ベストセラー書籍『ざんねんないきもの事典』の監修で知られる動物学者・今泉忠明先生に、動物学の観点から見る地球環境について、動物の行動の裏には何があるのかシリーズで伺う。

今回は、私たちの生活を大きく振り回しているこの問題からスタート。

「野生動物の数を調整する」のがウイルスや細菌の役割

藤村アナウンサー:
人間はワクチンで色々なものを予防しようとしますが、人間に流行る、例えば今回の新型コロナウイルスのようなウイルスや菌は、人間に近い動物であるサルにもうつるのでしょうか。

今泉先生:
うつりますよ。同じ温血動物ですから、特にサルはうつりやすいでしょうね。ネコもうつったとも聞きますし。新型コロナウイルスにおいては、まだあまり余裕がないのでそこまで話として出てきませんが、既にうつっているはずです。過去には風邪や結核なんかもうつっています。

つまり新型コロナウイルスにしろ、エボラ出血熱にしろ、ウイルスや菌は自然界において野生動物の数を調整するとういう役割があって、森の中の動物が増えすぎないようにできています。動物の数が増えるとウイルスや菌がくっつくいて間引くんです。間引くということは個体同士の間隔が空く→密じゃなくなる→移らなくなる、それを自然界はやっているんです。

動物学者の今泉忠明先生(左)にインタビューする藤村さおりアナウンサー
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藤村:
まさに今の世の中で叫ばれている「密を避ける」と同じなんですね。ハッとさせられます。

今泉先生:
ですから、そもそも野生動物の数の調整をしているのはウイルスとか細菌なんですね。ところが、人間が山奥へ行って引っ張り出してくるから(街中へも)出てきてしまうわけです。例えば、人間の社会は同じ種類が60億もいる“畑”や“家畜”だと思って下さい。ウイルスや細菌が1人に乗り移ることに成功すれば、あとはバーッと移っていくことができる。蔓延を避けるためには、やはり間隔を空けるしかないんですね。

藤村:
非常に原始的ですが、やはりその対処法が基本的な取るべき行動なんですね。たくさんの人が密集して住んでいる地域では、たったそれだけのことなのにやり続けるのがとても難しいという現実があります。「密を避ける」をもう少し、辛抱し続けなければいけませんね。
 

環境に関する問題は世界中に山積されています。そこで、世界をまたにかけ調査に出かけている今泉先生にこんなことも聞いてみました。

これからは人も動物も「水の奪い合い」

藤村:
15年ほど前、念願かなってケニアに行きました。そうしたら、世界中から集まった小さい子からおじいさん、おばあさんまでもが、野生動物を見てまるで子どものように目を輝かせ興奮していました。野生動物のありのままの姿がこんなに人の心を惹きつけるなんて!と驚きました。

また、カバがあんなに速く走るのを見たのもその時が初めてで、動物園で見る“ほとんど動かない動物”という認識はガラリと変わりましたね。これまで自分が認識してきた各動物の生活形態と自然環境での本来の生活形態とは随分違うんだな、と色々なことに気付かされ、まさに百聞は一見に如かずという経験をしました。しかし最近、野生のカバが危機的状況だとも聞こえてきます。

今泉先生:
カバに限らずアフリカにいる野生動物、全部が危機的状況でしょうね。一番の問題は畑が増えていることにあります。人口増加により、食物のために畑を作って、動物に水を飲まれないよう動物除けに何キロにも渡って柵をしました。首の高さにワイヤー1本さえ張れば、ヌーの類の動物などは引っ掛かるのが嫌だから、それだけで柵の中には入ってこない。水をとることができないわけです。そんな風に今は、動物と人間との間で「水の取り合い」が発生しているわけです。

藤村:
水の取り合いは人間同士でも同じ状況ですよね?

今泉先生:
次の環境問題は水問題だろうと言われていますね。中東をはじめ水の取り合いで争いが起きるのではと。人口が多いことが究極の要因でしょうね。

藤村:
世界中の人たちの胃袋を賄っていくために、またもや動物にしわ寄せがいってしまう…この悪循環をどうにかしたいですね。

深刻なゴミ問題…解決のヒントに?自然界におけるゴミ事情

そもそも私が環境問題に深く関心を抱いたのは、ゴミ問題がきっかけでした。

1人暮らしをしていた頃、1日に出るゴミの量はごく少量でしたが、結婚した途端、2倍以上のスピードと量でゴミを量産していく結果となり、そのことへの恐怖心から環境問題について深く知りたいと、様々な角度から知識を広めるようになりました。

地球表面の70%を占める海では多くの生き物を護り育てている反面、今、調子が悪いのが現状です。その主な原因として、次の2つが考えられます。

原因(1)世界中で和食ブームとなり、寿司や刺身用の海の魚を各国が競い合って捕まえ始めたため。

原因(2)人間が海を汚している事実。生活用水が海へ流れ出ていることに加え、プラゴミの問題がここに来て大変大きな問題となっています。環境省によると、世界では毎年少なくとも800万トンものプラゴミが海に流出し、このままでは2050年までには魚の量よりプラゴミの量が多くなるという研究結果もあるほど。

そこで、今泉先生に「自然界におけるゴミ事情」について尋ねてみました。

今泉先生:
元々、自然界にゴミはないんですよ。ゼロです、ゼロ!自然界では、全部何かがそれを回して有効活用しているんです。それに比べて人間の生態系は、ゴミをどんどん出す生態系なんです。その違いが大きいですね。

藤村:
この件について人間は動物から何かを学び、人の生態系にも転用ができるようなものがあるとよいのですが。先生が思いつくことで何かないでしょうか。

今泉先生:
頑張ってやっているんでしょうけど…分解する素材は畑の作物から作る、とかそういう考え方だからダメなんでしょうね。動物の生態系ではゴミが出ないというのはすごいことだよね。でも数が減っているから出ないのかもしれないしな。ほら、アフリカに行ってもゾウやカバのウンコなんか転がっていないですよね。あれはタマムシコガネ(スカラベ)が一瞬で転がして行っちゃうんです。みんな昆虫が片付けているんです。

藤村:
残骸はハイエナが食べる…なども含め、ゴミが出ないわけですね。

今泉先生:
そう、動物でまかり通っている自然の仕組みを人間生態系に組み込むと、“人道的でない”という側面が出て来るかもしれない。人間においてはそこが難しいですね。

藤村:
なるほど…倫理観にも発展するような難しい問題になってしまいますか。そう簡単にはいかないものなのですね。意外でした、悩ましいです。
 

一筋縄にはいかない現状も見えてきましたが、敢えて「自然を味方につけながら動物から学ぶ」というアプローチで答えが導き出せないか、私は気長に考え続けて行こうと思います。

最後に、温暖化によって動物はどう変化を遂げるのか。また、進化の先には何があるのか。環境の変化への対応力と生き物が大型化するメカニズムについて詳しく伺いました。

進化の先には絶滅が待っている!?

今泉先生:
昆虫や魚などの変温動物(外部の温度により体温が変化する動物)は、暖かくなると大型化します。逆に哺乳類と鳥は暖かくなると小型化します。大型だと熱が逃げなくなるので、熱を作る必要がなくなり、好都合なのです。

体重あたりの表面積で体温は決まっていますので、例えば、10gの角砂糖が1cm角だとすると、6面同じ大きさと重さのサイコロ2個がくっつくと、重さは倍の20gになる。しかし面数を考えると、くっついた面が減り10面になる。つまり熱が逃げる部分が減る計算になります。

だから寒い北の地方に生息するものは大きくなるんです。大きいものほど熱がこもる。だからそれだけ生きやすい=食べ物が少なくて済むということです。

今泉先生:
分かりやすい例では、相撲取りは冬でも浴衣一枚で寒くないわけです(笑)逆に表面積の小さい子供は、プールに短時間入っただけで顔色が真っ青になりますよね。あれは、表面積が小さいため体温が一気に奪われてしまうからなんです。というように、表面積の問題が大きいんですね。これは「ベルクマンの法則」といって、同じ種類の動物の場合、北のものほど大型化するという法則があり、大体の動物はこれに当てはまります。

これは自然の状況で決まってくるものですが、種類が進化していくと大型化するのが一般的です。個体同士の争いによるもので、大きいほどケンカに強いからメスを取るのに有利となり、進化するとだんだん大きくなっていくんです。恐竜なんかその結果、大型化していったんでしょう。そうやって大型化すると食べ物がたくさん必要になります。

進化は常に矛盾を抱えているので「矛盾しながら進化していく」と言え、大きくなって特殊化することは、生き物同士の競合には有利ですが、環境の変化には弱くなっていき、ある時、絶滅するんだよね。「矛盾の極限」、つまり食べる時間が24時間より1秒でも過ぎたら死ぬ。進化が行き着いた先は絶滅だったということです。

藤村:
進化と絶滅は表裏一体ということですね。

今泉先生:
ゾウなんかは食べる時間が1日14時間です。それがやがてもっと食べてもっと大きくなったとすると、20時間食べている…23時間59分食べている…24時間1秒過ぎたら時間が足りない=絶滅ですよね。時間の赤字はあり得ないから。

今泉先生:
進化というのは矛盾しながらしていくものだから、巨大化した先にはいつか必ず滅びるということです。だけどその前に大体、ちょっと寒くなるなど、環境の変化がありますから、余計に脆いですよね。

藤村:
では、今伺ったような色々な何重苦の中で、みな進化しながら生きていっているわけですね。動物ってすごいですね!

今泉先生:
人間もね(笑)

藤村:
人間もすごく進化しながら生きているわけですよね?きっと。

今泉先生:
人間は、そういう意味では適応力がありますね…人間も家畜だから。人間は家畜の代表です。

藤村:
人間が家畜?先生、その心は?

今泉先生:
野生動物は必ず自然淘汰を受けます。古くは人間もそれによる競争の中で生きてきた動物です。ところが人間は、家畜と同じくお医者さんがいるから(調子が悪ければ)治してくれる。つまり、そこではもう自然淘汰は働かないんです。ですからもはや人間は、家畜の中の家畜、最高の家畜なんですよ。ちょっと怪我したら薬を塗って治すでしょう、だから自然淘汰は受けません。

藤村:
自然淘汰を受けない、しかも脳がすごく大きくなってしまった人間という動物は、この先どうなっていくんでしょうか。

今泉先生:
だからきっとカビのように、自分で自分を殺すんでしょうね。

藤村:
なんとセンセーショナルな!? それは一体どういうメカニズムですか。

今泉先生:
カビって、増えすぎる時に毒素を出しながら増えるんですよ。そして、自分が最後はやられちゃうんです。人間もそれに近い状態が起きるんじゃないかなと僕は思っているんです。まさに現在のゴミ問題がそれです。自分で出したゴミに逆襲されてしまう、そんな気がするんだ。

藤村:
悲しいかな、その状況は現実に起きていますね。

今泉先生:
マイクロプラスチックを食べた魚を食べて、いつか自分の調子が悪くなる。“自滅型生物“な気がします。「だから、ゴミを捨てちゃいけないよ!」というのは良い提案方法かもしれないですね。

藤村:
自分たちを護るためにも、ですね。
 

今泉先生の話は、時に淡々と、時にユーモアに溢れ、時に尖っていて興味深いものばかり。新鮮な驚きが随所にあります。総じて感じるのは、「知る」ということの大切さ。

国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標を「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3層に分類し、各目標の関係性を総合的にとらえたこちらの図。

スウェーデン・ストックホルムレジリエンス研修所のヨハン・ロックストローム氏らによる提唱

これに照らし合わせると、一番下の層が生物圏で、その上に社会圏、その上に経済圏が乗っており、全てが生物(環境)に支えられ成り立っていることが良くわかります。裏を返せば、それだけ重要ということの証に他なりません。

私たち人間も“生かされているものの一つ”であることを再認識し、自分がとるべき行動は何なのか、或いはこれだけは守りたいという行動指針を見つけ、継続していくことができるとよいと考えます。

本当に、もう、待ったなしの状況ですから…

【執筆:フジテレビアナウンサー 藤村さおり】

【動物学者 今泉忠明(いまいずみ ただあき)プロフィール】
1944年、動物学者の二男として東京都に生まれる。東京水産大学(現・東京海洋大学)を卒業後、国立科学博物館所属の特別研究生として哺乳類の生態学、分類学を学ぶ。その後、文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画(IBP)調査、環境省のイリオモテヤマネコ生態調査などに参加。上野動物園動物解説員、日本動物科学研究所所長などを歴任。けもの塾 塾長。著書に「誰も知らない動物の見方~動物行動学入門」(ナツメ社)など多数。

動物学者・今泉忠明先生