動物学者・今泉忠明先生に、動物にとって温暖化の何が問題でどのように対策し、今後人間は何と闘っていくことになるのか伺った。

温暖化の問題点は速度

藤村アナウンサー:
まずは、動物にとって地球温暖化の何が一番問題なのか、今一度その部分から教えて下さい。

今泉先生:
現在の温暖化の問題点は速度です。これまでの気候変動では400年に少しの変化くらいでゆっくりだったから適応したんです。今は極端に言えば4週間で変わってしまう程のスピードですからついていけないんです。

過去例でみると、縄文時代は今よりも暖かかったので稚内まで縄文人が上っていて、そこにドングリの木がありました。ドングリはカケスが運び埋めます。1年に運ぶ距離が400mくらいだとすると、やがて林になり稚内まで行くにはどのくらいかかるか計算してみたら400~1000年ぐらいというペースでした。

そういうゆっくりとしたスピードにつられて、当時ツキノワグマも北海道に行っています。

動物学者の今泉忠明先生
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藤村:
動物たちも時々の気候によって棲む地域を変えるなど変化に対応してきたんですね。

今泉先生:
産業革命以来いきなり短い期間に急速に温度が上昇しています。このスピードでは動物はついていけません。多分、リズムから推察すれば人間のせいでしょうね。

温暖化に対応するため農耕の方法を変えるべき!?

今泉先生は温暖化によって、その土地にはいなかった昆虫などの生物がやってきて重大な被害をもたらすだろうと著書に書かれている。そうした被害をもたらしかねない虫から生活を護るために、私たち人間は温暖化にどのように対処していくべきなのか。

人間が1万年以上も同じ穀物を同じ所で作って繰り返してきたことによるものが大きいという先生。著書の中で、動物学の観点から見ると「農耕の方法を変えるべき」とも提唱している理由をうかがった。

人間は1万年以上も同じ穀物を同じ所で作ることを繰り返してきた

今泉先生:
無限に同じもの(穀物など)が広がるエリアを作ると、そこに虫が1回棲みつくことに成功さえすれば一気に増えるための助長をしていると言ってもいいでしょう。

養鶏場・養豚場も1回病原が発生すると何万頭という家畜が死にます。畑もそれと同じ状態です。稲は1度いもち病などの病気にかかれば、全滅してしまう。経済効率はよいでしょうが、対処するなら様々な植物を植えて少しでも多様な環境にする必要があるでしょうね。

例えばドイツなどのヨーロッパでは病気が一気に広がらないようにしているといいます。イギリスの農家でも、昔から色々な動物を飼って色々な種類のものを植えて生活しています。効率は悪いですが、打撃を受ける際全滅は避けられます。一つにはそちらに戻っていくべきだろうとも考えます。

多種の動物を飼い、多種の植物を育てるのも防疫のための工夫

藤村:
あとは“食う・食われる”の関係を上手く利用する方法も提唱していらっしゃいますね。この関係というのは、先日小学生の娘が社会の授業で習っていましたが、秋田県大潟村の有機米栽培=アイガモ農法なども、もしやその発想ですか?

今泉先生:
そうです。アイガモに害虫を食べさせると、使う農薬の量が少なくて済む。そういうことも大事でしょうね。



人間は自然界にいる虫の天敵を利用し、生物の多様性を利用できると好循環が生まれる。自分の生活の中に置き換えることができないか、考えながら生活したいと思う。

ベストセラー書籍『ざんねんないきもの事典』の監修で知られる今泉先生。新型コロナウイルスに怯える日々を過ごした2020年、敵は目に見えるものばかりとは限らないと、こんな質問をしてみた。

これからはカビとの闘い

藤村:
2019年から~2020年にかけて暖冬でした。先日、着ようと思って出した洋服がカビていました。カビの繁殖は温暖化と関係があるのでしょうか。

インタビューするフジテレビ藤村アナウンサー

今泉先生:
関係あるんです、湿気がカギです。温度が上がると増えるのはバクテリア・ウイルス系です。増殖するのに丁度良い実験室のような温度になるんですから、彼らは暖かいと嬉しいでしょう。そうやって考えると、これからの人間はずっとカビ・ウイルス・細菌との闘いになるでしょうね。今まで以上にケアしていかないとそれによって、身体を侵される可能性が高くなり、病気になるでしょう。

動物園にいるペンギンでも、空中を漂っているカビが肺に付いて死んでしまうケースがあります。元々生息している南極などの南半球ではカビはなく、きれいな空気を吸っているからカビに対して免疫力がない。だから動物園で死ぬのは肺にカビが生えるパターンが多いんです。人間もそのカビにうつることがあって、肺にカビ入ると治りません。肺炎とは違う、カビが増えるんです。

南極などの南半球ではカビが少ないので、ペンギンはカビに対する免疫力がない

藤村:
今はたまたまコロナ対策でマスク着用の生活を送っていますが、ではカビっぽいところに行くとわかっている場合はマスクを着用した方がよいということですか?

今泉先生:
絶対にした方が良いです。カビは怖いですよ。一方で、昔はお餅に生えた青カビなら食べても大丈夫など、完全に取り切れていないうちに食べてしまってもかえってそういうことで免疫力がついたんです。ペニシリンもカビから作ったというように、良いカビ(もの)と悪いカビ(もの)があるんです。良いカビは麹菌やチーズ、お餅に付くような菌ですね。

今はカビが生えていると全部きれいに取り除いてから食べるから、カビを食べることがない。カビと同じようにウイルスも良いウイルスと悪いウイルス、両方あるんじゃないですか。この“良い”“悪い”というのは人間目線ですよね。動物も益獣・害獣って分けるんですが、人間にとって良いか悪いかで判断しての分類です。これは気を付けないといけません。

都会でもよくみかけるハクビシン

先日、家の近所で柿を食べるハクビシンの姿を連夜見かけました。自治体のホームページにはハクビシンはアライグマと並んで“害獣”という扱いで、駆除の対象となっていました。人間の物差しだけで〇や×を決めるのではなく、もっと広い視野で捉えて判断すべきこと。環境を好きなように汚している人間が一番の“悪”と言われかねないのに、こうしたことはいささかの疑問が残ります。

【執筆:フジテレビアナウンサー 藤村さおり】

【動物学者 今泉忠明(いまいずみ ただあき)プロフィール】
1944年、動物学者の二男として東京都に生まれる。東京水産大学(現・東京海洋大学)を卒業後、国立科学博物館所属の特別研究生として哺乳類の生態学、分類学を学ぶ。その後、文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画(IBP)調査、環境省のイリオモテヤマネコ生態調査などに参加。上野動物園動物解説員、日本動物科学研究所所長などを歴任。けもの塾 塾長。著書に「誰も知らない動物の見方~動物行動学入門」(ナツメ社)など多数。