頭の回転が早く適切な判断ができ肝も据わっている。不測の事態が起きても、テキパキと動いてくれるから現場では頼りになる。また、この病院は華族や高級官僚などの上流階級の患者が多く、彼らは看護の担当者にも、それなりの家柄の者を求めてくることが多かった。
家老の娘という出自をもつ看護婦がいれば、そんな時にもなにかと助かる。手放したくない人材だったようである。研修を終えた後、和は外科看病婦取締という役職を与えられ、引き続き第一病院で働くことになった。雅もまた看病婦取締に就任して働くことになった。
看病婦取締は、現在でいうところの看護師長に相当する役職。日給制の看病婦とは違って、薬剤師と同じ正規病院職員の扱いで、月給制の安定した雇用が保証されている。
帝国大学医学部もトレインド・ナース=看護婦の価値を認めて、それに見合う立場と待遇を与えたということだ。しかし、当時の医学界はまだ看護婦への偏見が強い。医師たちは看護婦を対等の相手とは見ておらず、納得できないことに堂々と意見してくる和に対する風当たりも強さを増してくる。
前途はまだまだ多難だった…。看護婦は雑役婦や小間使いではなく、医療の知識と技術を持つ専門職。と、その認識が世に浸透し、世の女性たちが憧れる人気職種になるまでには、まだしばらく時間がかかる。
青山 誠(あおやま・まこと)
作家。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。近著に、『大関和 看護に人生を捧げた日本のナイチンゲール』『小泉八雲とその妻セツ 古き良き「日本の面影」を世界に届けた夫婦の物語』(ともにKADOKAWA)。
