鹿児島といえば黒毛和牛のイメージが強いが、実は県内各地で乳牛が育てられ、酪農も盛んに営まれている。そして、普段何気なく飲んでいる牛乳に「旬」があることをご存じだろうか。今まさにその最盛期を迎えている中、鹿屋市では最先端の搾乳ロボットを導入し、酪農の常識を塗り替えようとしている農場がある。一方で、離農者の増加やコストの高騰など、業界が抱える課題も深刻だ。変化の最前線を歩くと、持続可能な酪農の形が見えてきた。

「知らなかった」牛乳の旬は、今

街で牛乳について尋ねると、「毎日朝から飲んでいます」(60代)、「カルシウムを取ってもらうために、中学生の男の子と小学生の成長期に飲ませています」(40代)など、牛乳が多くの家庭の食卓に根付いていることがわかる。しかし「牛乳に旬があると知っていましたか?」と聞くと、「えっ!?知らなかったです」「知らない、知らない」という反応がほとんどだった。

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県酪農業協同組合のデータによると、3月から5月にかけて、牛乳の原料となる生乳の生産量が最も多くなる。つまりこの時期こそが、牛乳の"旬"と呼べる最盛期なのだ。毎日何気なく口にしている牛乳にも、農産物と同じように季節の波があった。

たった4人で140頭を管理する農場

鹿屋市串良町にある「Tabata Milk Land」。代表の田畑健志さんは、2022年に両親の酪農経営を引き継ぎ法人化した。現在は妻・母・パート1人の計4人という少人数で、乳牛約140頭を管理している。

農場を訪れると、まずその光景に驚いた。一頭一頭繋がれて飼育されているとと思ったが、こちらの牛舎では繋がれていなかった。

田畑さんはその仕組みをこう説明する。「こちらの牛舎は"フリーストール牛舎"という形態を採用していて、牛がベッドに寝たり、自由に餌を食べたり、自由に水を飲んだり、自分で搾乳に行ったりというのが自由にできるような仕様になっている」。

牛にとっても、働く人間にとっても、無理のない環境を整えることが、Tabata Milk Landの根幹にある考え方だ。

搾乳ロボットが変えた「時間」と「量」

4人での運営を可能にしているのが、農場に導入された「自動搾乳ロボット」だ。「乳頭洗浄から搾乳。いい牛乳はタンクへ。そうでない牛乳は廃棄でというように分離ができる」と田畑さんは語る。

これまで搾乳は朝と夕の1日2回、人の手で行う作業だった。それがロボットの導入によって24時間いつでも自動で実施されるようになり、作業時間は6分の1にまで短縮。1日あたりの搾乳回数も平均2.8回に増え、1頭あたりの搾乳量は1日約6リットル増加した。

取材では、牛が自らロボットのケージに入っていく様子も確認できた。搾乳中は餌が提供され、牛は夢中で食べながら搾乳を受ける。終われば自分でケージを出ていく。その一連の流れは完全に自動化されている。

さらにこのロボットは、搾乳した牛乳の成分を自動で分析し、「潜在性乳房炎」の早期発見にも役立てられている。牛の行動データから発情のタイミングを把握することも可能で、健康管理や繁殖管理の精度も向上した。

作業負担が劇的に減った結果、田畑さんにはこんな変化も生まれた。「今はもう8時半、9時半にはロボットの牛舎の方が作業が終わるので、それから時間を合わせてどこかに遊びに行くのは可能になった」。かつては朝夕の搾乳に縛られていた生活が、大きく変わった瞬間だ。

田畑さんがロボット導入を決断した背景には、長期的な視点があった。「これから先、30年・40年この仕事に携わっていく中で、人も牛も無理のない経営スタイルというので、長い目を見て搾乳ロボットという選択肢があった」。

5000戸が124戸へ 深刻な離農の現実

しかし、鹿児島の酪農を取り巻く現状は、明るい話ばかりではない。エサ代や燃料費の高騰、高齢化による離農者の増加が続き、かつて5000戸を超えていた県内の酪農家の数は年々減少し、現在は124戸にまで落ち込んでいる。最盛期から実に97%以上が失われた計算になる。

経営を維持・拡大するためには規模の大型化が求められるが、少人数での運営を可能にするには労働負担の軽減が不可欠だ。そのための有力な手段が、Tabata Milk Landが導入した搾乳ロボットであることは間違いない。

「相当な借金をした」 導入の壁は2000万円超

ただし、搾乳ロボットの導入は容易ではない。1台あたりの費用は2000万円以上にのぼる。さらに、ロボットに対応した牛舎への建て替えや改修が必要となるケースも多く、多額の初期投資を覚悟しなければならない。

田畑さん自身も率直にこう語る。「もう相当な借金をした。30年、40年先を見据えてやるんだったら僕は大賛成。もうちょっと短いスパンだったりとかしたら、支払いの面とかも色々考えたりするので、もうちょっと考えた方がいい」。

長期的な投資として割り切れるかどうか、それぞれの農場の規模や経営状況によって判断は異なる。こうした高いハードルもあり、県内での自動搾乳ロボットの導入率はいまだ1割にも満たない。

「持続可能な酪農」へ、現場の覚悟

搾乳ロボットはあくまで一つの選択肢であり、万能な解決策ではない。しかしTabata Milk Landの取り組みは、少人数でも質の高い牛乳を安定して供給し続けるための、一つの現実的なモデルを示している。

離農が続く中、酪農を次世代に伝えていくためには、テクノロジーの活用と同時に、資金面での支援や業界全体の構造的な変革も求められる。

鹿屋市の農場では、今日もロボットが静かに稼働し、牛たちが自らケージへと歩いていく。その光景の先に、毎朝の食卓に届く一杯の牛乳がある。旬の今、その一杯の背景に思いを馳せてみてはどうだろうか。

【動画で見る▶鹿児島の酪農が直面する現実と働き方改革 「自動搾乳ロボット」導入と少人数経営 】

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