人脈を構築していく。

しかし、女性の場合はリーダーの登竜門となる経済、金融、工業、技術などの重要部門に配属されることはほとんどない。割り当てられるのは教育、科学、文化、健康、スポーツ、家族計画、民政、社会福祉などの分野が中心で、トップを狙うポジションにつくことは難しいのが現状だ。

さらに、中国では女性の定年は50歳(幹部は55歳)となるため、男性と競い合うことができる期間自体も限定されてしまう。「男女平等」を基本理念に掲げている中国共産党が、いわば「男社会」の縮図のような姿を示しているのは皮肉と言うほかない。

セクハラ告発のテニス選手

習近平氏はこれまでも、たびたび「家庭重視」「家庭教育の重要性」を強調してきた。ジェンダー平等に言及する一方で、女性に良妻賢母の役割を促してもいる。

「中国の家庭の美徳を促進し、良い家庭文化を確立するために、女性が独特の役割を果たすことが重要だ」

家庭を支えるのは女性の使命というのが、習近平氏の家族観の根底にあるのがわかる。

習近平政権下の10年でこうした伝統的な家族観が強調されるようになり、フェミニストやLGBTなど性少数者に対する検閲と抑圧も強化された。アメリカやヨーロッパでは、セクハラ被害を告発するキャンペーン「#MeToo(私も)」運動が政治家を失脚に追い込んだが、中国ではそうしたことは起きそうもない。

2021年11月に中国の女子テニス選手の彭帥さんが、元・中国共産党政治局常務委員という極めて高いレベルの人物から性被害を受けたとしてSNS上で告発し、波紋が広がった。彭さんのSNSの書き込みはすぐに削除され、彭さんの消息は一時途絶えた。

中国の女子テニス選手の彭帥さん
中国の女子テニス選手の彭帥さん

しかし、国際社会に懸念が広がると、中国側は一転、彭さんのものとするメールや動画を相次いで公開し、告発の事実を否定した。

中国国内では彭さんの告発はなかったことにされ、告発された元政治局常務委員は今回の党大会の開幕式に姿を見せた。政治分野に女性の代表者が不在であれば、女性の権利を政治的課題として推進することは難しくなるだろう。

「イエスウーマン」すらいない習近平指導部だが、女性の地位がこれ以上後退しないよう望みたい。

【執筆:フジテレビ客員解説委員 鴨下ひろみ】

記事 86 鴨下ひろみ

「小さな声に耳を傾ける」 大きな声にかき消されがちな「小さな声」の中から、等身大の現実を少しでも伝えられたらと考えています。見方を変えたら世界も変わる、そのきっかけになれたら嬉しいです。
フジテレビ客員解説委員。香港、ソウル、北京で長年にわたり取材。北朝鮮取材は10回超。顔は似ていても考え方は全く違う東アジアから、日本を見つめ直す日々です。特集「鴨ちゃんねる」で中国や朝鮮半島の気になるニュースと話題の人を徹底追跡。北オタクのこだわり満載です。