東日本大震災は、全国の死者が1万5899人と、戦後最悪の大災害となった。こちらは「死因の割合」を示したグラフ。亡くなった人のうち、じつに9割以上が「溺死」。つまり、津波で亡くなっている。

しかし、あの日、沿岸部を津波が襲ったのは、「地震から30分近く経ってから」。避難する時間があったにも関わらず、なぜ、これほど多くの人が逃げ遅れてしまったのか?そこには、災害時に働く「人間の心理」が大きく関わっていた。

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「自分のいる場所が安全だ」と思い込む危険性

2011年3月11日午後2時46分。三陸沖を震源とする、国内史上最大規模のマグニチュード9.0の地震が発生。揺れは、約3分間に渡って続き、宮城県内では「最大震度7」を観測した。

佐藤拓雄アナウンサー(午後2時52分):
ただ今もこの仙台放送、仙台市青葉区のスタジオが揺れを感じています。たった今、大変大きな地震を感じました。大変、大きな地震が、宮城県を中心にありました。皆さんどうぞ身の安全をまず確保して下さい

地震発生から6分後、緊急特番が始まった。東日本大震災で亡くなった人は、全国で1万5899人。しかし、内閣府などの調査では、このうち9割以上にあたる1万5000人弱は、この時点で「まだ生存していた」とみられていた。津波が、来るまでは…。

佐藤拓雄アナウンサー(午後3時25分):
津波です。大きな波が押し寄せています。この大きな津波が、今まさに気仙沼に押し寄せています

佐藤拓雄アナウンサー(午後3時59分):
これは仙台空港です、空港です。空港に大変な勢いで水が押し寄せています。これは海ではありません、仙台空港です。とんでもない勢いで水が押し寄せています

被害拡大の要因「バイアス」とは?

陸地に押し寄せる大津波が映像としてとらえられ始めたのは、地震の後、30分から1時間が過ぎてから。

30分のうちに避難を始めていれば犠牲者は大幅に減ったと考えられているが、震災後の調査では、多くの人が「自分のいる場所が安全だ」と思い込み、避難しないまま津波で亡くなったことがわかっている。

災害心理学の専門家は「避難する時間があったにも関わらず、多くの人が避難しなかった理由は、誰もが陥りやすい“思い込み”によるものだ」と指摘する。

東北大学災害科学国際研究所 邑本俊亮 教授:
人間は周りに起こる出来事を捉えるときに、普段と変わったことが起きても、「これは普段の生活の範囲内の出来事」とリスクを過小評価してしまう。例えば今、非常ベルが鳴ったとして、それを聞いてすぐ「火事だ避難しよう!」と思うかと言えば必ずしもそうではない。「何か検査でもしてるんじゃないか?」「間違って鳴っただけでは?」と思ってしまう

「危険だ」、「すぐに避難を」と言われたり、実際に身に危険が迫っていても「自分だけは大丈夫」、「きっと大したことない」と思い込む。こうした人間の心理は、正常性バイアスと呼ばれていて、災害時は誰にでも起こり得る現象。
しかし、正常性バイアスが強く働いてしまうと、正しい判断が下せなくなってしまう。

東北大学災害科学国際研究所 邑本俊亮 教授:
震災時も多くの方に、このバイアスは働いたと思います。「この地震は異常」と思っても周りの人が逃げないのを見て行動できないというように、多くの方がバイアスによる呪縛を受け、素早い避難行動につながらなかった

避難の妨げになったとみられる、正常性バイアス。しかし邑本教授は「人間が生きていく上では、必要不可欠なものだ」とも指摘する。

東北大学災害科学国際研究所 邑本俊亮 教授:
バイアスは誰もが持っているもので、普段の生活の中では決して悪者ではない。日常生活の中でバイアスがあることで心理的な心の安定が保てる。正常性バイアスがなかったら、ちょっと変わったことが起きるたびに「何か大変なことになるのでは」とハラハラしなければならず非常に困るし、楽観バイアスがなければ「自分の将来はきっと不幸だ」と暗い気持ちで毎日を送ることになる。「普段、平和に暮らせるのはバイアスがあるおかげ」と言っても過言ではない

震災後、避難行動とバイアスの関係性について調査を続けてきた邑本教授は「バイアスを逆手に取ることで、新たな避難行動につなげる可能性」を模索している。

東北大学災害科学国際研究所 邑本俊亮 教授:
テレビの報道よりは、やはり実際の人の声がけの方が避難する。報道を聞いて「大丈夫」と思っている人も、いざ家族に言われると避難する。声がけもだが、実際にその人が「逃げる」という行動を示すことで「自分も逃げなきゃ」、釜石で実際にあった事例ですよね。中学生・小学生がみんな逃げているから、地域の人もそれにつられて逃げた。これも「同調のバイアス」なんですね。実際に避難を示してくれる人がいるのは、非常に有効な防災の地域づくりになる。バイアスをうまく使って人を動かす・誘導するということも可能ですね

東日本大震災から私たちが得た教訓は、「津波から命を守るにはより早く、より高く、避難するしかない」ということ。いざという時に、避難を妨げる、正常性バイアスの罠に陥らないためにも、その特徴を前もって理解しておくことが大切。

(仙台放送)