SNSも決済もサブスクも、今やスマートフォン1台で完結する時代。しかし今、注目を集めているのはその「画面」ではなく「裏面」だ。シール、写真、レシート、絆創膏…街頭取材や視聴者の声から浮かび上がったのは、スマホの裏が「ポケットサイズの自己表現の場」に変わりつつある現実だった。
約3人に1人がスマホ裏に「証明写真」を入れている
鹿児島テレビによる街頭調査で最も多く見られたのが、証明写真をスマホの裏に挟むスタイルだ。
調査では約3人に1人がこの使い方をしており、さらにある専門学校のクラスでは半数以上が証明写真を入れていることが確認された。
美容師を目指す専門学生の酒匂玲奈さんもそのひとり。採用面接に向けて撮影した証明写真は、履歴書に貼るだけで終わらない。余った枚数を友人同士で交換し、スマホの裏に大切にしまっておくのだ。「緊張している時とかに見返すと元気が出る。みんなが一緒にいるみたいな」と話す言葉からは、習慣化された行動であることが伝わってくる。
「加工されない顔」がエモさの理由
なぜ証明写真がここまで支持されるのか。「Z世代」という言葉の生みの親として知られる芝浦工業大学デザイン工学部教授の原田曜平さんは、こう説明する。
「プリクラは目が大きくなったり小顔になったり加工されるが、証明写真はそこまで加工されない。若者にとってすごくリアリティのある、いわゆる“エモい写真”として人気が高まった」
加工が「当たり前」の文化だからこそ、無加工の証明写真が逆に新鮮に映る。対比の妙が、このブームを支えていることが窺える。
知らない赤ちゃんの証明写真がガチャに
証明写真ブームは、さらに意外な方向にも広がりを見せている。
文筆家の寺井広樹さんが考案した「赤の他人の証明写真ガチャ」だ。公募で集めた一般人1,400人以上の証明写真を1枚ずつカプセルに詰め、販売している。赤ちゃんのほか、知らないおじさんの写真まで揃う。
寺井さんによれば、購入者の多くは「かわいげのあるおじさん」を「当たり」と捉えているという。さらに、会話が苦手な人がこのガチャの写真をスマホの裏に入れ、突っ込まれることでコミュニケーションのきっかけにしているケースもあるそうだ。
そしてこの証明写真、寺井さんの家族やご近所の方々が1枚1枚手作業でカプセルに詰めているという。商品を送り出す工程も、話題性や思いが伝わるエピソードとなっている。
「魂の表現」「夢のかけら」——人それぞれの裏の世界
スマホの裏に入れるものは、証明写真だけに限らない。
新潟から鹿児島を旅してきた2人組は、「これだと思った」旅先ステッカーやチラシの切り抜きを挟んでいた。「魂の表現ですね」という言葉に、そのこだわりが凝縮されている。

赤塚学園デザイン科3年の池田愛さん(通称・池ちゃん)は、映画の半券や消しゴムのパッケージ、黄ばんだレシートをスマホの裏に入れている。「自分で必要と思えば、それが必要なものだったり、価値のあるものになるから」と語る池ちゃんの夢は、いつかデザイナーになること。スマホの裏は、そんな夢のかけらを詰めた小さなポートフォリオだ。
司法試験に向けて励むもえかさんはアニメの力強いセリフを、矢沢永吉さんのファンのたぐちさんは大好きな矢沢さんのステッカーを毎日のお守りにしている。絆創膏を常備する結婚式場スタッフ、留学のモチベーションに5ユーロ紙幣を入れる人など、実益と思いを兼ね備えたスタイルもある。
スマホの裏は、もうひとつの「自分」だ
「自分はこういう人間です、こんな性格ですと説明するのは難しいが、スマホ裏には何でも詰め込める気がする」・・・取材でそんな声が聞かれた。
毎朝鏡で自分の顔を見る以上に、私たちはスマホの裏を目にしているかもしれない。お守りになり、ファッションの一部になり、コミュニケーションのきっかけになる——スマホの「ウラ」はもはや、持ち歩くもうひとつの「自分」だ。
自分だけの譲れないものを、いつも目につく場所に。その小さな習慣が、どんな形の表現へと発展していくのか。スマホの裏の文化は、まだ進化の途中にある。

