“改憲志向”福田氏の現実的思考は…
そんな福田氏がかつて国立公文書館を視察した際、坂本龍馬が当時の国際法を常に携帯していたという資料を見つけ「ファッションだな」とつぶやいたので、私が「福田長官も日本国憲法とか持ち歩いてみたらいかがか」と振ってみると、「だってあれもうすぐ変わっちゃうでしょ」と本気ともジョークともとれる言葉を返した。
福田氏にリベラルなイメージを抱く人も少なくないが、根本的には憲法改正論者だ。戦力不保持や、前文などに疑問を抱き、防衛力保持を明確にした現実に即した憲法改正を志向していた。
しかし、その福田氏が晩年は、平和憲法の意義について語る機会も見受けられた。

日本社会での憲法改正への理解は徐々に広がっている印象だが、福田氏の現実主義な視点に照らすと、今の国際情勢の中で、改憲という“理想”とは“別の現実”を感じていたのかもしれない。
福田氏が中国との対話に熱心だったのも、すぐ隣にある面倒な大国とどう戦争を起こさずに付き合っていくかという現実的アプローチだったのだろう。第二次政権の後半に中国との安定的な関係を築いた安倍元総理の戦略とも、スタンスは違えど通じる部分もある。
福田氏と安倍氏が共に信頼を寄せた外交関係者は「劇的に関係を改善したり課題を解決する外交は理想だが、難しい場合は、決定的な対立や衝突を起こさないようにコントロールするのも外交だ」と語っていた。
世界がより不確実性を増す中、戦争を知る世代の福田氏が残した足跡は、この後の政治にどう活かされるのだろうか。
悲劇を防ぐためのメッセージ
そして福田氏は「様々な情報が集まってくる中で、どの情報、誰の情報が正確なのかを見極めるのが大事なことだ」とよく口にしていた。主に外交・インテリジェンスについての言及だったが、玉石混交の情報が飛び交う令和の社会への警鐘にも聞こえる。

クラシック音楽好きだった福田氏は、ヴェルディのオペラ悲劇「アイーダ」の「凱旋行進曲」の調べの中、葬儀所から見送られた。「正確な情報を元に判断し、戦争は起こしてはいけないし、起こさせてはいけない」という福田氏の訴えは、不確実性が引き起こす悲劇と背中合わせの世界と日本で、重みを増すメッセージに聞こえた。
【執筆:フジテレビ 経済部長 高田圭太】

