12,3歳のころから38歳まで25年間、子供に対して性的加害を続けてきたタケシさん(仮名・58歳)。段々と行為をエスカレートさせるなかで、自分の行為を正当化させていき、「耽溺」していったと振り返る。
「罪悪感は?」の問いに即答
子どもにわいせつな行為をするとき、加害者は何を思うのか。罪の意識、罪悪感のようなものは持つのか。
タケシさん、あなたはその時、子どもに対して悪いとは思わなかったのか。
「全く思っていなかった。」
タケシさんは間髪入れず言い切った。例えば未成年の障害者に加害を繰り返した時期もあったと言ったが、その時はどうだったのか。
「嫌がっている、傷つくと分かっていたけれど、あんまり大したことではないと思っていました。被害者の気持ちに立っての“悪い”という気持ちではなくて、法的に“悪い、まずい”という気持ちでしかないです。一方でその子は障害の症状から自分の意思を表明できないことも知っていました。だから自分の行為は露見しないだろうということを計算に入れていました。」
この障害者の子に対する加害は20回も続けている。これ以外の多くの加害についても次のようにすら思っていたと告白する。
「犯罪とか、そういう認識もありました。ただ、それだけじゃなかったんです。子供の方でも性的な快楽を得るんじゃないかって、だから、場合によっては構わないじゃないかって考えてしまっていたんです。これは別に嫌がっていないんだからオッケーじゃないかと。」

「子どもが喜んでいる」性犯罪者が抱える認知のゆがみ
小児性愛の治療を続ける福井医師はこう指摘する。
「加害を重ねていくにつれ思考の歪みというか、認知の歪みが形成されていきます。」
「普通の思考ならば、仮に子供に関心があるにしても性的行為について"子供との合意"や"子供が喜ぶ"なんてことはないと考えますよね?ところが、それを何度もやっているうちに拒否されないことで『実は喜んでいるんだ』とか、事件化したにもかかわらず『あれは全部子供と合意の上で、被害者の供述調書がおかしい』と言うケースがあります。クリニックで診察をしていてもそういうようなことをかなり長期間に渡って言い続けるケースもあります。」
福井医師によると彼らはかなり深く"信じ込んで"おり、患者に「それは違うよね」と言っても、たやすく納得するレベルのものではないというのだ。ただ、彼らは同時にそれが‘"犯罪行為"だということも理屈としては理解しているという。それなのに、自分が接した子たちはみんな嫌がっていなかったと主張するのだ。
「子供本人に聞いてみたらわかる」とまで言う加害者もいると。福井医師は以下の例えで解説してくれた。

「例えばDV(ドメスティックバイオレンス)の加害者は、相手に手をあげることが暴力行為だということは知っているが、自分の加害行為は愛情なのだ、とか、躾なのだとか言う。それと同じです。自分は違うんだという思いがあるんです。」
だから、DV加害者も子どもへの性加害者も罪悪感は乏しい。罪悪感がないなら、なぜ加害経験者らは福井医師のもとに治療に来るのだろうか。
「やはり違法であることは分かっていて、加害した子供と合意の上の行為だと信じつつも逮捕される恐怖もある。でも止められない。何とかして欲しいという気持ちで来院するんです。」
子供へのわいせつ加害は続けたい、でも逮捕は嫌だ、自分ではやめられない、どうしたらいいのかわからなくなってしまう―――これが加害者の心理といったところか。
福井医師によれば、加害を続けるうちに実質的に"依存症"のような状態になるのだそうだ。25年もその"依存"から抜けられなかったタケシさんが加害をしなくなったのが20年前。何があったのか。
子どもの命を奪いかねない・・・自ら警察へ
「20年前のある日、1人でいる小学生の男の子に『手伝ってもらいたいことがある』と騙して人目のつかない場所に連れ込んでわいせつなことをしようとしたんです。でも、男の子に騒がれたのでそれ以上のことはしませんでした。男の子は逃げて、その場に1人残った自分がはたと怖くなりました。自分の手にはガムテープや凶器が握られていた。このままでは自分は、そういったものを使ってもっと酷い事をしてしまいかねない・・・本当に子供の命を奪ってしまいかねないと。それだけは避けたいと思って・・・。その足で警察に行き、自首しました。」

タケシさんは逮捕、起訴された。
懲役2年という有罪判決が下されるも執行猶予保護観察4年となり刑務所には行かなかった。判決が出るまでいた留置場、拘置所でのいくつかの出会いが自分を変えたと振り返る。それは弁護士から渡された性加害を繰り返さないための専門家の論文と、小児性加害経験者の回復の話や被害者の体験手記だった。
「あなたのせいで」子ども時代に傷ついた言葉
「僕は、被害者たちがそんなに苦しんでいるっていう風に全然思わなかったんです。実は僕自身幼い頃両親による面前DV(夫婦喧嘩などを子供の目の前で見せること)の虐待被害者でもありましたから、子供時代に傷つけられることがどれほど辛いことか手記を読んで共感できました。」
当時、親から「あなたのせいで喧嘩してるんだ」と言われてすごく傷ついたタケシさん。子ども心に自分が大人になったら子どもを傷つけるような大人にだけはなるまいと誓ったと言う。
「ところが、実際には全くそれと逆のことをしてしまっていたんです。それを自覚して、本当に繰り返したくないと思いました。」
釈放され、自ら性依存症の自助グループに繋がり、専門家に治療を受けたタケシさん。しかし性加害を繰り返さないということに関して十分ではないと感じたため、性加害の再犯予防のための認知行動療法の治療を専門的に受けるに至った。
性加害の治療は「薬物」と「認知行動療法」
タケシさんが治療したのは別の機関だが、福井医師のクリニックでも認知行動療法を実践している。
「主な治療は性欲を抑えるための薬物療法と認知行動療法の2種類です。薬物療法は服用をやめると元に戻ってしまうので、長期的にはやはり本人の思考(認知の歪み)を変えるというのも含めて自分の意思でコントロールできるようにならないといけない。」
自分の意思でコントロールできるようにする治療法が認知行動療法で、「具体的に犯行に至るまでの色々な要素を見つけ出してそこに歯止めをかけていくというような治療」だと福井医師は言う。
「認知の歪みというのが重要なテーマの一つ。歪みがある以上またやってしまう。うちではグループでのディスカッションなどを通じて矯正していきますが、子供とは合意だったと言い張る人が1回や2回で理解できるわけはなく、1年くらいやって段々気づいてくる。かなり時間がかかる作業です。歯止めをかけるというのは、例えば夕方、学校帰りの子供がいそうな時間帯を狙ってうろうろしてたり、偶然ついてくる子供がいたら、次はこんなことして・・・と加害行動パターンが決まっていることも多いので、そういう時間帯に自宅から出ないようにするっていうのもこの治療の一環です。」
福井医師は加害にまで及ぶ小児性愛嗜好は治療が難しく、2、3年、場合によって5年はかかると指摘した。それは被害者が子供であり「嫌だということを直接伝えることができず、抵抗することができない」ことが関係していると言う。だから加害者は「相手も喜んでいる」と思い込んだりする。
また、他のわいせつ事案に比べてバレにくく、逮捕される危険性が低いために加害を繰り返してしまうのだという。逮捕に至らない加害も非常に多い。
小児性加害は「治らない」病気なのか。

「一定の者は加害を始めるとどんどん繰り返してしまう。"依存"と考えてもらっていいです。こういう依存には治癒はなく、あるのは回復です。今の医療では、もう一生その状態が起こらないだろうということを確認することはできません。薬を使わず3年、5年、10年いられたということは、要は再発しない状態を継続していると考えるのです。」
20年前の事件以降、子供へのわいせつ行為をしていないタケシさんは、言い換えれば20年間その状態にならないよう、あらゆる危険要素から身を遠ざける努力をし続けなくてはならなかったということだろう。
このような話を聞くと、わいせつで懲戒免職になった教員らを再び保育園や幼稚園、学校など子供にかかわる仕事に就かせる、就かせないということを未だに議論していること自体、意味があるのだろうかと思う。
この点について福井医師は「あまりにもリスクが高い。加害者を診ている精神科医からすると、ちょっともう、あり得ないと思います。」と手厳しい。
「子どもに接しない仕事って他にいくらでもあるので、あえて選択の自由だといって子どものいるところに戻す必要はないと思います。治療上も苦労している段階でまた子供がいるところにドーンと入っていくと、再犯が起きるのは当たり前という気がしますよね。」
そのうえでこう指摘する。
「こういう人たちは例えば刑務所から出てきて、もう再犯したくないと近くの病院などに行っても、あなたの性格の問題でしょうと門前払いされてしまうのが現状です。初犯の者に対して治療するという土台もないし、社会復帰を支援する仕組みもない。こんな国ないですね。いろんな省庁が連携して対策を考えることが必要だと思います。」
福井医師は加害者の裁判や、司法関係者への講演などで繰り返し小児性愛加害者に対する治療の必要を訴えている。
20年たっても「子どもが目に入らないように努力」
タケシさんに最後に聞いた。あなたはもう認知の歪みはなくなったのか、そして子供への異常な関心はもう過去のものなのか、と。
「私が以前と違うのは、自分を正当化することは全くないということです。ただし、リスクはあります。20年間子供への性加害をしていないから自分はもう大丈夫なんだって思っちゃうのが逆に非常に危険で、条件が整ってしまったら今でも加害してしまう危険性が確実にあるんだって、それに備えて自分を整える必要があるという認識です。―――そういう欲求が、全くなくなったわけではないので、子どもが目に入らないように、そういう刺激に自分を晒さないように、今も努力しています。」
一点を見つめながら一言ひとこと噛みしめるように言うタケシさん。
私の質問に答えるというより、自分自身に言い聞かせているのではないか、と聞きながら思った。
【執筆:フジテレビアナウンサー 島田彩夏】
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