バスケットボールB1・秋田ノーザンハピネッツの前ヘッドコーチ(HC)・前田顕蔵さんが、台湾の女子代表のHCに就任する。ハピネッツとの契約解除後も「秋田に恩返しがしたい」と語り、子育て支援や寄付活動に取り組んできた前田さんは、4人の子供を育てる父でもある。台湾出発を前にした秋田での最後の時間には、指導者として、そして父親としての等身大の姿があった。
「秋田に恩返しがしたい」寄付に込めた思い
4月6日、秋田県庁で寄付金の寄託式が行われた。
寄付を行ったのは、秋田ノーザンハピネッツ前HCの前田顕蔵さんだ。自身と家族を支えてくれた秋田への感謝、そして子育て世帯を応援したいという思いからの行動である。
前田さんは2025年12月にハピネッツのHCを退任した。
自身の経験を多くの人に伝えたいと、2026年2月からオンラインセミナーを3回実施。全国から延べ2154人が参加し、その収益など計137万2900円を、県内の児童養護施設など6施設に寄付した。
「バスケットボールを離れたら、より大きなものになって返ってきたイメージ」と語る前田さんは、まさかここまでの形になるとは思っていなかったと率直な気持ちを口にした。
ハピネッツで10年余 次の舞台は台湾
前田さんは2015年に秋田ノーザンハピネッツのアシスタントコーチに就任した。
2019年にはHCに就任し、「日本一激しいディフェンス」をチームのスローガンに掲げた。
強度の高いディフェンスはチームの代名詞となり、2022年にはクラブ史上初となるチャンピオンシップ進出を果たした。
一方で、今シーズンは持ち味のディフェンスを十分に発揮できず、苦しい戦いが続いた。
10年余りにわたりハピネッツに携わり、HCとしてはクラブ最長の在任期間を記録した前田さんにとって、退任は決して軽い決断ではなかった。
そんな前田さんの次の挑戦の舞台は海外だ。
4月4日、バスケットボール女子台湾代表のHC就任が決まった。新たな環境でのチャレンジである。
慌ただしい毎日と料理という癒やし
プロバスケットボールコーチである前田さんは、同時に男手一つで4人の子供を育てる父でもある。
県庁での会見を終えた後も、休む暇はない。子供の上履きを買いに行き、夕食の材料を調達し、迎えや買い出しを一度で済ませる日常がある。
自宅に戻ると、まず手をつけるのは朝食の片づけだ。そして、スーパーと精肉店で買った牛バラ肉から献立を考え、この日はプルコギを作ることに決めた。
「作ったことのないものを作るようにしている」と話す前田さん。料理は前田さんにとって、経験を積む場であり、気分転換の時間でもある。集中できることが、忙しい日々の中での癒やしになっているという。
部屋の片隅には引っ越し用の段ボール箱が積まれている。16日に秋田を離れ、家族全員で台湾へ移住する予定だ。
「あっという間に一日が終わる」と、準備がなかなか進まない焦りも隠さず口にした。
秋田を離れる決断と揺れる心情
秋田を離れることへの寂しさは大きい。「こんなに早く離れるなら家は買わなかった。本当はもっと居たかった」と率直な思いを語りながらも、前田さんは「自分のことだけを優先してはいけない」と言い切る。
2022年に妻を病気で亡くしてからは、周囲の協力を得ながら子育てしてきたという前田さん。育児の大変さを日々実感しているからこそ、子育て支援に関わりたいという気持ちが行動につながった。
指導者としてだけでなく、一人の父としての経験が、前田さんの価値観を形づくっている。
子供たちの言葉が支えになる
秋田で多くの時間を過ごしてきた子供たちは、父の一番の応援団だ。
次男は「寂しさより楽しみが勝っている」と話し、長男は「秋田を離れることは悲しいけれど、父が仕事をするためには台湾に行かなければならない」と家族を思う言葉を口にした。
その姿を見た前田さんは「大人になったと思った」と語り、子供たちへの感謝をにじませた。
秋田の血を胸に 再び帰る日を信じて
4月11日、秋田市のCNAアリーナ★あきたで行われたハピネッツのホーム戦前。前田さんはブースターを前に、台湾女子代表HC就任を報告した。
「僕は秋田が好き。11年ここで生活し、バスケットボール以上のものをたくさんもらった」
感謝の言葉とともに、「僕には秋田の血が流れている。またオファーをもらえるように、まずはアジアで頑張ってくる」と力強く語った。
11年過ごした秋田をあとにし、前田顕蔵さんは新たなステージへ向かう。
その背中には、秋田で積み重ねた時間と、家族への深い思いが確かに刻まれている。
(秋田テレビ)
