国の交付金による物価高対策が、全国の自治体で行われている。兵庫県は電子マネー「はばタンPay+」を活用したプレミアム付きデジタル商品券事業を展開。対象は県民のみのはずだったが、県民以外も申し込めてしまうことが判明した。

制度を厳格にすればするほど支給に時間がかかるのだろうが、他の自治体はどう対処しているのか。調べてみると、兵庫県は他の自治体と制度の実施計画に違いがあることが見えてきた。

■2万円入金で3万円分!大人気の陰で 

今回で第5弾となる兵庫県の「はばタンPay+」。1口5000円で上限は4口。プレミアム率は50%で、最高額2万円をチャージすれば、県内の加盟店で3万円分が使える。過去最多となる約118万人が申し込む人気ぶりで、当初は予算額を超えたら1人当たりの口数を制限する予定だったが、兵庫県は急きょ全員に希望通り支給することにした。

財源は国の「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」である。予算を約26億円超過したため、一旦「他の予算から流用」した後、6月に開く県議会で補正予算を組むという。


ところが、申し込みの方法に異論が出た。アプリ上で兵庫県内の住所を入力し、「規約に同意」などの欄にチェックマークを入れればよく、本人確認書類の添付は一切求められない。兵庫県民限定の制度なのに、「県内の住所っぽいものを入力すれば、県民以外も申し込める」仕組みになっていたのだ。

電話番号だけは、折り返しショートメールを送る「SMS認証」があるため、実在する番号が必要だ。逆に言えば、実在する電話番号が大量にあれば、氏名も住所も確認されないので、1人で大量に申し込めてしまう。

■斎藤知事「チェック項目で『県民だ』と自らチェックしていただく」

「はばタンPay+」は斎藤元彦知事肝いりの施策だ。県民以外が申し込むと、それは国が兵庫県に渡したはずの交付金が兵庫県民以外に流れることを意味する。筆者は4月22日の定例記者会見で、制度設計に問題がないのか尋ねてみた。

【斎藤知事】「県民・在住者を対象としていることと、それをチェック項目で『県民だ』と自らチェックしていただく。そして虚偽申請が発覚した場合には無効とすると、申し込み段階においてチェックさせていただいている」

【筆者】「不正はどうやったら見つかるのか」

【斎藤知事】「県内に住んでおられると申し込みの段階でチェック項目にしている。虚偽が見つかれば停止すると、はっきりやらせていただいている。利用者の皆さまが適切に利用されることが原則なので、我々としてはこれまでの対応で問題ないと思っている」

この「チェック」とは、県側が審査して確認することではない。申し込み者が「規約に同意」などの欄にチェックマークを入れることである。これで「県民であると担保される」のだという。


■記者の質問に「イレギュラーなご指摘」

斎藤知事を支持する会派「躍動の会」の増山誠県議は、自身のYouTube動画で、こんな主張を展開している。

【増山県議】「スピード感も非常に大事。本人確認書類を提出いただく認証をさせると非常に手間がかかって遅くなってしまう。そもそも県外の方が少しの割合申し込んだころで、県内で消費をしてくれれば一定程度、兵庫県の活性化にもつながる」

こうした考え方は確かにあり得る。筆者は増山県議の動画が公開される前、斎藤知事に「迅速に支給するために本人確認を省く考え方なのか」と質問している。すると知事は「申し込み者が県民限定と担保している」と、即座に否定した。

重ねて筆者が「兵庫県内のお店にお金は返ってくるので、県民以外の利用も容認する考え方か」と問うと、斎藤知事は「イレギュラーなご指摘」と切り捨てた。あくまで「申し込み者は県民である」という考え方に立っていたので、増山県議の説は“的外れ”だったようだ。


■迅速給付のため…本人確認“省略”説 

増山県議は動画の中で、「他の全国の数多くの自治体が、SMS認証をもって本人認証に代える仕組みを広く採用している」と述べていた。果たして本当なのか。

筆者は、全国の47都道府県と20政令指定都市を対象に調査したところ、以下のような結果が出た。

47都道府県中プレミアム付き商品券を実施…5道県
うち、本人確認なし住所自己申告…2県(秋田県・兵庫県)

20政令市中プレミアム付き商品券を実施…10市
うち、本人確認なし住所自己申告…2市(静岡市・福岡市)

膨大な数のため他の市町村の調査は行っていないが、割合をみると決して「広く採用」とは言えないことが分かる。このうち静岡市の場合、次回は本人確認を行うという。

■本人確認しない自治体は?全国調査 

秋田県と福岡市に取材すると、兵庫県との大きな違いが見えてきた。

秋田県の担当者は、「性善説に基づいている」と明言し、「手続きが煩雑だと消費が冷える、との考え方だ」と話してくれた。秋田県では、スマートフォンに慣れていない人のために「紙の商品券」も発行していて、こちらは受け取り時に本人確認を行っているという。

福岡市の担当者は、「主眼は市内の中小企業にお金が落ちること」と話す。「予算をかけて不正がないか調べることはしない」と説明する。そもそも福岡市の場合、発行元は地元の商工会議所と商工会で、市はそれを支援する形であった。


■リスクは承知の上…費用対効果を検討 

国から交付金を受け取るため、各自治体は国に「実施計画」を提出している。これを見ると、事業の目的や対象が明確に分かる。

秋田県の実施計画によると、事業の目的は「県民の生活支援につなげるとともに、県内の飲食・小売業などでの消費拡大を図る」ことだそうだ。対象は「県内飲食・小売業等」としている。

福岡市の実施計画によると、事業の目的は「福岡商工会議所が実施する商店街プレミアム付商品券事業を支援する」としている。対象は「商工会、商工会議所」であった。

兵庫県はどうか。実施計画を見ると、事業の目的は「県民の家計応援のため」と記載している。対象は「県民」とだけ書かれていた。ここが秋田県と福岡市との大きな違いだ。

つまり、秋田県と福岡市は「事業者」を支援対象とする一方、兵庫県は「県民」を支援対象としている。秋田県と福岡市は、仮に県民・市民以外がプレミアム商品券を得たとしても、使った先の商店が支援できれば目的達成なので、大きな問題にならないのだ。

なお、今回まで本人確認を不要とした静岡市も支援の対象を「市民」としている。

■兵庫県は違う?国に提出した「実施計画」 

兵庫県の「はばタンPay+」は、これからも今の仕組みを継続するのか。4月28日の会見で斎藤知事に聞いた。

【斎藤知事】「基本的には現行の運用が適切だと考えているが、実施した状況をしっかり分析して、次なる取り組みにつなげていきたい」

「他の自治体の取り組みもしっかり見させていただく。ただ、現行の制度における利用者にとっての利便性、スーパーなどで買い物をするときのアプリの立ち上げの速さとか、高齢者の方の利用登録の仕方も大事なポイントだと思うので、しっかり踏まえながら、次なる取り組みに生かしていきたい」


■謙虚に学ぶ姿勢 必要では

プレミアム付きデジタル商品券事業は、国に納められた税金を県に分けてもらう交付金事業である。誰が得をしているのか不透明なまま事業を推し進めれば、兵庫県民だけでなく国民全体が迷惑を被る。制度設計に不備があるなら、他の自治体から謙虚に学ぶ姿勢が必要ではないだろうか。

(関西テレビ神戸支局長 鈴木祐輔)

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