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言うまでもないことだが、街並みは建物が作っている。新たな建築物を作る時、その街並みに対するリスペクトがなければいけないと、住友林業の設計士 河村賢は考えている。


河村の設計したその建物、フレンチレストラン「L’inflexion(ランフレクション)」は、軽井沢の景勝地・雲場池にほど近い旧軽井沢の別荘地にある。旧中山道を六本辻に抜ける道沿いに、周囲の環境と違和感なくたたずんでいる。空に突き出すような三角の小屋組が印象的なデザインは、建築好きならすぐに、軽井沢聖パウロカトリック教会の三角屋根へのオマージュだと気づくはずだ。アントニン・レーモンドが設計した、歴史的な教会建築だ。


三角屋根が印象的なレストラン「L’inflexion」。豊かな植栽の奥に美しくたたずんでいる。


軽井沢の街並みはそんな歴史を紡ぐ人たちの営みによって形作られている。明治の頃キリスト教宣教師やその家族たちの避暑地として切り拓かれ、その後日本人の別荘も建ち、今のような街並みとなった。軽井沢の新参者としての建物に、河村がその歴史への思いを反映させたことは、三角屋根がすでに語っていた。


この建物の設計・施工を手掛けたのは住友林業で、河村はその建築デザイン部に所属している。住宅メーカーのイメージが強い住友林業が軽井沢でレストランの設計・建築を手掛けていることに、意外性を感じる人も少なくないだろう。同社でもまれであるレストランの設計プロジェクトを担当したのは、河村ともう1人、インテリアコーディネーターのマルイユ英里。住宅設計を主軸にしてきたこれまでのキャリアの中で、2人にとって初めて本格的に向き合うレストラン建築だった。


 “レストラン建築”という挑戦

住友林業は戸建注文住宅事業において年間8,000棟近くの着工をしている。その内の数%程度にあたる高額物件を中心に担当しているのが、2人が所属する建築デザイン部である。とある別荘を建築するにあたり、施主がオーナーを務めるレストランの話が持ち上がり、プレゼンテーションに参加。河村の案が採用されることとなった。


このプロジェクトは、単に「店舗をつくる」という話から始まったわけではない。軽井沢という土地にふさわしい建築とは何か。料理やサービスの魅力を、どのような空間で伝えるべきか。施主やレストラン関係者との対話を重ねながら、建築の方向性はその輪郭を濃くしていった。


メインダイニング。軽井沢の歴史的な教会群にインスパイアされた、優雅でモダンな小屋組。テーブルの間隔や中央のカウンターはスタッフ、お客様の動線を考え綿密に計算されている。


住友林業株式会社 住宅事業本部 建築デザイン部 設計グループ 河村 賢


建築計画にあたりまず立ち返ったのは、軽井沢という土地が持つ成り立ちだった。

「軽井沢はもともと浅間山の溶岩地で、現在の豊かな森は、かつてこの地に暮らした人々が長い時間をかけて行ってきた植林活動によって育まれてきたものです。自然の中に建つ建物である以前に、人の営みの積み重ねの上にある場所だという認識を持つことが出発点でした」と河村は言う。


軽井沢は明治の頃から欧米の人々の避暑地として開発され、人々が交流する場として教会堂が多く建てられてきた土地でもある。

「教会堂は祈りの場であると同時に、人が集い、語らうサロンのような存在でもありました。この歴史や土地の空気感を踏まえ、木造の教会建築に倣うのが素直ではないか、という考えに至りました」(河村)


人が集い、食を分かち合い、生命をいただく。その行為は、どこか祈りにも通じる時間ではないか。そんな問いが、建物のたたずまいや空間の在り方に反映されていった。


信州の旬の食材や伝統的な食材をフレンチの技法で調理し、地域の魅力を存分に表現した美しいフランス料理を楽しめる。


軽井沢の風土を料理、サービス、空間とで楽しめる。ランチ・ディナーともにコースのみ。ディナーではワインのペアリングの用意も。


“前に出ない設計”という選択

住宅は、人が日常を重ねていくための器である。一方、レストランは限られた時間の中で、記憶に残る体験を提供する場所だ。空間、料理、サービスが同時に立ち上がり、初めて1つの価値として成立する。住宅設計とは異なる視点と思考が必要だったという。


「構造躯体をいかに美しく見せるかを考えました。余計なものを削ぎ落として構造躯体がそのままインテリア空間になるようなイメージです。内装がミニマムであればあるほど建築は前に出過ぎることなく、庭とのつながりも際立ち、お客様が軽井沢の自然に抱かれながらお食事できるのではないかと考えました」(河村)


建築そのものが語り過ぎるのではなく、料理やサービスが自然に引き立つ状態をつくる。そのためには、あえて抑制する設計が必要だった。


「軽井沢らしい自然」を追求した庭。レストランを取り囲む植栽は、実際に軽井沢の地に生息する植物を取り入れている。


気持ちのいい季節になると、庭を望める大きなテラスは特等席になる。


インテリアを担当したマルイユも、削ぎ落としつつもレストランという非日常空間をどう演出するか、設計と同じ方向を向きながら考え続けた。


「河村のコンセプトにもあるように構造躯体をしっかり見せることを意識しました。それに加え、レストランの主役は料理と食事をする時間そのものです。料理が映えるように照明を当てつつも、お客様により添うような配灯を考えました」(マルイユ)


家具や照明、素材の選定は空間の質を左右するが、足し算を重ねればよいわけではない。主役は建築ではなく、あくあまで食事をする体験そのもの。それらをいかに豊かにするか。その判断が難しくもあり、新たな学びにもなったという。


特に照明の調整は居心地の良し悪しに強い影響を与えるので慎重に吟味。「食事を楽しんでいただきながらお庭に自然と目線が映るようなライティングを意識しました」とマルイユ。


住友林業株式会社 住宅事業本部 建築デザイン部 インテリアコーディネーター マルイユ英里


2人が大切にしてきた、変わらない視点

河村が住友林業に入社した背景には、明確な思いがあった。前職ではS造やRC造といった大規模建築を数多く手がけてきたが、関われるのは建物全体ではなく、一部分に限られることが多かったという。


「窓に向かって座っていた子供の頃、電車から見える雑然とした街並みを見ては、美しく変えていきたい!そう強く思っていましたね」


「学生時代は住宅設計を軸に学び、木造建築の研究にも取り組んでいました。住宅は建築の原点だと思っています。ここをやっておかないとその先の建築が深まらないと感じていました」


2001年に住友林業に入社し2015年より現在の部署で設計を担当している。


マルイユがインテリアの仕事に向き合う姿勢にも、これまでの経験が色濃く反映されている。中学生時代に経験した自宅の大規模リフォームをきっかけに住まいづくりへの関心を持ち、インテリアに興味を持つようになったという。


「子どもながらに空間の心地よさが暮らしに大きく関わることを感じとっていたのかな、なんて思います」

「もともと、インテリアの雑誌や広告を見るのが好きでした。インテリアで印象が変わるのが純粋に面白かったんです」


一度は化学分野に進学したものの、住まいや空間への関心は消えなかった。住宅設備機器メーカーに事務職として就職しながら、夜間のインテリアコーディネーターの学校へ2年間通った。卒業旅行で訪れたパリでは、空間が人の感情や行動に与える影響を肌で感じたという。2010年に住友林業に入社し、2015年より現在の部署へ。


そして2025年、2人が取り組んだのがこのレストラン建築のプロジェクトだった。


“正解の物差し”がない中で

本プロジェクトでは、法規や社内基準との調整にも多くの時間を要した。品質を守りながら、店舗として求められる機能性や安全性を満たす。その両立は、前例の少ない中での判断の連続だった。


「住宅と店舗ではさまざまな法規の違いがありますが、作り上げたいイメージから離れないように行政や社内と折衝する必要がありました。図面を引いたらあとは作るだけ、ではなく着工から引渡しまでにも問題と調整が発生し、さまざまな条件の中で突破していかなければならないのが大変でした」と河村。


マルイユも判断基準に苦労したという。「誰もが心地よさを感じられるよう熟考したことが多々ありました。料理とサービスが最も美しくある状態を想像し続け、その想像と現実がしっかりマッチしたときに心の底から感動が湧きあがりました」


構造の見せ方、木造ならではの表現、周辺環境との関係性。そして未経験の高級フレンチレストランの建築。設計とインテリアは単なる意匠の話に止まらず、想像と現実の溝を丹念に埋めていく作業に費やされた。


主役であるテーブルに影を落とさず美しく光が当たるように、テーブルと照明の距離はミリ単位の調整を施して配灯している。


現場から届いた嬉しい手応え

さまざまな問題を突破しフレンチレストラン『L’inflexion』は完成した。実際にこの空間で働くシェフの柏木暢介さんと支配人の戸田健太郎さんの声を聞いた。


「お客様はただ食事をしに来るというより、特別な体験をしにいらっしゃいます。おいしさは料理だけの中にあるのではなく、人と空間と料理の関係性の中にあることをまざまざと感じています。料理、サービス、空間が互いに影響し合ってお客様の体験につながっている。その調和を乱さぬよう最高の食事を提供していきたいと、日々この空間から気合をいただいております」


L’inflexionのシェフ、柏木暢介さん。厨房は機能性や動線の良さが求められるため、シェフ自らイメージ図を書いた。


光の入り方、音の響き、動線の流れ。それらが料理提供のリズムと自然に調和し、料理そのものの印象を高めている。戸田支配人もここまで風土に溶け込んだレストランは見たことがないと驚いたという。


L’inflexionの支配人、戸田健太郎さん。「ダイニングに入る前に多くのお客様が足を止めて空間を見渡し、思わず息をのむような表情を浮かべ、感動を口にします。そういうタイミングがあるのもこのレストラン独自の経験なのかなと思います」


「洗練されつつも居心地の良い、この空間にふさわしい立ち居振る舞いや身のこなしとは何か?-お客様との接し方などを意識するようになりました」


主張を抑えた外観やたたずまいは、近隣住民にも好意的に受け止められ、地域との良好な関係づくりにもつながっているという。


この経験を、次の挑戦へ

初めての領域でのプロジェクトを終えた河村とマルイユ。完成した時の思いは並々ならぬものがあったという。


「どのプロジェクトもそうですが、生みの苦しみが大きいほど感動も大きい。本プロジェクトの完成時の感動はひとしおでした。また住宅と違い、レストランは公共的な建築なのでいつでも見に来ることができます。わが子の成長を見守るような気持ちでこれからも関わっていきたいと思います。私自身が一番気に入っているのは、内部の空間を外から感じられる三角屋根のガラス部分。暖かみのある木造の梁を通りから見上げた人が、中を覗いてみたくなると良いですね。」(河村)


三角の小屋組が外からも見えるように、大きなガラスを使用。「近隣の方々から、『地域を誇れる場所をつくってくれた』と当社社長宛に感謝状が届いたんです」


「このプロジェクトは我々2人だけで成し遂げたものではなく、現場を管理する者、業者さんや職人さんなど多くの方々の協力があったからこそ完成できました」(マルイユ)


「設計とインテリアは、想像力を膨らませながらデザインを生み出します。そのアイデアを施工管理者や職人さんが実際の空間として具現化していく。図面や数値だけでは分からない部分も、現場での丁寧な調整や工夫によって、理想の空間が現実のものとなります。こうしたプロセスを経て完成した空間は、関わったすべての人の想いが形となって、訪れる人々に感動や心地よさを届けてくれているのだと思っています」(マルイユ)


「今回の経験も含めて当社のノウハウとして蓄積し、後輩たちに引き継いでいきたいと思っています。また、特殊・高額物件に対応していくためには現状のルールの中では十分でないのが現状です。足りないものを見極め、デザインの深化と並行して研究開発もしていけたらと思っていますし、それが最前線で世の中のニーズと向き合う我々の使命でもあります」(河村)


今回のプロジェクトで得られた知見は、住宅やレストラン以外の業態や新たなプロジェクトにもフィードバックできる可能性を持っている。住友林業だからこそできる価値創出を、これからも模索し続けていく。







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