動物学者今泉忠明氏に、動物学の観点から見る地球環境について動物の行動の裏には何があるのかシリーズで伺います。

今回は温暖化と動植物について。

ホッキョクグマにとって温暖化の何が問題なのか。

藤村アナウンサー:
温暖化問題というとその象徴のように引き合いに出されるのがホッキョクグマです。ホッキョクグマにとって温暖化の何が問題なのか、改めて教えて下さい。

2100年までに絶滅が危惧されているホッキョクグマ
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今泉先生:
温暖化で温かくなることがホッキョクグマを傷付けるのではなく、浮氷(バックアイス)が解けてなくなり、狩りができず捕食できないで死んでいくことが問題なんです。ホッキョクグマは、アザラシなどを捕らえるべく進化しているので、獲物はそれでなくてはいけません。別の地域では獲物となる生物がいないんです。

ホッキョクグマは浮氷に乗ったりして隠れながらアザラシを捕ります。アザラシが呼吸をするために開けた穴の入り口で待って捕ったり、雪の下で子育てしていると上から潰して捕ったりと、アザラシを捕る技術がすごく上手い。もし仮に氷がなくなり泳いで行ったとしたら、アザラシに気付かれて狩りができなくなってしまう。その隠れる場所が無くなっているということなんです。逆にそれ以外の動物には大体逃げられてしまうから、アザラシがいないと餓死して絶滅するというのはあり得るんですね。

アザラシがいないと餓死して絶滅することもあり得る

藤村:
勿論、寒い北極が住環境として一番適しているとは思いますが、クマの仲間で一番肉食の傾向が強いと言われるホッキョクグマは、仮に捕食する獲物がいれば他の陸地でも生きていけるのでしょうか。

今泉先生:
生きられます。泳ぐのも得意で300㎞くらい、海中でも冷えずに泳げますからね。温度的にも大丈夫なんです。シンガポールの動物園でもホッキョクグマは繁殖していますし、夏、上野動物園で40度近くなってもちゃんと生きていますから、温度には適応力が高い方です。

ですから、温暖化で温かくなることがホッキョクグマを傷付けるのではなくて、別の地域では獲物がいないために捕食できずに死んでいく、これが問題なんです。ホッキョクグマは今の状態のままだと2100年までに絶滅すると言われています。

野生動物は人間生活のバロメーター

藤村:
2100年まで残すところ80年を切りました。まさにカウントダウンに入っている、待ったなしの状態ですね。ホッキョクグマが絶滅する可能性が高まるということは、私たち人間に何を訴えていると捉えるべきなのでしょうか。

今泉先生:
野生動物というのは人間生活のバロメーターなんです。だからホッキョクグマが危ないぞ=人間も危ないぞ。すぐに人間にも及ぶぞ。危険信号だ!と思わないといけない、そういうことなんです。

藤村:
とても危険な温度上昇だということを自分事として捉えよ。そして、私たちが安全に生きていくためにも、必死で、そして急務のこととして温暖化の問題を食い止める方法を考えるべきだと知らせていると捉えるべきなんですね。先生が絶滅を危惧している“ホッキョクグマ以外の危機的な動物”を教えて下さい。

今泉先生:
順番的に言うと北から影響が出始めます。今いる数少ないジャコウ牛とかトナカイとか北極圏のツンドラにいる生き物がまず死に絶えるでしょう。

北極圏のツンドラに生きる数少ないジャコウ牛が先に影響を受ける

ホッキョクオオカミ、ホッキョクギツネ、ホッキョクノウサギ・・・。多分、温暖化が急速だからこれからもいっぱい滅ぶことになるでしょう。歴史的に見ると、これまでにマンモスやケブカサイなども温暖化で滅びました。

温暖化の影響をうけ滅びたマンモス

冬に白くなるオコジョ、アラスカにいる首輪レミングなどは、温暖化で雪が降らないことで土の上で白く目立ってしまい、食べられてしまう。

冬に白くなるオコジョ

また、雪解けで困っているのがムース(ヘラジカ)で、永久凍土が解けて足元がグチョグチョにぬかるんで歩けない。アラスカでは動物だけでなく、永久凍土の上に建物が建っていますから、家が傾いたなどの被害も聞こえてきています。一方で、動物の観点からすると、南の影響はそれほどないといいます。

警鐘は鳴らされた!我々はどう解釈すべきか

今泉先生:
人間はここ250万年の間に人間だけの独特の生態系を作ってきました。家畜を飼い、家猫・家犬、スズメ、カラスという生態系のピラミッドを都会に作りました。これは(システムとして)非常に強いんです。

一方で、イヌワシがいて下にバクテリアがいる野生動物の脆弱なピラミッドがある。人間はこの2つのピラミッドが別のものだと思っているんです。ところが地球全体からみるとこれは同じもので、その中に組み込まれている一部が人間の作り出したピラミッドだということをきちんと意識しないといけないんです。ですから野生動物のピラミッドが危ない!となれば、人間も危ない。それに気づかないといけないということです。

「野生動物が危ない時は人間も危ない」と指摘する今泉先生

気象庁によると、この100年で地球の平均気温は約0.7度、日本の平均気温は約1.2度上昇し、このまま温暖化が進めば平均気温は今世紀末には4.5~4.8度上昇すると予測され、北海道の雪は雨に変わるとされている。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)の予測では、2050年には北極圏の氷が下図のようにほとんど失われるとされています(下図の白く輝いている中央部分が北極圏の氷)。

NOAA projected Arctic changes.

今泉先生:
明治時代末期に、地球に空気がなくなる日が来るかもしれない、という噂(フェイクニュース)が流れ、当時みんな自転車のチューブを買ってなんとか生き延びられるよう息を止める練習をしたとか、洗面器に水をはり息を止める練習をしたという話があります(笑)。

藤村:
その練習の様子を想像すると滑稽です、しかしそれ級の生きづらい日々が地球にやってくるかもしれない・・・

今泉先生:
二酸化炭素を吸収し、かなりの量の酸素を作って空気をきれいにしている「地球の肺」といわれるアマゾンが、毎年東京都と同じ面積分(の森が)減っているといわれています。また海の藻類も酸素の大部分を作っていますが、そこを壊したら・・・おしまいですよね。

今泉先生(左)と筆者

上記の様な空気浄化の他に森林は雨水を蓄えきれいにする働きもある。近年のアマゾン森林火災ですら人々の暮らしを豊かにするための経済活動によるものといわれ、それらのことにより森林が減り、生き物を育んできた自然も破壊されている現実。一度壊れた森はなかなか元に戻らず、棲む場所を追われた3万種以上ともいわれる野生生物が絶滅すると心配されています。

先生は著書の中で、世界で起きている現状についてこんな風に憂いている。

「我々の自然に対する知識は全く未熟なもので、それゆえ我々の先人が彼らを絶滅の淵にまで追いやってきた。にもかかわらず、現在もなお開発と汚染を繰り返し、無意識のうちに彼らを追い詰め続けている。文化的という、ちょっと便利なだけの生活をするために。」

都会で暮らしていると、またコロナ禍でSTAY HOMEの生活をしていると、猶の事、自然から遠ざかった“作られた小さな世界”に生きてしまいがち。

「生き物はみな、森林に支えられて生きている。」

このことを、日々のふとした瞬間に思い出し、自分の次の行動を見直すきかっけにして、最善のチョイスができるとよいと感じています。

例えばそれはCO2をなるべく出さないためのリデュース的な“断る行動や選択”かもしれませんし、例えばそれは他と比べるとリサイクルした分だけ値段が高くなってしまっている製品をあえて買うことかもしれません。

事ある毎に自分の行動を立ち止まって考えることが、森林・動物・地球・そして自分に繋がる、いえ、自分に還ってくることと捉えられると、今できる最善のチョイスができそうにいつも思っています。

ホッキョクグマの雑種は既にいる!

藤村:
ホッキョクグマの話をもう少し深堀りさせて下さい。ホッキョクグマは他の種類のクマと交雑して“雑種”として生きられるのか。仮に可能だとしたら、それを“ホッキョクグマは絶滅した”というのでしょうか。

今泉先生:
遺伝子の攪乱・汚染による絶滅です。実はもうアラスカの北部で、雑種は自然にできている、つまり、氷がないからホッキョクグマが陸地をさまよう様になってどんどん南下しているんです。南にはグリズリーベアーとヒグマがいて、それと交雑するんですね。アメリカに行くと、いくつも剥製の標本があります。

グリズリーベアー

藤村:
既にそういう現象は起きているんですね。知りませんでした。それが見られるようになり始めたのはいつ頃からですか?

今泉先生:
30年程前から見られるようになり、温暖化が始まって南下し始めていると、この頃から分かっていました。

藤村:
30年も前ですか・・・私がまだ学生だったその頃は、東京では11月初旬にはイチョウの木が黄色く色付いていましたが、今ではイチョウの紅葉は12月も半ばにならないと色付きません。当時それほど温暖化がまた叫ばれていなかったようにも思いますが、そういった兆候は既にあり、専門家の間では取りざたされていたのですね。ところで、交雑した個体はどんな毛色でどんな風貌なんですか?

今泉先生:
一つは体が白くて目のふちが茶色いメガネをかけているような、パンダみたいなやつです。

藤村:
・・・結構印象的でしょうね、きっと(笑)。

今泉先生:
そう、そういうのが剥製になっていました。そうやって外に(交雑の目印が)出る雑種は分かりやすいんですけど、出ないのもいますからね。つまり、体の中に混じった要素があって、子孫が純粋じゃなくなる。雑種全般に言えることです。私たちはこれを“遺伝子汚染”といっているんです。

藤村:
見た目ではわからないのもいるわけですか。では、そのような交雑したグリズリーやホッキョクグマの子供たちを“ホッキョクグマの子孫”と位置付けてよいのでしょうか。

今泉先生:
子孫でしょうね。F1というやつです。そして実際にはそれがもうホッキョクグマに混ざり込んでいるのいうのはあり得ます。だんだんと薄まっていき純粋なホッキョクグマは今にいなくなるだろうなというのは想像がつきます。

というのは、40万年くらい前だろうと言われていますが、元々ホッキョクグマはアジアが起源でヒグマから分かれたものなんです。アジアから北アメリカへ渡っていた時にベーリング海峡のベーリンジアという陸橋を渡って北アメリカに入って行った。その時に、クマがいない地域ですから一気に発展したんです。「俺は木の上」というのもいれば「お前はあっちに行け」と北極に追われたやつがいる、それがホッキョクグマです。

藤村:
ホッキョクグマのルーツは、そういう経緯だったんですね。驚きました。

今泉先生:
最初は、寒いし獲物はないし環境はあまりよくなかったでしょう。でもそこ以外は棲まわせてもらえなかった。そうしてそこで適応した結果、40万年で白くなって、首が長くなって、300キロ泳げるようになって・・・という変化があったんです。だからすぐに元に戻る順応力はあるんです。「戻りやすい」というのは、遺伝子がまだ似ているということです。まだ40万年くらいじゃまだ似ています。

藤村:
40万年はまだ近い・・・・スケールが壮大ですが、そういう大きな時間の流れを経過し、定着しているように見えるものも、人為的なハイスピードの温暖化によって、あっという間に逆の流れのスイッチが入る可能性があるということなのですね。

絶滅=多様性-1+1ではなくなる

藤村:
では、最後に“交雑=絶滅”という位置づけは正しいのでしょうか?

今泉先生:
交雑プラス生息数がなくなるということになるでしょうね。交雑で純粋なのがいなくなる問題より北極圏にクマがいなくなるという問題の方が悩ましい。クマがいたとしたらそれはヒグマでしょう。結果、1種類減るから多様性が1つ減るということになるんです。

これまでの地球だったら、繁栄していた動物がいなくなると、空いたスペ-スに新たな動物が進化して繁殖して1種類補ってきたのですが、もはやそれは起こりえない。

ヒグマ

今回、先生にお話をうかがい改めて浮き彫りになったのは、今、目の前に広がるこの生態系のピラミッドを構成している構成員を維持しよと思うのならば、温暖化をはじめとする異常気象を出来る限り急いで止めるより他ないということ。さもなければ長い歴史の中で築いてきた多くの「当たり前」のものがひっくり返るような、そんなとんでもない変化が自分の身も含め起こることを想定しなければならないということです。多様性とは何なのか、自分事として捉え、危機感から行動が変えられるか、問われています。

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【執筆:フジテレビアナウンサー 藤村さおり】
【表紙の画像提供:今泉忠明氏】

【動物学者 今泉忠明(いまいずみ ただあき)プロフィール】
1944年、動物学者の二男として東京都に生まれる。東京水産大学(現・東京海洋大学)を卒業後、国立科学博物館所属の特別研究生として哺乳類の生態学、分類学を学ぶ。その後、文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画(IBP)調査、環境省のイリオモテヤマネコ生態調査などに参加。上野動物園動物解説員、日本動物科学研究所所長などを歴任。けもの塾 塾長。著書に「誰も知らない動物の見方~動物行動学入門」(ナツメ社)など、監修書に「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)ほか多数。