鹿児島の銀行員が週に2〜3回、片道1時間半をかけて餃子の製造・販売を手がける会社へ通う。そんな光景が、いま生まれている。地域の企業を「融資」で支えてきた銀行が、「投資」という新たな形で経営に深く関わる時代が到来しつつある。
九州に17店舗を展開する「ぎょうざの丸岡」と銀行の意外な接点
2月11日、鹿児島市内のスーパーの一角。開店前から女性スタッフたちが慌ただしく準備を進めていた。冷蔵庫に並ぶのは餃子、レジ前には秘伝のタレ。九州に17店舗を展開する「ぎょうざの丸岡」の新店舗オープンの朝だ。
豚肉とキャベツがたっぷり入ったあんをもちもちの薄い皮で包んだ、昔から変わらない餃子は鹿児島でも根強い人気を誇る。そのオープンの場に、2人の鹿児島銀行の行員が深く関わっていた。
銀行法改正が生んだ「投資」という新しい選択肢
なぜ銀行員が餃子会社の新店舗立ち上げに携わるのか。その背景にあるのは、2021年の銀行法の改正だ。
改正以前は、銀行が企業の株式を取得して経営に関わる出資は、対象企業や期間が厳しく限定されていた。しかし規制緩和により、銀行は投資専門の子会社を通じて、より自由に企業への出資が可能となった。これにより、従来の「融資」に加え、企業の株式を取得する「投資」に乗り出す銀行が増えている。

こうした流れについて、神戸大学経済経営研究所の家森信善教授はこう指摘する。
「単純なお金を貸す形では、もはや中小企業、地域の企業のニーズに応えられなくなっている。『どこに売ったらいいの?』とか『後継者を育成できない、見つけられない』とか(様々な課題に)悩んでいる企業が今多い」
鹿児島銀行が設立した「かぎん共創投資」の挑戦
この流れを受け、鹿児島銀行は2023年に投資子会社「かぎん共創投資」を設立した。鳥丸陽一常務は、融資と投資の関わり方の違いをこう語る。
「株を譲り受け、企業の経営に直接関与しているが、企業価値を高めていくことを使命として地域経済の活性化と拡大に貢献したい」
2025年1月、鹿児島銀行はぎょうざの丸岡との間で、これまでの融資に加えて投資の取引を開始。「かぎん共創投資」の立ち上げメンバーであり鹿銀行員も兼務する田中剛司さんが、社外取締役として週2〜3回、片道約1時間半をかけて宮崎県の丸岡本社へ通っている。

「味が変わる不安があった」――現場の声と信頼の築き方
投資事業で最も難しいのは、企業とのコミュニケーションだと田中さんは言う。
「経営者や従業員の思いが一番重要だと思う。今までやってきたことを変えてもらったりしなければいけないので、どうやって伝えたらいいかなとずっと考えている」
丸岡で25年働く製造部の上野佳奈チーフも、当初は不安を感じていた一人だ。
「丸岡が今まで積んできた形が崩れていくことや、味が変わっていく不安があった」
しかし、銀行側の姿勢を間近で見るうちに気持ちが変わったという。「(鹿児島銀行が)この会社を良くしていこうとしているのが分かったので、今は一緒に頑張っていこうと思っている」

銀行のネットワークで新たな顧客層へ
月に一度の役員会議では、丸岡の経営陣とかぎん共創投資のメンバーが新店舗の戦略や広告展開を活発に話し合う。試食の実施や折り込みチラシへの活用など、具体的なアイデアが飛び交う場面も。
今回、鹿児島市のスーパーへの出店には明確な狙いがあった。「餃子目当てではないスーパーの買い物客の取り込み」だ。独立した店舗展開が多い丸岡だが、鹿児島銀行の持つ広範なネットワークを生かし、賃料や立地の条件が整った場所を探した。
丸岡久浩社長は銀行との連携をこう評価する。「やはり(銀行は)情報量が違う。このようなタイアップはなかなか難しいので良かったと思う」

2026年に創業80年を迎える丸岡。「1回食べればファンになってもらえると思うので、まずは1回食べてほしい」という社長の言葉には、変わらぬ自信と、新たな挑戦への期待が込められている。
田中さんは言う。「鹿児島には、ずっと続けていきたい事業やより広げていきたい会社がたくさんある。長く鹿児島の企業として全国に届けるためにサポートしていきたい」
「貸し手」から「伴走者」へ。地域経済の要である銀行の役割は、静かに、しかし確実に変わりつつある。
(動画で見る▶「貸すだけじゃない」地方銀行が出資で伴走 スーパー出店を後押しした鹿児島銀行の新戦略)
