ノルウェー中が赤く染まった。

サッカー男子代表がワールドカップ決勝トーナメント2回戦で強豪ブラジルを2-1で破り、史上初のベスト8進出を果たした。28年ぶりにW杯へ戻ってきた代表チームの歴史的快進撃に、国中が熱狂した。

その歓喜のなかで、思わぬ注目を浴びたのがノルウェー王室だった。

代表選手たちが帰国するとノルウェー王宮前には約10万人が集まった
代表選手たちが帰国するとノルウェー王宮前には約10万人が集まった
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象徴的だったのは、ブラジル戦後のロッカールームで撮影された一場面だ。

ユニホームを脱いだ「怪物」ハーランド選手と抱き合い、勝利を喜ぶ若い女性。彼女は一般のサポーターではない。ノルウェー王位継承順位第2位のイングリッド・アレクサンドラ王女、将来の女王である。

ハーランド選手と抱き合うアレクサンドラ王女
ハーランド選手と抱き合うアレクサンドラ王女

王女は弟のスベレ・マグヌス王子とともに現地で観戦。

ゴールの瞬間には身を乗り出して歓喜し、試合後には選手たちの輪の中に加わった。

その光景は、SNSで広く拡散され、国内外で話題となった。

マグヌス王子とアレクサンドラ王女
マグヌス王子とアレクサンドラ王女

現在22歳の王女は父ホーコン皇太子の長女で、陸軍での15カ月の兵役を終えたあと、オーストラリアのシドニー大学で学んでいる。

同世代の若者として代表チームを応援する自然な姿は、将来の王室を担う王女への期待を改めて高めるものとなった。

銃や戦車を扱う訓練も受けている
銃や戦車を扱う訓練も受けている

この明るい話題は、近年厳しい視線にさらされてきた王室にとって、タイミングの面でも大きい。

実は、この明るい話題は苦境が続く王室にとって大きな意味を持っていた。

近年、ノルウェー王室は、相次ぐ問題により厳しい批判にさらされてきた。

メッテ=マリット皇太子妃と長男マリウス・ボルグ・ホイビー被告(2006年)
メッテ=マリット皇太子妃と長男マリウス・ボルグ・ホイビー被告(2006年)

メッテ・マリット皇太子妃の長男で、王女の異父兄にあたるマリウス・ボルグ・ホイビー被告は6月、性犯罪など計34件で有罪とされ、禁錮4年を言い渡された。

事件は国内外に大きな衝撃を与え、王室のイメージを大きく損ねた。

マリウス・ボルグ・ホイビー被告(29)
マリウス・ボルグ・ホイビー被告(29)

さらに同じ月には、メッテ・マリット皇太子妃が生命を脅かす肺疾患のため肺移植手術を受けた。手術後も入院と療養が続き、王室の将来像をめぐる不安は消えていない。

こうした状況のなかで、W杯がもたらした高揚感は、王室にとって久しぶりの明るい話題となった。

ブラジル戦を観戦するホーコン皇太子夫妻
ブラジル戦を観戦するホーコン皇太子夫妻

王室は、家族それぞれがブラジル戦を応援する姿を公開し、勝利後にはホーコン皇太子が王宮前広場に姿を見せ、サポーターと「船をこぐ」応援パフォーマンスを披露した。王宮前は、王族と市民が同じ歓喜を分かち合う空間となった。

準々決勝で敗れた後も熱狂は続いた。

帰国した代表を迎えるためオスロ中心部には10万人を超える人々が集まり、選手たちは王宮でハーラル国王らの歓迎を受けた。

その後、皇太子やイングリッド・アレクサンドラ王女らとともに群衆の前に立ち、再び「船をこぐ」パフォーマンスで喜びを共有した。

「船をこぐ」パフォーマンスでは皇太子が自ら太鼓をたたいた
「船をこぐ」パフォーマンスでは皇太子が自ら太鼓をたたいた

ノルウェー全国紙クラッセカンペンは、W杯の熱狂によって、王室がスキャンダルの一年から抜け出しつつあるとの専門家の分析を紹介した。問題が忘れられたわけではないとしながらも、王室が「国民を一つにまとめる存在」であることに、人々が再び目を向けていると指摘した。

もちろん、代表の快進撃だけで批判が消えるわけではない。

しかし、危機の渦中にあった王室は、少なくともW杯の期間中、批判の対象ではなく、国民と喜びを共有する家族として映った。

W杯の熱狂は一過性のものに終わるのか。それとも、王室のイメージ回復につながるのか。快進撃が残したものは、ピッチの上の歴史だけではないようだ。

(執筆:FNNロンドン支局長 髙島泰明)

髙島 泰明
髙島 泰明

FNNロンドン支局長
09年から警視庁、神奈川県警、厚生労働省、宮内庁を担当
東日本大震災では故郷・福島で放射能汚染や津波被害の取材に奔走
「めざましテレビ」から夜のニュース、選挙特番などでデスク、プロデューサーなどを経験
平昌・パリ五輪で現地取材、イット!「極ネタ!」演出も務める
愛犬家で「人と犬の幸せを育む」記事を書くことも大きなテーマ