保育園の給食時間。子どもたちが楽しみにしているその時間に、富山では小さな弁当箱がテーブルに並ぶ。おかずは園から出るのに、ごはんやパンだけは家から持ってくる。この「主食持参」という慣習が、全国で最も高い割合で残っているのが富山県だ。なぜ富山に、この文化が根強く残り続けているのか。その背景には、戦後から続く制度的な経緯と、富山ならではの地域事情があった。

「全国で最も高い」主食持参率

民間の調査によると、公立の保育施設で主食を持参させている自治体の割合は、富山県が平均を大きく上回り、全国で最も高い。県内の公立保育施設を見ると、氷見市、舟橋村、朝日町を除く12の市と町で、3歳以上の園児は主食を持参するきまりとなっている。



氷見市の公立の保育施設では、先生がジャーから炊きたてのごはんをよそい、園児たちに提供している。一方、富山市の公立の保育所では、ごはんは弁当箱に入って家から持参される。中にはパンを持ってくる子もおり、弁当箱はお昼まで別の部屋で温度管理されている。おかずは同じように園から出るのに、ごはんやパンだけは各家庭任せ―。同じ県内でも、自治体によって、また、私立か公立かによっても対応はまちまちだ。


保護者の声は「面倒」から「健康的」まで様々

このルールに対して、保護者の受け止めはさまざまだ。
「毎日持ってくるのは面倒で、衛生面も夏場は不安」「水曜日だけ持ってこなくていい日があって、忘れるときもある」という負担感を訴える声がある一方、「朝、子どものために炊きたてのご飯を入れるのでパン食からごはん食に変わった。健康的でいい」「実家がお米を作っているので、それで食費が賄われてありがたい」と肯定的に捉える声も聞かれる。
「自分も保育園の頃は持って行ったので、そんなものかと思っていたが、炊きたてのごはんを食べられたらいい」という声は、この慣習が世代を超えて続いていることを示している。
富山市内の私立認定こども園の園長は「給食でごはんを炊いている園は増えていると感じる。正直に言うと保護者からも"ごはんを用意してほしい"という要望は聞こえてくる」と明かす。現場でも変化への意識は生まれつつある。
始まりは戦後 制度と時代の産物

この慣習の起源は戦後にさかのぼる。十分な給食体制が整わない中、主食を家庭から持っていく形が広がった。白梅学園大学子ども学部の井原哲人准教授は次のように説明する。

「戦後の保育所制度ができたときに給食が始まった。当時はそもそも保育所の給食室が十分機能できるような環境ではなかったか、あるいは食材が確保できるような時代状況ではなかった背景がある」

その後、制度が変化しても、3歳未満は主食・副食ともに公的支援、3歳以上は副食のみ支援という仕組みが長く続いた。主食への国の補助がない中、「持参してもらう」か「費用を徴収して園で提供する」かの選択となり、多くの自治体が「持参」を選んだ。

高度経済成長期に大都市圏ではおかずもごはんも提供する「完全給食」化が進んだが、富山では主食持参が根強く残り続けた。
米どころ・3世代同居が支えた背景
なぜ富山でこの慣習が維持されてきたのか。井原准教授は「おそらく農産物・第一次産業が強い地域であれば持参しやすい過去があったのだろう。育児を地域で支えられる力もあったのだろう」と指摘する。


富山は米どころとして知られ、3世代同居が多い地域でもある。実家でお米を作っている家庭にとっては、主食を持参することは経済的にもむしろ好都合だったのだ。地域コミュニティの中で子育てを支え合う文化が、この慣習を長く下支えしてきたと考えられる。
自治体によって異なる対応

県内の現状を整理すると、公立保育施設で主食を提供しているのは舟橋村、朝日町、氷見市のみだ。氷見市では10年以上前からJAが保育施設に主食を提供し、朝日町は昨年度から完全給食を実施し、その費用も町が全額負担している。富山市や砺波市は認定こども園で費用を徴収して主食を提供。魚津市では私立も含めてすべて持参となっており、対応は自治体や公立・私立の違いによって異なる。
富山市では2年前に保護者へのアンケートを実施した結果、「主食の提供を希望しない」と答えた人が3割に達したため提供を見送った。さらに、物価高騰により今年度から副食費を値上げしたこともあり、保護者にさらなる負担を求める検討はしなかったという。
「簡単にはいかない」専門家の見方
食育や栄養価を考えれば、主食を保育施設で提供できるのが望ましい。しかし井原准教授は「そう簡単にもいかない」と現実的な問題点を挙げる。
「保育園の環境整備を含め、考えなければならない。国の税金が入らない中で自治体負担でとなると、他の福祉政策含め、お金の配分をどうするか。高齢化率が高い地域では高齢者を含めた予算配分も考えていかなければならない。"他の地域がやっているから"自動的に行くかというと、そう簡単にもいかないだろう」

県としての対応については、新田知事が定例会見で「幼児保育の主食の持参については、県として入っていくことでは今のところないと思う」との考えを示した。基本的には市町村が対応する問題であるという立場だ。一方、低所得世帯やひとり親世帯への助成については県として取り組んできたとも述べている。
「子どもの視点に立って」見直しを

毎朝、子どもの弁当箱に詰められるごはん。共働き家庭が多い富山県では施設での主食提供を求める声が一定数ある。同時に、費用負担の増加を懸念してあくまで持参を望む声も存在する。
保護者の意見は一様ではなく、地域の財政事情もある。それでも、この慣習が戦後の食糧難を背景に生まれ、時代が変わった今も続いていることを考えれば、改めて子どもの視点に立った検討が求められる段階に来ているのではないだろうか。
(富山テレビ放送)
