99歳を目前にした原口アヤ子さんは、今もなお無実を訴え続けている。「本当に時間がないんです」――鹿児島市で開かれた集会で、弁護団の鴨志田祐美共同代表はそう語った。刑事裁判のやり直しを求める再審制度をめぐる法改正の議論が大詰めを迎える今、45年以上にわたって無実を訴え続ける一人の女性の命と、制度改革の行方が交差しようとしている。
「3度も再審開始が認められながら」――大崎事件とは何か
1979年、鹿児島県大崎町の牛小屋の堆肥の中から、中村邦夫さんの遺体が発見された。いわゆる「大崎事件」である。中村さんの義理の姉にあたる原口アヤ子さんが、殺人と死体遺棄の罪で有罪判決を受け、10年間服役した。
しかし原口さんは一貫して無実を主張してきた。これまでに5回、裁判のやり直し=再審を求めてきたことが、その訴えの根強さを物語っている。

特筆すべきは、過去の再審請求において、実に3度も「再審開始決定」が裁判所から下されてきたという事実だ。第1次再審請求では地裁が、第3次では地裁と高裁がそれぞれ再審開始を認めた。にもかかわらず、いずれの決定も検察による不服申し立て=「抗告」によって上級審で覆されてきた。

鴨志田共同代表は5月3日、鹿児島市で開かれた「憲法記念日市民のつどい」でこう述べた。
「最初の再審開始決定が2002年。今から24年前。こんな話があっていいのか、3度も再審開始が認められながら、いまだにやり直しの裁判すら開かれない」
「正念場」――法改正をめぐる攻防
この事件が象徴するように、再審制度における最大の問題のひとつが、検察官による「抗告」の存在だ。裁判所が再審開始を認めても、検察が抗告することで手続きが止まり、再審が実現しないケースが繰り返されてきた。
こうした現状を受け、現在、刑事訴訟法の改正に向けた議論が政府と自民党の間で急ピッチで進んでいる。焦点は、再審開始決定に対する検察の抗告を「制限」にとどめるのか、それとも「全面禁止」とするのか、という点だ。
政府は「制限」案を提示している一方、自民党内では「全面禁止」を求める議員との対立が続いている。
鴨志田弁護士は、この局面を「冤罪被害者を救える再審法の改正ができるかどうかの正念場」と位置づけている。抗告の全面禁止が実現しなければ、再審の扉は何度も何度も閉じられ続ける――その危機感が、弁護団の訴えに切実さをにじませている。
99歳、迫りくる時間の壁
議論に輪をかけて緊迫感を高めているのが、原口アヤ子さんの年齢だ。
「原口アヤ子さんは6月15日で99歳になる。本当に時間がないんです」

鴨志田共同代表は集会でそう訴えた。「早く検察官の抗告をなしにして、証拠が出てくるような再審制度にしなければ、生きているうちに再審無罪を勝ち取れなくなる」という言葉には、法制度への批判だけでなく、一人の人間の尊厳と時間に対する深い憂慮がある。
1979年の事件発生から、すでに半世紀近くが経とうとしている。10年間服役し、長い年月を「無実だ」と訴え続けてきた原口さんにとって、制度改革の遅れは単なる手続き上の問題ではなく、残された人生そのものに関わる問題だ。
5月7日、再修正案の行方
法案提出の事実上の期限が迫る中、政府は5月7日に開かれる自民党の会議で再修正案を示す見通しだ。抗告の「制限」か「全面禁止」か——その結論が、大崎事件をはじめとする多くの冤罪被害者の行方を左右する。
鴨志田弁護士が「正念場」と表現したこの局面で、立法府がどのような判断を下すのか。現在5回目の再審請求中という大崎事件の行方とともに、法改正の動向から目が離せない。
(動画で見る▶大崎事件弁護団「冤罪救う正念場」 再審制度の見直し議論大詰め)
