光や人の視線などの刺激でストレスや不安を感じた時に落ち着きを取り戻すための空間「カームダウンスペース」が広がりを見せている。現状を取材した。
◆大きな音や人のざわつく声・視線に敏感な「感覚過敏」を抱えて生きるアーティストの声
騒がしい場所や人が多いところにいると気分が悪くなるなど五感が過敏で日常生活に影響が出る感覚過敏。岡山市北区の就労継続支援A型事業所、ありがとうファームでアーティストとして、遊び心あふれるアートを手掛けるKAITOさんもその一人だ。
KAITOさんは、大きな音や、ざわざわと色々な人の声が重なるのが得意でないだけでなく、色々な人の視線に敏感になる時もあるという。
◆天井は水玉模様…。光や視線などでパニックになるのを防ぐための空間「カームダウンスペース」とは
こうした声を受けて3年前、光や人の視線などの刺激から逃れパニックになるのを防ぐための空間「カームダウンスペース」が開発された。

その特徴は「すべてを遮断しないこと」だ。
「カームダウンスペース」の中に入ってみると、天井は水玉模様のように穴が空いている。ただ、中は真っ暗ではなく程よい明るさが保たれていて、周囲の気配を感じられるようにほどよく光が入るようになっている。
また、長さを調整できるロールスクリーンに加えて、足元に30センチの隙間を設けることで、中の様子を確認できる工夫が施されている。

また入口は車いすも使用できる幅を確保し、壁には衣服などを再利用した素材を100%使用。環境にも優しく、ぶつかっても痛くない柔軟性も持たせている。
◆総社市の企業が「カームダウンスペース」を開発 トップが語る商品へのこだわりとは

「カームダウンスペース」を開発したのは総社市のメーカー、オーエム機器。小野雅明社長は「どこにでも置けるサイズ感で、材料にもこだわって作った」と語る。外の壁には、ありがとうファームに所属するアーティストがデザインしたアートが施されている。
小野社長は「デザイン的にも良いものになった。こういう人がいるというのを色々な場所で知ってもらうきっかけにもなっている」と、KAITOさんのような「感覚過敏」を持つ人の存在の周知にもつなげている。
デザインや機能に限らず、空港に置くなら飛行機をモチーフにしたものを(カームダウンスペースに)いれてほしいとコミュニケーションをとって製作するなど、置く場所に合わせてアーティストにデザインを依頼することもあるという。
◆適度な明るさと静けさ…体験者からは喜びの声 ”社会からも出てきてもいいんだよと認められた”
開発後、大勢の人が集まる岡山市内の商業施設で実証実験が行われた。KAITOさんも実際にカームダウンスペースを体験した。
中に入ってみたところ「ちょうどいい明るさと仕切りによる安心感と、アナウンスの声も聞こえるが、ざわざわ感は落ち着いていたので、ほどよい静けさ」の2つのポイントに感動。以前ならお手洗いに入って、5分10分一息ついて出てきたりとういう落ち着き方をしていたというKAITOさんにとって、この体験は「社会からも出てきてもいいんだよ」と認められたようなうれしさがあったという。
◆岡山・高松空港など国内18の空港に設置 大阪・関西万博にも

感覚過敏の啓発などを行う東京の感覚過敏研究所によると、カームダウンスペースは3月の時点で国内18の空港に設置されている。オーエム機器が開発した設備も岡山空港や大学など6ヵ所に設置され、2025年の大阪・関西万博でも活用された。
◆ファジアーノ岡山ホーム戦でも試験設置 発達障害がある子供たち4人が「J1」初観戦
広がりはこんなところにも。
サッカーJ1・ファジアーノ岡山の3月のホーム戦、スタジアムの4階に発達障害などがある子供でも安心して観戦できるようにカームダウンスペースを備えた専用のスペースが試験的に設けられた。
この日は、発達障害がある子供たち4人が初めての観戦を楽しんだ。
旭川荘旭川学園・寺町清二園長はこの取り組みに「観戦に来る最初の一歩かなと思っていてありがたい。障害あるなしに関わらず、スタジアムに来たいと思えるのでは」と期待感を示す。

◆感覚過敏でも“チャント”落ち着ける観客席 ファジアーノ担当者「利用してもらう機会を増やしたい」と設置検討へ

ファジアーノ岡山の森岡祐平さんも「子供たちの観戦している様子を見ると、こういうものがあることによって安心して見てもらえる。色々な人に知ってもらい、利用してもらう機会を増やしたい」と、今回の導入を踏まえて本格的な設置を検討したいとしている。
◆カームダウンスペース開発前と比べ考え方にも変化が…開発企業の“社会課題解決”への思い
カームダウンスペースを通して多くの人の声に耳を傾けてきた小野社長は「多様性という言葉は、よく聞くありふれた感じに今はなっているが、実際に現実社会に実装される時にどういうものが必要になるか、具体的な解決策を深掘りして考えることが習慣化している。身近な課題に携わる社会の一員として、一企業としてやっていくことがもっとあるのではないか」と、開発前に比べ考え方に変化があったという。
特に人が集まるイベントや施設の運営をしている人に知ってもらいたい「カームダウンスペース」。誰もが安心して過ごせる環境のこれからの広がりに注目だ。