マイページ
人類初「大陸を動かす瞬間」を目撃 深海で起きた「数十年分の変化」 新たな海底誕生を記録|FNNプライムオンライン
木村 太郎のNon Fake News

人類初「大陸を動かす瞬間」を目撃 深海で起きた「数十年分の変化」 新たな海底誕生を記録

Google ニュース プリファードソース

100年以上前、ドイツの気象学者アルフレート・ベーゲナーは、アフリカと南米の海岸線がパズルのように一致することや、同じ化石が大西洋を挟んだ両大陸で見つかることなどから、「かつて大陸は一つであり、その後ゆっくりと分裂して移動した」という「大陸移動説」を提唱した。

しかし、決定的な弱点があった。「大陸を動かしている力は何なのか」。それを説明できなかったのである。そのため、この説は長い間、「奇抜な仮説」と見なされ続けた。

転機は1960年代だった。海底調査が進み、大西洋や太平洋などを走る中央海嶺では、地下から上昇したマグマによって新しい海底が生まれ、それが両側へ広がっていることが分かった。

プレート(茶部分)は、マントル層(赤、黄)の上をゆっくり移動。黄色い矢印はプレート移動方向(写真:アフロ)
プレート(茶部分)は、マントル層(赤、黄)の上をゆっくり移動。黄色い矢印はプレート移動方向(写真:アフロ)
この記事の画像(3枚)

地球の表面は「プレート」と呼ばれる巨大な岩盤に分かれている。新しい海底も大陸も同じプレートの一部であり、プレートが動くにつれて、その上にある大陸も一緒に移動する。これが、現在のプレートテクトニクス理論の中核をなす「海底拡大」である。大陸は海底とは別に単独で動いているのではない。新しく生まれて広がっていく海底とともに、巨大な「地球のコンベヤーベルト」に運ばれているのである。

ところが、その「新しい海底」が誕生する瞬間を、人類はこれまで直接観測したことがなかった。現象が起きるのは水深数千メートルの深海である。しかも海底の拡大速度は、長期的な平均では年間数センチにすぎない。理論としては分かっていても、その現場を捉えることは極めて難しかった。

世界で初めて捉えた海底誕生の瞬間

2024年、その不可能が偶然可能になった。フランスの海洋地球物理学者ジャン=イヴ・ロワイエ博士らの国際研究チームは、インド洋のオーストラリアプレートと南極プレートの境界にあたる南東インド洋海嶺に、15基からなる海底観測網を設置した。3年間にわたる観測を始めたばかりだった。

ところが、設置からわずか2カ月後、その観測網の近くで地震群が発生した。研究チームは、水中マイクや水圧計、海底の距離を測る装置などを使い、地下のマグマが移動し、海底が陥没し、地殻が引き裂かれ、溶岩が噴出して新しい海底が形成される一連の過程を、世界で初めて現場で記録することに成功した。まるで噴火寸前の火山に、偶然カメラを向けていたような幸運だった。この研究を評価した別の海洋地球物理学者は、観測装置の設置からわずか2カ月後に現象が起きたことを、「まるで宝くじに当たったようなものだ」と驚いている。

そのデータは、研究者たち自身も驚く内容だった。この海域の海底は、長期的には年間約6.3センチの速度で広がっていると考えられている。だが今回、観測結果に最もよく合う変形モデルの一例では、約2.4メートルの水平拡大が起きたと推定された。年間6.3センチで計算すれば、約38年分に相当する。つまり、海底は毎年決まった幅だけ滑らかに広がっているのではなかった。何十年もかけてたまった変化が、地震群の発生後、わずか数日ほどの間に集中的に表れたのである。

さらに驚くべきことに、海底を区切る断層のずれのうち、地震として観測されたのは推定で約24%にすぎなかった。残る約76%は、強い揺れをほとんど起こさない「非地震性滑り」、いわば「静かな滑り」だったとみられている。

地震・噴火研究の新たな手がかり

私たちは「大陸は毎年少しずつ動いている」と考えがちだ。それは長期間の平均としては正しい。しかし実際の地球は、時計の針のように一定の速度で動いているわけではない。長い静寂のあと、数十年分の変化を短期間にまとめて起こすことがある。今回、人類はその動き方を初めて詳細なデータで捉えたのである。

インド洋の海嶺を示した海底地形図南東インド洋海嶺は、豪州と南極大陸の間をほぼ東西方向に延びる(写真:アフロ)
インド洋の海嶺を示した海底地形図
南東インド洋海嶺は、豪州と南極大陸の間をほぼ東西方向に延びる(写真:アフロ)

今回の成果は、地球物理学の教科書を書き換えるものではない。プレートテクトニクス理論そのものは、すでに半世紀以上前に確立されている。しかし、それを初めて「目撃」した意味は極めて大きい。今回得られたデータによって、マグマがどのように地下を移動し、断層を動かし、地震や海底噴火を引き起こすのかを再現するシミュレーションは、より精密になると期待されている。

すぐに地震や噴火を予知できるという話ではないが、それでも、地震や火山活動がどのように始まるのかという理解を深めることは、将来の予測モデルや危険度評価、防災技術を高度化するための基礎になるだろう。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。

  • 1
  • 2
関連記事
【よく一緒に読まれている記事】
トカラ列島“群発地震”で4cm動いた「宝島」を現地取材 専門家がメカニズムを解説「海底付近に割れ目が開いた」「M7クラスが起きる可能性も」
トカラ列島“群発地震”で4cm動いた「宝島」を現地取材 専門家がメカニズムを解説「海底付近に割れ目が開いた」「M7クラスが起きる可能性も」
木村 太郎のNon Fake Newsの他の記事
“1人の怒れる男”が「3人子殺し」の母親の刑事裁判を無効に 米刑事司法を揺るがせたリンジー・クランシー裁判
“1人の怒れる男”が「3人子殺し」の母親の刑事裁判を無効に 米刑事司法を揺るがせたリンジー・クランシー裁判
国際
ロシア「地球最後の日のラジオ」が“謎の放送” CIA長官の極秘モスクワ訪問直後のメッセージは偶然なのか
ロシア「地球最後の日のラジオ」が“謎の放送” CIA長官の極秘モスクワ訪問直後のメッセージは偶然なのか
国際
トランプ大統領に“スキャンダルの匂い” 「ナタリーと旅行したいだけ」民主党議員の一言にホワイトハウス猛反発 最側近との“異例な近さ”
トランプ大統領に“スキャンダルの匂い” 「ナタリーと旅行したいだけ」民主党議員の一言にホワイトハウス猛反発 最側近との“異例な近さ”
国際
トランプ大統領が米韓演習の縮小を指示 アメリカのイラン戦争の思わぬ「余波」がアジアの安全保障に及び始めた
トランプ大統領が米韓演習の縮小を指示 アメリカのイラン戦争の思わぬ「余波」がアジアの安全保障に及び始めた
コラム
一覧ページへ
×