再審開始決定に対する検察官の不服申し立て=抗告を「原則禁止」とする刑事訴訟法の改正案が、5月26日から国会審議に入った。30年以上にわたって裁判のやり直しを求め争われてきた大崎事件は、この法改正によってどう変わるのか。2018年に再審開始を認めた元裁判長が、改正案への期待と懸念を率直に語った。

3回の再審開始、3回の抗告——繰り返された壁

鹿児島県大隅半島の東部、大崎町。田畑が広がる風景の中に、雑木林に埋もれるように朽ちた建物が残されている。1979年10月15日、この場所にあった牛小屋の堆肥の中から中村邦夫さんの遺体が発見された。これが大崎事件の始まりだ。

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中村さんの義理の姉にあたる原口アヤ子さんは、親族の男性3人とともに逮捕され、主犯格として殺人と死体遺棄の罪で有罪判決を受け10年間服役した。しかし原口さんは、取り調べ段階から現在に至るまでの47年間、一貫して無実を訴え続けている。

「やっていない。やっていたら裁判をしません。やっていないからどこまでもこの無実の罪を晴らさないと、このまま罪を受けて死ぬことはできない」

現在、原口さんは5回目となる再審の申し立てを進めている。これまでに1回目の申し立てで地裁、3回目では地裁・高裁と合わせて計3回、再審を認める決定が出されてきた。しかしいずれも、検察官の抗告によって上級審で覆されてきた。地裁・高裁で認められた再審決定が最高裁で取り消されたのは、過去において大崎事件だけという異例の経緯がある。

「これ以外にない。大崎事件は冤罪事件だ」

元裁判官で現在は東京で弁護士を務める根本渉さん(69歳)は、2018年に福岡高裁宮崎支部の裁判長として3回目の再審開始を認めた人物だ。

大崎事件で主な有罪根拠とされてきたのは、原口さんとともに逮捕された共犯者の自白である。弁護側は、被害者が殺人ではなく自転車事故によって死亡した可能性を示唆する法医学鑑定書などを提出。根本さんはこうした証拠を丁寧に検討し、「共犯者の自白は信用できない」として再審開始を決定した。

「証拠関係を見てこれ以外にない。大崎事件は冤罪事件である。一日も早く再審公判で無罪の判決がなされるべきである」

しかし、決定からわずか1年後、最高裁は根本さんの判断を棄却した。検察官の抗告が、またも救済への道を閉ざした瞬間だった。

「最初に『えっ』と思った。最高裁で覆るとは全く考えていなかった。後悔というか心残りというか、忸怩たる思いもなくはない」

改正案への期待と「例外規定」への懸念

こうした経緯を背景に、再審無罪が確定した静岡県一家4人殺害事件(袴田事件)を機に、制度改正の動きが一気に加速した。自民党と政府の対立も注目を集めながら、5月26日の衆議院本会議で改正案が審議入りした。

法務大臣の平口洋氏は本会議でこう述べた。「様々な指摘は従来の再審制度やこの運用の在り方に大きな反省を迫るもの。これを真摯に受け止めた上で速やかに手当てを講ずる必要がある」

今回の改正案の核心は、再審開始決定に対する検察官の抗告を「原則禁止」とする点だ。根本さんもこの方向性自体は評価する。しかし、改正案には「十分な根拠がある場合は抗告を可能」とする例外規定が設けられており、ここに強い懸念を示す。

「検察官が『これは十分な根拠です』と言えばそれでいいのか、それではあまり意味がない」

根本さんが求めるのは、例外規定を設けない「抗告の全面禁止」だ。そうなれば、大崎事件の再審開始決定は確定し、再審公判へと進むことができる。そして根本さんはこう確信を持って語る。

「抗告ができない状態で再審開始決定が確定し、再審公判が始まっていたら、おそらく検察官は原口さんに対する有罪立証はできなかった」

「冤罪は避けられない。だからこそ制度を」

大崎事件は、抗告制度が冤罪被害者の早期救済をいかに妨げてきたかを象徴する事件でもある、と根本さんは指摘する。

「大崎事件は第1次再審請求の際に地裁段階で再審開始決定されている。抗告の問題がいかに早期救済の妨げになっているかよく表れている事件だ」

そのうえで、制度のあり方についてこう訴えた。「冤罪というものはあってはならないが避けられないことがある。避けられないことを認識して正面から向き合い、それに即した制度を作らなければいけない」

大崎事件の発生から半世紀近くが経とうとしている。原口アヤ子さんは今年6月、99歳の誕生日を迎える。国会審議の行方が、彼女の人生最晩年に直接影響を及ぼす可能性がある。再審制度がどう変わるか——その答えは今、国会の手に委ねられている。

鹿児島テレビ
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